音の専任技術者
明け方の3時。
所謂丑三つ時だ。
春彦は着信を知らせる音に携帯へと手を伸ばすと
「伽羅だ…」
と呟き、応答ボタンを押して
「夢見た?」
と聞いた。
その瞬間、扉がギィィィと開き
「見た…」
とヌッと伽羅が姿を見せた。
…。
…。
「こわっ!」
伽羅
「こわっ!」
ホラーじゃないんだぞ
と春彦はギョッと見た。
伽羅はテレッと笑って
「ごめん、怖くって来た」
と中へと入った。
春彦はふぅと息を吐き出し
「いいよ」
と身体を起こしてベッドから降りると上着を羽織った。
「伽羅は寒くないか?」
伽羅は「少し寒い」と答えた。
春彦は笑うと
「了解」
と暖房を入れた。
そして、ソファに向かい合うように座り
「どんな夢を見たんだ?」
と聞いた。
伽羅は頷くと
「何か、真っ暗なところにいて音が響いていたんだ」
それで上の窓が開くと光が入ってきて足元に女の人が口と手と足を縛られて座ってて水が差し込まれたパイプから入ってきて
「それで」
とブルブル震えた。
「俺…泳げなかったかも」
春彦はふ~むと腕を組んで
「いや、そもそもプールでも川でも海でもなかったんじゃないのか?」
と告げた。
伽羅は頷いて
「真っ暗で上に窓があって…狭い部屋みたいな感じ?」
と告げた。
「あ、それで窓からヌッと男が覗いてきた」
春彦は考えて
「もしかして、水を貯めるタンクとか?」
と聞いた。
伽羅は「そう言えば」と答えた。
「そうかも」
春彦は携帯を手にすると
「つまり、水を貯めるタンクで女の人が溺れさせられるってことか」
と告げた。
「女の人も男も見たんだろ?」
描いてくれ
「それから、分かる範囲で良いからタンクの内装とかも」
伽羅は頷いて携帯を受け取り書き始めた。
「本当に真っ暗だったんだ」
と言い
「そう言えば、女の人が音立ててたんだけど…ガーンガーンじゃなくてゴッゴッゴッゴーゴーゴーゴッゴッゴッみたいな音楽みたいに繰り返してた」
と付け加えるように告げた。
春彦はほぅと目を見開くと
「それモールス信号だと思う」
短音三つに長音三つに短音三つだとSOS
「助けてっていうモールス信号だ」
と告げた。
「そう言う知識がある人だな」
伽羅は頷いて
「だよな、俺、知らなかったし」
と答え、絵を描き終えると春彦に渡した。
春彦はそれを見て
「やっぱり、水をためるタンクの中だな」
それから…この女性にも男性にも見覚えないな
と呟いた。
「年始の挨拶でかなりの人と会ったけど二人ともいなかった」
ただ
「水を貯めるタンクに人を沈めようって言うんだからこの男の犯人はそういう建築系の人間だと思う」
土建関係じゃないかな
伽羅は「確かにそうだよな」と答えた。
そうでないと思いつかない場所の設定である。
春彦は机に行くとパソコンを立ち上げて
「普通の家にはこんなタンクないから…どういうところに使われるか調べてみる」
と告げた。
伽羅も移動して春彦の隣に座ると画面を見た。
水を貯めるタンクには受水槽とか高架水槽と呼ばれるものがある。
所謂、貯水槽だ。
主にはマンションやホテルなど大型建築物に設置されることが多いことが分かった。
春彦は伽羅の絵を見ると
「けど普通は既に溜っている状態でないと使えないから…もしかしたらこのタンクの掃除とかをした後じゃないかな」
と呟いた。
伽羅はハッと考えると
「確かに元は足くらいだったの凄い勢いで溜ってた」
と告げた。
春彦はそれに
「だったら、貯水槽の掃除をするところと彼女と業者を調べた方がいいよな」
と告げ、再度携帯を見た。
犯人の男の絵を見て
「この襟の端のマーク…大きく描けないか?」
と聞いた。
伽羅は顔をしかめたものの
「出来るだけ頑張る」
と言い、携帯を受け取り、指を動かした。
二重丸の中に六角の星を描くような幾何学的なマークである。
春彦はそのマークも一緒に調べた。
この事件がいつ起きるのか全く分からない。
明日かもしれないし。
明後日かもしれないし。
一週間後か。
一か月後かも知れない。
ノンビリとはしていられなかったのである。
女性の方は分からなかったが、業者の方はマークで探すことができた。
春彦はパソコンを見て
「…福岡の株式会社福岡貯水って会社のマークみたいだな」
建築物飲料水貯水槽清掃業の登録をしているって書いてるからちゃんとした業者みたいだけど
と告げた。
「そう言えば、田中の方が詳しいかもしれないな」
ホテル経営しているから馴染みの業者もあるだろうし
伽羅は頷くと
「だよな」
明後日聞いてみる?
と聞いた。
春彦は腕を組んで考えると
「いや、LINEで今日聞いてみる」
もし今日とかだったら手遅れになるし
と告げた。
伽羅は「そうだよな」と答え、時計を見て
「まだ4時だから今は不味いよな」
とハハッと笑って春彦を見ると
「いつも夜中でごめん」
と謝った。
春彦は笑顔で
「構わないよ」
と答え
「こういうのって時間との戦いの時があるから直ぐに教えてもらえるの助かる」
と告げた。
「せっかく伽羅が夢見てくれても間に合わなかったら辛いし」
助けてあげれる人を救えなかったことで後悔するのは嫌だからな
伽羅は頷いて
「ありがとう、春彦」
と答え、小さく欠伸を零した。
春彦もつられて欠伸をすると
「まだ4時だし寝ようか」
と布団へと向かった。
伽羅も布団の中に潜り込み、二人でそのまま目を閉じた。
翌朝、譲は再び小さな溜息を零していた。
「ここのところなかったのですが…何故?」
暫くそれぞれの部屋の布団で寝ていたのだが、今日は春彦の部屋で伽羅が一緒に寝ていたのに譲は腕を組んで悩むしかなかった。
「東京で直彦様は驚かれなかったのでしょうか」
そう呟いた。
直彦は伽羅が夢で事件を見ることを知っているのでその流れの一つだと理解していたの悩むことはなかった。
そうでなくても春彦が「昨日遅かったから伽羅と寝た」と言っても「そうか」の一言で済ませるタイプなので譲ほど考えることはなかったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




