遠い日の約束
部屋の中には島津更紗と春馬と春彦と夏月直彦と津村隆と白露元の六人と武藤堂山と武藤譲の二人が部屋の隅で控えていた。
白露元は息を吸い込み吐き出すと
「我々はベースシステムを停止しようと思います」
と最初に告げた。
「そのため春彦君に東京へ一時帰宅してもらいたいと思います」
それに春馬は腕を組むと
「ベースシステムの停止か…取り敢えず現状を変えないところから手を付けようというわけか」
と告げた。
それに元は頷いた。
「13のシステムの停止はそのシステム配下の家系と話し合わなければ夏月と春彦君の命がいくつあっても足りない上に恐ろしいほどの混乱を生むと思っています」
むやみやたらには出来ないと思っています
それに春馬は小さく息を吐き出した。
「それは分かっているんだな」
更紗は三人を見ると
「一つ私から話があります」
と告げた。
「そちらの皆さんは春彦を一時帰宅と言われましたが春彦は私と春珂さんの子供」
この子を夏月の姓から島津の姓へ戻す準備があります
それに春彦自身も驚いて更紗を見た。
直彦も隆もある程度想定していたように春彦ほどの驚きを示さなかった。
何時か言われるだろうとは思っていたのである。
直彦は春彦を見ると
「春彦、それはお前の決めることだ」
夏月のままでいるか
島津の姓になるか
「お前にはもう決められると思う」
と告げた。
春彦は顔をしかめると
「俺は、夏月春彦で…直兄に弟だ」
と俯いた。
春馬はハァと息を吐き出すと
「まだまだ、こいつはガキだな」
とぼやいた。
直彦は春馬を一瞥して春彦を見ると
「一つだけ言っておく、春彦」
お前は確かに俺の弟だ
「だが島津家の次男であることも確かな事実だ」
と告げた。
「俺は秋月家の当主を受け入れた」
俺もお前と同じで秋月家の長男でもある
「お前は秋月の俺を兄とは思わないのか?」
更紗さんはそう言う事を言っているんだ
「両方そのまま受け入れろと」
島津の次男であることを正面から受け入れろと言っている
春彦は直彦を見つめ唇を噛みしめた。
直彦は微笑むと
「春彦、大丈夫だ」
俺とお前は兄弟だ
「俺は今もこれからもずっとそう思っている」
と告げた。
春彦は視線を伏せて
「それでも、俺の気持ちが決まるまで待って欲しい」
と答えた。
直彦は頷くと
「勿論だ」
と答えた。
更紗は静かに微笑むと
「皆さんに話しておくことがあります」
春彦にも春馬にも
「27年前の…島津家のことです」
と告げた。
「そして17年前に春珂さんが春彦を連れて島津を離れたそのことを」
全員が更紗を見た。
更紗は堂山を見ると
「27年前の話を」
と告げた。
堂山は頷き
「かしこまりました、更紗さま」
と言い、唇を開いた。
「この話は我が武藤家にとっては最大の醜聞でした」
磐井栞さまの導夢の噂が広がり九州の特別な家系
「特に島津家にとってはシステムを止めるかもしれないという疑惑を持たれて存亡の危機にまで発展しておりました」
それには全員が言葉を出すことができなかった。
それは13のシステムを止める障害となっていることと同じだからである。
「島津春樹様と秋月直樹様がシステムを止めて特別な家系を解体するということは島津家の当時の当主である春美様にも大きな心配の種でした」
そんなことになれば島津家自体も解体されるからです
「先日、その噂を羽田野親子が羽田野家を特別な家系にするために広げた罠だと分かりましたが当時はとにかく事態の収拾に動くしかありませんでした」
春樹様と春珂様を守る為に
「しかし」
「春美さまが春樹様にその真意を確かめるために大学から呼び戻そうとした時に暴漢に襲われお命を落とされました」
当時はそんなことをする者がいるとは思わなかった
「我々武藤家が甘すぎたのです」
武藤家の当主である我が父はそれを悔いて亡くなりました
それに譲は視線を伏せた。
春彦があの狙撃で死んでいたら…自分もまた一生悔いて死ぬことになっていたのだ。
堂山は全員を見回し
「病院へ運ばれた時に春樹様は意識があったのです」
そして駆け付けた春珂様に
「『もし二人以上子供が生まれたなら二人目の子を欲しい』と『孤独を生きる直樹に寄り添う子供を俺に欲しい』と言い残されたのです」
春樹様は全てを知っておられたのです
「春珂さまはその春樹様の今際の約束を10年後に果たされたのです」
と告げた。
直彦は3か月だけだったが義父として自分を訪ねてきた春珂の本当の真意を今初めて理解したのである。
「俺の弟を運んできてくれたんだな」
『直彦君、春彦の名前はね。島津の春と直彦の彦だよ。今日から春彦は直彦君の弟だからね』
…きっと君を守ってくれる子になるよ…
直彦は春彦を見ると
「お前は島津と秋月を繋ぐ子供だったんだな」
と告げた。
島津春樹から島津春珂へ。
それは秋月直樹から直彦へ。
祈りと願いを受けて直彦の元へと運ばれてきたのだ。
更紗もまたその全てを知っていたのだ。
だからこそ数奇な運命の中で戻ってきた春彦を長く側にいなかった子供であっても春馬同様に愛したのだ。
愛せたのだ。
春馬はふぅと息を吐き出すと
「俺は島津家の当主だ」
島津を守る義務と責務がある
と言い、春彦を見ると
「その守るべきものの中に春彦、お前も入っている」
忘れるな
と告げた。
「お前はそいつの弟だ」
だが俺の弟でもある
春彦は春馬を見ると
「ありがとう、春馬兄さん」
と言い
「だったら俺も島津の家系を守る役割を受けた一人としてそれを全うする」
と告げた。
…島津春彦として…
「直兄と共に且つて島津と秋月が担ってきた役割をお父さんや母さんや兄さんやこれまでの島津の人たちに恥じないように担いたいと思う」
更紗は春彦を見ると
「春彦、一つだけ約束してくださいね」
必ず無事に家に帰ってきなさい
「そのままの私が産んだ春彦のままで帰って来るのですよ」
と告げた。
春彦は笑顔を見せると
「はい」
と大きく頷いた。
直彦はその言葉の意味を理解し視線を伏せると沈黙を守った。
話し合いが終わると春彦は部屋で待機していた伽羅に明日から一週間ほど東京へ戻ることを伝え、翌日の朝に直彦と隆と元と武藤譲の5人で東京へと旅立った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




