親子の形
太陽は西へと傾き春彦は伽羅と共に譲の迎えの車に乗り込んだ。
そして
「武藤さん、調べられるところまででいいので明日までに村瀬隆二と大岡太蔵と彼の妻と楠野蓮司との関係を調べておいてもらえますか?」
と告げた。
譲は運転しながら
「かしこまりました」
早速調べさせるように手配いたします
と答えた。
急かしただけあり、火曜日の朝に春彦は譲から報告を受けて驚くと
「じゃあ、村瀬隆二が名古屋の病院で楠野蓮司を…」
と言い
「それで大岡太蔵が略奪愛をしたというわけじゃなかったのか」
でも結局は妻の梨沙子は大岡太蔵と結婚して政を生んだってことか
と呟いた。
春彦は火曜日の夜に幾つかの可能性を考えながら大岡太蔵の元へ向かう前に一本電話を入れてから約束通りに大岡家へと向かった。
家の周辺にはボディーガードが配置についており春彦は車から降りると迎えに出ていた大岡太蔵に一礼した。
「お邪魔致します」
大岡太蔵は笑顔で頭を下げ
「こちらこそ、ご足労願い申し訳ない」
と答えた。
部屋は落ち着いた洋室で家政婦の女性が二人の前にお茶を置いた。
春彦はそれを一口飲むと
「そう言えば、息子の政さんとは別居されているのですね」
と聞いた。
太蔵は頷いて
「ええ、私が画家だからと言って息子の人生を束縛はしたくなくてね」
息子には進みたい道を進んで欲しいと思っている
と告げた。
春彦は少し考え
「そうなんですか、15歳くらいまでは絵を描いていたとお聞きしたんですが」
と聞いた。
太蔵は「ええ」と答え
「そのまま絵の道に進みたいというなら私も力になりたかったのですが絵を描くのがつまらないと」
イベント会社に入社したと突然言ってきて
と溜息を零した。
「子育ては本当に難しい」
春彦は更紗のことを思い出し
「…俺もそう思われているのかもしれないですね」
と小さくぼやいた。
それに太蔵はハハハと笑って
「いや、しっかりなさっているのでそんなことはないでしょう」
と告げた。
春彦は力なく笑んで
「だと良いんですけど」
と言い
「それで…先ず、脅迫状をお見せいただけますでしょうか?」
と告げた。
太蔵は用意しておいた封筒を渡した。
春彦はそれを手に取り開くとプリンターで印刷された紙を見た。
『お前に美術を審査する資格はない福岡芸術展の審査委員を辞退しなければ天誅をくだす。時効が来ようとお前のしたことが無くなることはない』
春彦は目を細めて
「紙の裏に薄っすらと筋が付いてますね」
それに印字にも癖がありますね
と言い
「この紙を預からせていただいても良いですか?」
と聞いた。
太蔵は頷いた。
春彦は更に
「実は貴方が知りたがっていた楠野蓮司さんの消息が分かりましたのでご報告しておきます」
と告げた。
太蔵は大きく目を見開くと
「お願いします」
と答えた。
春彦は頷くと
「彼は九州を出て直ぐに亡くなっています」
ガンだったそうです
「名古屋の病院で亡くなり遺体は村瀬隆二さんが引き取っています」
と告げた。
「楠野蓮司さんは天涯孤独だったんですね」
太蔵は驚き同時に落胆すると
「ガン…だったのか」
だから
と呟くと
「ええ、楠野の両親は早くに亡くなり二人とも親類がいなかったので」
と告げた。
春彦は太蔵の顔を見つめ
「10年前の喧嘩をした原因をお聞きしても良いですか?」
と告げた。
太蔵はフムッと考えた。
春彦は彼を見つめ
「大岡さんの奥さんも10年ほど前に亡くなっていますね」
それに25年前、お二人が20歳の時に奥さんを巡って喧嘩をしたというお話を聞いたのですが
と告げた。
「その後、奥さんは大岡さんと結婚して直ぐに政さんを生んだ」
太蔵は春彦の顔を見て
「…かなり調べられたようですね」
と告げた。
「察しの通り政に言っていないですが…政は妻と楠野の子供です」
春彦はフムッと息を吐き出した。
「やはり、そうだったんですね」
10年前の喧嘩は
太蔵は観念したように
「ええ、妻が病気で長くないことが分かり楠野に彼女と政に会うように進めたことが原因です」
まさかその時に楠野までがガンだったとは
と拳を握りしめた。
「25年前、妻は楠野が好きだった、勿論、楠野もだ」
分っていた
「だが、楠野は私の気持ちに気付いていて身寄りのない自分より代々画家の家系の私と結婚した方が幸せになるだろうと」
彼女と結婚した私はがむしゃらに絵を描いた
「だが、楠野が去り、彼女が亡くなった時に打ちのめされてね絵を描く気が起きなかったんだ」
春彦は頷いて
「けれど、同時に弟子を取り初めましてけど」
と告げた。
太蔵は「ああ」と答え
「私がこのまま絵を描かなくなってしまったら息子をどう成長させようとかと思ったら…私と楠野のように切磋琢磨する人間がと思ってね」
と告げた。
「だが、直ぐに息子は絵をつまらないと辞めてしまってね」
息子も妻が励ますし私も励ましていたから無理に描いていたのかも知れない
春彦は視線を伏せた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




