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20.奪還 ⑤

船の5階にある連絡橋では、交渉が続けられていた。

シトロは、かつてセントフェラストで起きた、キアーラの逸話を話している。


「当時君は、レーガライザー騎士団の一員じゃった。だが君は少々、実績を積んでいたから、団長の方針とのすれ違いを力で抑えこもうとしたんじゃな。そして、揉み合いの結果、彼を殺害した」


 キアーラは、あまり思い出したくないことを無理やり思い出させられ、脳内にノイズが生じることが気に入らなかった。そして、自分の行為を正当化するように言う。


「先に手を出したのは奴の方だぜ?穏健な保守派だったくせにな。俺は自分が生きるために抗った。死んだのは、奴にそれだけの力がなかっただけだろ」


「その通り、君の抵抗は自衛迫撃容認条例に基づき、尊重される。じゃがのう……。その後、幹部が脱退していき、団員不足により騎士団は解散となった。それから君は、批判してきた友人や仲間の命を奪い続けた。君が退学となったのは、むやみな殺戮のせいじゃろう?」


「死んだ奴のことまで、いちいち覚えてねぇなぁ」


 シトロはキアーラの心を掴むように言葉を紡ぎ続ける。


「良いんじゃ。セントフェラストが全てではない。場所に縛られず、君は自分の信じる思いを固く強くしていけば良い。いずれ必ず、認め合える仲間と出会い、君とその仲間たちで、この世界に貢献していけるはずじゃ」


「うるせぇよ。俺は邪魔なものは全て潰す。仲間なんていらねぇ。俺を畏怖する奴だけが付いてくればいいんだ」


「ふむ……君に残されたのは口だけじゃったか……。主君に臣服したのはまぁよい。じゃが、雄志や野心を洗い流され、君はただの駒に成り下がったわけじゃな。大器小用じゃのう……」


 周囲の戦闘員が自分を見て陰口を叩いていることに気付き、キアーラは内心、焦っていた。

 シトロがバラした在学中の事件は、キアーラがデストロンドで築いてきた威信を崩し、戦闘員との上下関係を崩壊させる内容だった。


「黙れよジジイ。さっさと交渉の答えを出せ」


「うむ。アレン・ブローハイムの追放刑撤回については、審判省に提言しよう。ただ、彼の犯した罪は重い。説得は試みるが、判決を下すのはワシではないからのう。ま、一日二日で結果の出る話ではないじゃろう」


「お前が強く命じれば、連邦機関も検討せざるを得ないだろ、学長サマよぉ?」


 煽るようなキアーラの言葉も、シトロは平然と受け流す。


「ふむ。二つ目の50人の復学については簡単な話じゃ。当学園はいつでも門を開いておる。復学の方法は開学以降変わったこともない。何も人質を取って脅すというようなろくでもない方法を採らずとも、認められることじゃ」


「んだと?どういうことだ」


「よく考えてみなさい。君たちは皆、一度は罪を犯した。じゃが、その罪を遙かに超えて、人類や世界に貢献するような功績を挙げたなら?セントフェラストへの復籍など簡単なことじゃろう。そうじゃな、例えば目の前で起きている悪事を留めるための手助けなども良かろう」


「なっ!」


 シトロの言葉は、船内に散らばるすべての戦闘員にも届いていた。キアーラの暴露話を聞いて動揺していた戦闘員たちからは、促進剤を飲まされたように反旗の声が上がり始める。


