音の専任技術者
春彦はふと
「もしかして、田中のホテルで事件が起きる可能性があるんじゃないのか?」
と告げた。
悠真と伽羅は同時に春彦を見た。
春彦は絵を見せながら
「この人の制服が株式会社福岡貯水の服で二人が重なる場所は田中のホテルしかないだろ?」
と告げた。
悠真は腕を考えると
「確かに夏月の言う意味は分かる」
と告げた。
「彼女は東京の人間だから福岡の貯水槽清掃業者を頼むことは余りないと思う」
そう考えたら俺のホテルの受水槽か高架槽だな
春彦は悠真を見ると
「彼女がいる今週の木曜日から日曜日までの間で清掃日はないか?」
と聞いた。
悠真は鞄からファイルを出すと
「ちょっと待て」
と告げてペラペラと捲った。
春彦と伽羅も覗き込んだ。
悠真は最後のところで手を止めると
「あ、ある」
土曜日の昼からだ
と告げた。
春彦は「可能性としては俺達が話を聞いた後だな」と言い
「問題は犯人が何故彼女にそんなことをしたかだな」
と告げた。
「その問題を解決しないと…犯人は彼女以外の人に対して同じことをするかもしれない」
解決にならない
悠真も伽羅も頷いた。
その通りなのだ。
原因を解決しない事には対象が変わるだけで誰かを害してしまうだろう。
悠真は立ち上がると
「じゃあ、LINEにその犯人の絵を送ってくれ」
どういう人物で何があるか調べてLINEで知らせる
「その方が良いだろう」
彼女が来るのは木曜日だからそれまで時間はある
と告げた。
春彦は頷いて
「悪いな、ありがとう」
と告げた。
悠真は首を振り
「夏月、お前は俺が集めてきた内容から推理して犯人を止める手立てを考えてくれ」
と指をピシッとさした。
「そう言うこと覚えた方が良いかもな」
お前の場合は
春彦は目を見開いて驚いたものの笑みを浮かべると頷き
「わかった」
答えを見つけてみせる
と答えた。
悠真は早々に帰ると株式会社福岡貯水に今度の清掃について問い合わせた。
電話に出たのは社長の小酒井晋であった。
年齢は50代で働き盛りの男性であった。
彼は悠真の問いかけに
「今回の清掃の担当ですか?」
と聞かれファイルを捲ると
「Kyuoホテル様の2月2日木曜日の清掃担当は鈴木三雄です」
ホテルの清掃の担当は初めてですがマンションとかしてますし真面目で信頼できますので安心してください
と告げた。
悠真は少し考えると
「あ、新しい人なら一応ホテルの事務の方に知らせておきたいので顔写真送ってもらえますか?」
と告げた。
晋は納得すると
「あー、まあ分かりました」
と言い
「メールで送らせてもらいます」
と告げた。
悠真は「ありがとうございます」と言い
「その、鈴木さん。何故急にこちらの担当に?」
今まで確か足立さんだったと思うのですが
と聞いた。
晋はあっさりと
「ああ、もちろん足立も行きますよ」
と言い
「大体基本三人で作業しますので今回は鈴木、足立、小池の三人です」
ただ最終チェックを足立から鈴木に変えるだけです
「まあ、足立は今回で総監督として書類などのチェックに回ってもらおうと思ってまして」
なのでちょうど最後の挨拶も出来るので良かったですよ
と告げた。
悠真は「そうなんですか」と言い
「ではこれからの担当は鈴木さんなんですね」
メール待ってます
と告げて切った。
メールは10分程して送られてきた。
悠真はLINEに転送してもらった絵と見比べて同じ人物であることを確認すると
「ある意味すげぇよな」
松野宮の夢ってリアルだよな
と言い
「とにかく家のホテルであんな事件起こされたら困るからな」
と春彦に電話を入れた。
春彦は携帯が着信を知らせると直ぐに手に取って応答ボタンを押した。
「もしもし、何かわかった?」
と聞いた。
悠真は頷くと
「ああ、今度のKyuoホテルの清掃の担当者が松野宮の見た夢の犯人だった」
と答えた。
春彦は視線を伽羅に向けて
「そうか、けどその人を田中は知らなかったんだろ?」
今回初めての人?
