音の専任技術者
三学期が始まると土曜日の集いに陸奥樹も加わるようになった。
もちろん、場所は島津家である。
西海道大学付属高校はエスカレーター式なので最低限の試験で大学へ行くことができるので外部での受験を考えている人間以外は大学受験だと騒ぐことは余りなかった。
なので土曜日の集まりも意外とノンビリとしていたのである。
春彦の部屋のソファに座りそれぞれ好きなことをして過ごすこともあれば勉強することもあった。
「そういえば」
と悠真が不意に声を上げた。
「今度、ホテルに音のプロの人が来るんだけど時間があれば会ってみないか?」
ちゃんと場所を設けて
朔が首を傾げて
「音のプロって音楽家?」
と聞いた。
音楽家なら島津や伊藤、神宮寺にも専属のプロがいるのだ。
よほど有名でない限りそれほど興味はない。
悠真は首を振ると
「いや、警察庁の科学捜査班の人らしいんだけど…音専門の人なんだ」
ホテルで異常があった時に音のプロからどういう音とか注意するところとか聞いておいたら良いかもしれないって
「親父が昔の友人の伝手で招いたんだってさ」
夏月なんかは探偵業の足しになるんじゃないかと思ってさ
と告げた。
凛は頷いて
「確かに」
と呟いて
「俺も興味ある」
面白そうだな
と告げた。
樹も頷き
「俺も参加!」
と手を上げた。
朔も「良いね、俺も参加したい」と告げた。
伽羅も「よし!俺も参加する!」と告げた。
春彦は笑顔で
「お母さんに島津家で出来るか聞くから何時が良いか聞いてもらえないか?」
凄く興味あるし楽しみだ
と告げた。
悠真は頷いて
「わかった、日にちを確認する」
と返した。
夕方に解散し、その後に次の土曜日に時間が取れるというLINE連絡が来た。
木曜日にホテルに宿泊し、金曜日にホテル内での講義がありその翌日ということである。
『そう言うわけで今度の土曜日に話を聞く形でいいか?OKなら俺と一緒に行く形にする』
春彦はそれを見ると
『土曜日ならいつもの集まりの日だから問題ないと思う。伝えておく。ありがとう』
と返した。
朔も凜も樹も意気込んで参加する旨をLINEに書いた。
伽羅はそれを見ながら
「ちょうど良かったな」
別の日だったらみんな集まるのも大変だったかもしれないし
と告げた。
伽羅の場合は日にちによっては絵の先生との時間調整も必要になるのだ。
春彦は頷いて
「ああ、いつもの集まる日だからな」
と答え、夕食の席でそのことを母親の更紗と兄の春馬に伝えた。
二人は驚いたものの、そういう知識を持つことは身を守ることにもつながるので快く了承した。
特に最近は伽羅も夢を見ていないので春彦があっちへ飛びこっちへ飛びとしていないのが更紗には一つ安堵する状況だったのである。
しかし、その夜。
伽羅は夢の中で物音が響いているのに気が付いた。
暗い何処か分からない場所である。
足元には水がドンドンを増えていく。
「ここは」
そう言って見上げたそこに丸い窓が開き、光が射し込んだ。
「!?」
光に浮かび上がった足元を見ると女性が手と足と括られ、猿轡をされて睨むように窓を睨んでいた。
水はどんどんとパイプの刺さった場所から入ってくる。
「溺れるって」
溺れる
伽羅が言った時に窓から顔がニュゥと現れた。
「ひっ!」
男である。
青地の襟付きの作業服を着た男である。
襟の端に何かマークが付いているのだが見たことのないマークである。
伽羅はぽかんと見つめていたが、その人物はニヤリと笑って
「そんな音…誰にも聞こえない」
と言い窓を閉めた。
水はどんどん流れ込んでくる。
「マジ…か」
どこ?
ここどこ?
女性は懸命に壁に手をぶつけて音を立て続ける。
それがやがて止むと伽羅の首の辺りまで水が溜まり…そして。
伽羅は手足をばたつかせて目を覚ますと
「俺、お、お、泳げたっけ?」
と汗を拭った。
伽羅はスーハ―スーハ―と深呼吸をして
「大丈夫、水の中じゃない」
というと布団を被って携帯を手にした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