「アルホフさん……悪い。俺、どうしてももう一度、あの学園でやり直したいんだ!」


 一人がそう言い始めると、もう止まらなかった。「僕も」「私も」と次々に声が上がる。


 中には、デストロンド本体に対しての不満を言い出す者まで現れた。


「ずっとデストロンドの兵士として底辺を支えて戦ってきたけど、階級はいつまでも上がらず、尉士や侯爵からは虐げられて……もうたくさんだ!」


 揺れる戦闘員の中にはまだ、デストロンド擁護派も多い。


「お前ら、正気か?気をたしかに持てよ」


「そうだ、ブローハイム様を裏切るつもりか!?」


「いや待て……。アルホフさえ倒せば復学だぞ?実績作りのチャンスでもある」


 戦闘員たちの意見は割れ、団結に亀裂が生じた。


 鼻先に吊り下げられた餌のように、戦闘員の数人が目先の実績に心を奪われたらしい。彼らは示し合わせたようにバスター砲の銃口を人質から外し、キアーラに向けた。


「キアーラ・アルホフ!観念しろ!」


 一人がそう叫んだ直後、7発の光弾がそれぞれのタイミングで放たれた。キアーラは被弾し、爆発が起きる。


「やったか……?」


 戦闘員たちは固唾を呑み、爆煙が散るのを待った。

 しかし、煙の跡にキアーラの姿はない。速やかに回避した彼は、全くの無傷で戦闘員に近付き、音もなく彼の持つ銃を、その手首ごと斬り落とした。


 戦闘員は一瞬後、手首の先がないことに気付き、総毛立った。


「お、俺の手がああああ!!!」


キアーラの左手の装備から、高温の鉄の刃が伸びていた。


「裏切り者には死を与える」


 キアーラは躊躇いなく、その戦闘員の体に刃を貫通させた。

 叫びは止まり、戦闘員は自分の体を貫く装備を見ている。そして、勢いよく刃が抜かれると、戦闘員はぱさりとその場に倒れた。


「いや、怖い……」


 目の前で人の命が奪われる瞬間に立ち会った美鈴は、あまりの恐怖でとっさに顔を逸らした。


 依織も恐怖心はあったが、それよりもキアーラの非道な行いに対する怒りを湧かせていた。


(味方を殺すなんて、酷い……)


 数瞬。キアーラは他の反逆者二人の首も斬り落とした。人質だけでなく、戦闘員からも悲鳴が上がり、恐怖の輪が広がっていく。


「次はお前か?」


「こ、こっちにくるな!」


 睨まれた戦闘員がバスター砲で攻撃をしたが、キアーラは右手のグローブで光弾を受け止める。


「俺を邪魔するカスはくたばれ!」


 キアーラは戦闘員のマスクを握りつぶした。ジュッと肉の焼ける音と、鼻につく匂いの煙が上がる。キアーラは高温の金属製グローブでその顔面を掴んだまま、戦闘員を連絡橋から投げ落とした。吹き抜けの真下から、バン、という衝撃音が響いた。


