21.奇襲、交戦、そして… ①
下層から、何かが飛んでくる。それは、大小様々な黄緑色の風船のようなものだった。
「注意分散のトリックか」
ただ浮かんでいるだけだとわかると、キアーラは興味を失ったように視線を外した。
その時、鋭く甲高い鳴き声が響いた。続いて連絡橋の上に何かが飛び出し、戦闘員たちを翻弄する。
キアーラも弾かれたようにそれを見た。
「機元鳥?!」
美鈴と依織も気付き、
「鳥型のロボット?」と美鈴が呟いた。
その姿は、依織には見覚えのあるものだった。
「コダマちゃん!」
「お姉さん、あのロボットとお知り合いですか?」
「うん、トオルくんのロボットよ。しかも、戦闘機能あり」
依織が声を潜めたので、美鈴はうかつに反応しないようにした。
「そんなものまで作っていたんですね」
背中合わせのまま、依織は囁いた。
「良い、白河さん?目を閉じて」
「目を?なぜですか?」
「良いから、目が痛くなるよ」
そう言いながら、依織はもう目を閉じている。
「分かりました……」
信じるしかない美鈴も目を閉じた。
コダマを見た戦闘員たちの中から不安の声が上がる。
「あんな完成度の高い使役体を、新苗が作ったのか?」
「とはいえ新入生だ。地球界の技術に惑わされるな、撃ち落とせ」
だが、戦闘員たちがコダマに照準を合わせ、何度撃っても、彼女は全ての光弾を躱していった。
何度もバスター砲を撃っているうち、戦闘員たちは次第に体力低下の兆しを見せた。弾の充填にかかる時間も延びている。
その時、コダマは翼を大きく伸ばした。胴体のブースターが作動しているため、コダマは翼を動かさないまま、安定して中空に浮いている。
コダマは展開した翼の裏側から、強烈な光を発した。LEDライトの100倍はあろう鮮烈な光が船室を照らす。現場がホワイトアウトするほどの眩しい光に照らし出され、戦闘員たちは絶叫した。
「眩しい!!」
「目が、俺の目があああ!!」
「何も見えなくなる!!!」
戦闘員たちが戦闘不能状態となり、キアーラも強い光を遮るよう、腕で目を覆う。
「チッ、小賢しいスキルだ。俺の邪魔をする気か?」
次にコダマは二本の脚の爪先から、砲弾を射出した。砲弾からは網が展開され、戦闘員たちを狙う。眩しさに視界を奪われている戦闘員たちはそのまま網に絡め取られた。トオルは爆発系の武器で人質を巻き込まないよう、コダマにコマンドを与えていたのだ。
そして網に30万ボルトの電圧が流されたが、電撃の効果はあまりなかった。戦闘員たちのボディースーツには電気抵抗機能があった。それでも、網の拘束により、一時的な動きを封じる効果はある。
コダマはライトを消したあとも三度、網を射出し、さらに6人の動きを封じた。
目の裏の明るさが変わったことに気付き、依織はうっすらと目を開けてみる。
(よし、今のうちに……)
依織は両手に力を入れ、後ろ手になった縄の結び目を解こうとした。
混乱する戦闘員たちの元に、今度は穣治と大輝が黄緑色の大きな風船に乗ってやってきた。
大輝が右手にハンドボール大の光弾を作る。そして、黄緑の風船から飛び降りると同時にそれを投げ出した。戦闘員の一部が、網で身動きが取れないまま弾の餌食となる。
大輝が橋に着地し、左手にもう一度、光弾を集め始めた。ほぼ同時に着地した穣治が、右手に持った鞭を振り払う。鞭の柄からは6本の糸が伸び、それぞれの先端に鋭い錘が付いていた。
大輝の攻撃を受けた戦闘員が立ち上がり、今度は穣治に向かおうとした。だが、錘は6匹の蛇のように、6人の戦闘員の手首や足首に刺さり、ダメージを与える。穣治が手を挙げると、蛇たちは蛇使いの元へと戻ってきた。その攻撃で一人の戦闘員が倒れ、穣治はさらに走りながら、鞭を振るって他の戦闘員たちを倒していく。
キアーラもコダマの網に覆われたが、瞬時に高温の手袋で握り燃やした。
「お前ら、こんな未熟な新苗相手に何をしてやがる。それでもデストロンドの兵士か?」
キアーラは威厳を保とうとしていたが、シトロの話の後では、信頼は崩れかかっていた。クリーフのような裏切り者が出てきたことで、他にも同じように考えている者がいるのではという疑心も浮かぶ。戦意が下がっていたところを上手く突いた、穣治と大輝の奇襲だった。連絡橋の反対側からは、他の新入生も応戦して、人質の救助に当たったり、戦闘員たちと果敢に交戦したりしている。
大輝が二発目の光弾を撃ち、また一人、戦闘員が倒れた。
「小僧、生意気にも程がある!」
派手な攻撃がキアーラの目に留まった。キアーラは左手の装備にブロンズ色のエネルギー弾を集めていく。しかし、その手を穣治の鞭が打った。
「お前、経験者か?」
「初心者に八つ当たりなんて、大人げねぇぜ?」
「相手が何だろうが、邪魔する者は殺す!」
キアーラは真っ赤に燃えた手を挙げる。
穣治はその場を跳び離れると、腕を大きく挙げて回し、鞭を打った。一本の鞭からまた6つの蛇が飛び出し、キアーラの首、関節、腹などの弱点を狙い打つ。
キアーラは一旦身を退き、錘の攻撃を躱した。首を狙った錘だけは、左手のアーマー装備で打ち払う。
穣治は攻撃が外れた鞭を引き戻しながら、周囲の戦闘員たちとキアーラの能力差を感じていた。
「こいつ、強いな。戦いに慣れてる」
穣治がキアーラを相手取っている間に、大輝が美鈴の元へと向かった。
「美鈴、大丈夫か?」
「大輝くん!助けに来てくれたの?」
「当然だろ、すぐに解くからな」
美鈴が背を向ける。だが、大輝がどれだけ力を込めても、縄を解くことはできない。
「クソッ、何で解けないんだ」
遠くから、「付いてきやがれ!」というかけ声が聞こえてきて、美鈴が反応する。
「大輝くん!また悪い人たちがたくさん……!」
別の廊下から、増援が集まってきていた。新たな戦闘員たちが大輝と美鈴に向けてバスター砲を翳している。
「まだあんなにいたのか?!」
美鈴や他の人質がいることを意識した大輝は一旦、縄を諦めた。右手に源の光を集めながら立ち上がる。美鈴を守るように一歩踏み出し、雪玉を投げるように光弾を撃ち出した。
光弾が当たり、爆発が起こる。しかし、戦闘員たちはまだその場に立っていた。
「効いてない?……源を集める時間が足りないのか、クソ……」
技を受けても戦闘員たちはほとんど無傷らしく、あざ笑うように大輝を見た。
「何だ、この脆弱なスキルは」
「あの新苗は闘士か、まだまだド素人だな」
「生意気なガキに灸を据えてやるか!」
大輝たちと戦闘員の間には、10メートル程の距離があった。肉弾戦には間に合わない。飛び道具に対応する術を持たない大輝は、両手を大きく左右に伸ばした。
「撃つなら俺を撃て!」
「大輝くん、ダメ!!」