と聞いた。
もし今までも来ていたら知っていたはずである。
悠真は頷くと
「その通り、今回初めてここの清掃担当になったんだ」
と言い
「名前は鈴木三郎。年齢は32歳だ」
これまでマンションの担当をしてたみたいだ
「けどそこで問題を起こしたことは一度もない」
株式会社福岡貯水の社長も信頼できる人だって言ってたけどな
と答えた。
「けど、松野宮の夢は何もしなかったらそうなるんだろ?」
春彦は頷いて
「ああ」
と答えた。
このままだと必ず起きる。
だが、名前と姿が分っただけだ。
春彦は悩みながら
「今まで何もなかったのに今回そうするには理由があるんだ」
と言い
「経歴とか…何か分ればいいけど」
と呟いた。
悠真はそれに
「個人情報ってのがあるから…余り詳しく聞くと反対にこっちが怪しまれるな」
と言い
「夢でこういうことが起きるって言っても株式会社福岡貯水の社長さんに病院行けって言われるくらいだと思う」
と冷静に告げた。
春彦は小さく笑って
「確かに」
と告げた。
「あのさ、反対にその警察の科学捜査班の長坂さんの経歴は分かる?」
講演するなら詳しい経歴とか普通は送ってくるだろうし
悠真は「ああ」と声を出すと
「夏月の言う通り詳しい経歴送って来てたぜ」
と言い
「面倒くさいからそっちが問題なければ持っていく」
と告げた。
春彦は「俺の方は問題なし」と答えた。
「またお母さんに伝えておく」
悠真は「宜しく」と答え、父親に声をかけると先ほど株式会社福岡貯水からのメールを印刷し、長坂真理子の経歴の紙をコピーして家を出た。
春彦は携帯を切ると伽羅を見て
「やっぱり、清掃で来るらしい」
と言い
「田中がまた来るからお母さんに言ってくる」
と立ち上がった。
伽羅は頷いて
「ありがとうな、春彦」
と告げた。
春彦は首を振ると
「俺が止めたいからやってる」
と笑顔で答えた。
そして、部屋を出て更紗の部屋に行くと
「お母さん、また田中君が来るから」
と疾風のように知らせると、彼女は
「またですか?」
と聞き返したのに
「はい」
と答えると同時に立ち去った。
更紗は小さく息を吐き出すと
「また、どこへ飛んでいくか分からない時期が来たようですね」
と言い、武藤堂山を呼び出した。
武藤堂山が来ると
「譲に春彦の行動を厳重に見張るように伝えなさい」
と告げた。
堂山は頭を下げると
「かしこまりました」
と答えた。
悠真が来ると春彦と伽羅が慌てて玄関へと姿を見せた。
同時に譲も姿を見せて
「お待ちしておりました、田中様」
と言い、時計を見て
「今日はお昼のご用意もいたしますのでごゆるりとお過ごしください」
と告げた。
時間で言えば午前11時12分だ。
確かに昼時である。
悠真は「すみません、お世話になります」と答えて春彦の部屋へ行くと持ってきた紙をテーブルに広げた。
「これな、メールと言ってた長坂真理子さんの経歴のコピーな」
と言い
「夏月、お前また凄く警戒されてるぞ」
と付け加えた。
春彦は紙を手に見ながら
「俺もそう思ってる」
と答え
「けど、食い止めないとな」
と告げた。
犯人は鈴木三郎。年齢は32歳。
経歴は不明。
被害者は長坂真理子。年齢は29歳。
東京都内在住で現在は警察庁の科学捜査班で音を専門に担当している。
春彦はそれを見て
「ずっと、東京生まれの東京育ちか」
と呟いた。
伽羅も覗き込みながら
「文京だから意外と近いな」
と告げた。
悠真は肩を竦め
「東京の事はよくわからない」
とあっさり答えた。
鈴木三郎の経歴が分からないので接点があるかどうか考えようがない。
ただ、春彦は腕を組むと
「年齢的には小学校くらいなら同じ学校とかはあるけど…学校での接点はかなりの確率でないかもしれないな」
と呟いた。
中学高校などは鈴木三郎が卒業後に入学なのだ。
悠真は頷いて
「確かにそうだな」
と答えた。
伽羅は大学の欄を見ると
「この人綺麗な上に東大卒だ」
すっげぇ
と呟いた。
「才色兼備だな」
春彦は指をビシッとさして
「今そこじゃないから」
と突っ込んだ。
「それに鈴木さんがどうしてKyuoホテルでそれをしたのか、どうしてその日だったのか、そこも探らないと」
今までそんなことがなかったってことはそう言う気持ちが湧かなかったってことだから
「そうしなければと思わせる何かがあったんだ」
春彦はパソコンをテーブルに移動させると
「Kyuoホテルと2月と鈴木で調べてみるかな」
と呟いた。
悠真は目を見開くと
「おーいおーい、Kyuoホテルのオーナーの家族がいるのに…聞けよ!」
二月に何かなかったか?とかさぁ
と突っ込んだ。
春彦は悠真を見ると
「何かあった?」
と聞いた。
伽羅は笑うと
「そのまんまだ」
と告げた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