「他に、俺に刃向かう奴はいるかぁ?」


 無慈悲な殺戮は、集団の士気を乱れさせないためでもあった。謀反を企てれば始末される。恐怖を植え付けられた戦闘員たちは、支配下から抜け出すことを諦めるはずだ。


「キアーラ様、もう十分でしょう」


「リーズか。デストロンドに裏切り者は不要だ。使う価値もない」


「キアーラ様の強さは伝わりました。これ以上味方を減らせば戦力低下に繋がります」


「アルホフくん。君は今、ワシの目の前で四名の戦闘員を殺した。つまり君は、交渉を破棄したんじゃな?」


 キアーラが真っ赤な刃で一筋刻むと、人質の男子の首がぼとりと落ちた。


「これが俺の答えだ。人質も四人殺せば同じ話だよなぁ?」


 学長は表情を変えないまま、しばらく無言でいた。人質たちも恐怖に支配され、誰一人声をあげない。


「キ、キアーラさま!」と、一人の戦闘員が声を上げた。


「何だ?お前も死にてぇのか?」


 殺気立つキアーラに睨まれ、戦闘員にも緊張が走る。それでも報告を続けた。


「ち、違います!ブリッジと避難室から伝言です。ブリッジの兵士が襲撃を受け、我々の支配下から逃れたとの通達が入りました!」


「何?ブリッジはレイフがいるはずだろ。戦闘員も15人は配備した。……ダイラウヌスの尖兵か?どこから入ってきやがった」


「頂上階層からです」


「フェジがいただろ?」


「最上階のフェジは全滅です……!ジン様たちも現在、セントフェラストの案内人と交戦中ですが、敗走したとの情報も入っています」


 フェジの全滅のみならず、幹部クラスの敗走を聞かされ、さすがのキアーラも動揺した。


「あの四人が敗走だと?!相手は何者だ」


「わ、分かりませんが……どうやら、ディアホロスを使役しているとのことで……」


 聖霊の名を聞き、キアーラはゾッとして鳥肌が立った。


「ディアホロスだと……。守護聖霊の使い手なんざ、只モンじゃねぇぞ。捕まるフリをしてたのか。クソ、読まれた。……まさか、デストロンド内に密告者がいるのか?」


 キアーラの背中に冷たい汗が伝った。そして、金属を溶かすような怒りの炎がキアーラを満たしていく。


「クソジジイ!!謀りやがったな!」


「ホホホ、何のことじゃ?君の交渉手腕の結果じゃろう」


「ジジイ、最初から交渉に応じる気もなかったってことか」


「それは違うのう。ワシは君にチャンスを与えた。取り消したのは君自身じゃ」


「ウゼぇ!」


 キアーラが右手でシトロを殴った。立体映像は蜃気楼のように霧散し、シトロの姿は消えた。


「クッッッソ、交渉は失敗だ。生け贄は一人残さず殺せ!!」


 鬼のような形相でキアーラに命じられ、戦闘員たちは一斉に人質たちへと銃口を向けた。


 その時、強い光が走った。三人の戦闘員がその場に倒れる。どよめきが広がった。


「これ以上、人質は一人たりとも殺させない」


 そう言い放ったのは、一人の戦闘員だった。彼はバスター砲ではなく、刃渡り70センチもあろうソードが伸びるライフルを持っている。いわゆる銃剣だ。彼が装備のスイッチを押すと。マスクが外れた。コーヒーブラウンの短髪に、鼻と顎が突き出るように高い顔。背の高い白人の彼は、程良く筋肉質な体型をしている。


「ゲネル、貴様!?」


 ゲネルと呼ばれた男は、自信に満ちた笑みを見せた。ブルーグレーの目と眉に気力がこもる。ゲネルがソードライフルを片手で発砲した。6連続で射出されたあまりに強い光弾が戦闘員を撃つ。こらえきれず、橋から落下する戦闘員もいた。


 キアーラはゲネルを見る。その目には強い怒りがみなぎり、野獣のような唸りを上げる。


「ゲネル、お前まで裏切るのか?」


「交渉に失敗したのはあなたの腕が足りなかったからだ。上手くいかなかったからといって、人質を始末するというやり方は認められない」


「生け贄をどう扱うかは俺の勝手だ。階級が上の者に逆らうような謀反の種は残らず摘み取る。どうやら真っ先に始末すべきはお前だな、クリーフ・ゲネル。お前ら、やれ」


 クリーフ・ゲネルは答えるよりも早く、バスター砲で自分に狙いを定める二人の戦闘員を撃つ。さらにキアーラを撃った。


 キアーラは一発目を避けると、左腕を挙げた。赤く燃えた金属の刃が納められ、代わりにバリアが展開すると、次の射撃を受け止めた。


 リーズが鉤爪を伸ばし、クリーフを襲った。謎の粒子でできたその鉤爪を、クリーフは間一髪、ソードライフルの刃で受け止める。


「君はなぜそこまでして彼を擁護する?」


「主の命令は確実に遂行します」


「せっかく可愛いのに、何でも言うとおりなんて勿体ないね」


 リーズが力を押し切ろうとすると、クリーフは防御態勢のまま左足を蹴り出した。腹に蹴りを入れられ飛ばされたリーズは、着地と同時に反対の掌をクリーフに向けて呟く。


「Rom」


 また別の紋様が展開し、クリーフの元へ電流が走っていく。


 クリーフはサンダーブレイクを躱すと、ただちにライフルで反撃に転じた。


「そうか、君はたしか『章紋術ルンクレスタ』が得意だったな」


「キアーラ様!」


 リーズとクリーフの交戦中、戦闘員が叫び声を上げた。


「今度は何だ?」


「下層に配置していたチームから報告です。新苗が動乱を起こし、兵士たちは逃走中。もう下は抑えられません!」


「経験者が動いたか?」


 キアーラがその場から下層を見下ろすと、客室にいたはずの新入生が、フェジや戦闘員と交戦しているのが見えた。


「ん、あれは?」


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