巌流島の恋人たち
それに自分が寝ている間に事件で遭遇した允華と晟の知り合いのディテクティブGのゴッポこと港川絢華や退院直前に駆けつけてくれたデビペントこと長坂真理子らにどれだけ心配をかけたか。
しかも平水万里江までもが赤阪瑠貴と神守勇から聞いて心配して慌てて春馬へ連絡を入れてきたのだ。
探偵事務所のオーナーの海埜七海まで駆けつけたのだ。
本当にこのままではダメなのだと理解したのである。
春彦はそれを思い出して
「俺はそう言う意味ではただただ走っていただけのダメダメ探偵だったんだよな」
と呟いた。
伽羅はそれに
「けどさ、允華さんが言ってたじゃん」
自分には無くて春彦にある探偵に一番大切な要素
「犯罪を止めるために心を砕ける意識」
だから春彦は良い探偵になれると思うけどな
「伸び代があるって思えばいいと思うけど?」
俺も絵を習っている先生によく言われる
「まだだと思ったらその時は『伸び代がある』って思えばいいって」
と笑顔を見せた。
春彦は笑顔を見せると
「そうだよな。ありがとう、伽羅」
凄く良い先生なんだな
「よし!伸び代があるってことか」
頑張らないとな
と呟いた。
そう、允華が東京へ戻った後に兄の直彦に連絡した時に大切な話ということで様々なことを教えてもらった。
それはこれまで春彦が九州で手に入れた情報だけでなく各地を回っていた東雲夕矢やその兄の夕弦たちが手に入れた情報などの統括的な内容と直彦自身が秋月直樹と対面したことである。
春彦はその事を思い出してベッドの上で伽羅を見た。
伽羅は真剣な春彦の視線を受けて
「?どうかしたのか?春彦」
と聞いた。
春彦は腕を組むと
「伽羅には言っておいた方が良いかも」
と言い
「実は直兄から允華さんが帰った後に電話した時に聞いた話なんだけど」
と告げた。
伽羅は「うん」と真剣な表情で頷いた。
春彦はそれに唇を開いた。
「27年前の九州での事件は伽羅も大体わかっていると思うんだけど」
その時に亡くなったはずの秋月直樹が俺の手術中に現れたことなんだけど
「秋月家当主は特別な家系を支えているシステムの番人なんだと思う」
だから回帰再生の機能がシステムに組み込まれていて死ねないんだと思う
「恐らくクローンとかそういうたぐいなんじゃないかなぁって俺は思ってて」
そのクローンが目覚める時に知識とか記憶とかを流し込まれて継続して番人を続けることになっているんだと思う
伽羅はそれに息を飲みこんだ。
春彦はふぅと息を吐き出し
「俺はまだ赤ちゃんだったけど父さんからシステムを引き継いだ時にその知識を転送されたんだ…多分システムの前に行ったら間違いなく操作できる」
だから分かるんだ
と言い
「それも含めて直兄は受け継いだんだな」
と心で呟いた。
それは春彦と津村隆を始めとした兄チームの面々と允華だけの秘密だと言っていた。
他の人間には言ってはいけない事なのだ。
春彦は更に
「それで九州でのシステムはあの汽水湖の湖だと思う」
島津や神宮寺、伊藤など特別な家系が共同で管理している学校の横の森のところ
と告げた。
伽羅は驚いて
「マジで!?」
と聞いた。
春彦は「ああ」と声を零すと
「菱尾湖南の乙女シリーズの秘密はその特別な家系を支えるシステムの場所の手掛かりになる写真が封印されているんだけどその14枚の中にあそこの写真がきっとあると思う」
と告げた。
伽羅は考えながら
「あの、一枚春彦が買って直彦さんにあげたやつの中にもってこと?」
と呟いた。
春彦は頷いた。
「直兄は夕矢君達に渡したって言ってたから写真が近いうちに取り出されるに違いない」
状況が整えばそのシステムの在り方を変えようとしているんだけど
「俺はその時を待つことになる」
俺も九州に来て思ったけどシステムの変革は必要だと思ってる
27年前のことを考えても。
今回の事を考えても。
システムの巨大な力が人の心を狂わせているのだと春彦は考えたのである。
伽羅は真っ直ぐ春彦を見ると
「俺もその時は春彦の力になる」
と告げた。
春彦は「多分、もう力になってる」と言いかけたが
「ありがとう」
とだけ答えた。
もしかしたら。
そう伽羅の夢は磐井栞の導夢なのではないかと思っていたのである。
直彦に警告を出した陸奥詩音も伽羅と同じ夢を見たらしい。
それを彼女は『母が教えてくれた』と言ったのだ。
そう、磐井栞の夢を共有したのだろう。
理由は分からないが伽羅はずっと彼女の夢を共有してきたのだ。
今考えればその夢に関わった人たちは今自分や直彦の周りを支えたり関係したりしている。
春彦は伽羅の顔を見ながら
「考えすぎかもしれないけどな」
と心で呟いた。
ただ、これまで以上に伽羅の夢の悲劇を止めなければならないと決意を固くしたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




