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焦げ茶色の瞳が私を探るようにじっと見つめてくる。
ここは何も言わないでおこう。グラントは確実に私を疑っている。
「……そんなに言いたくないか?」
「何をぉ?」
「俺が秘密を守れない男だと思うか?」
小さなため息を吐いた後に、グラントは低く真剣な声でそう言った。
うわ、何だ。少しドキッとしてしまった。只今、中枢神経系の活動レベルが上昇。
運営者よ、攻略者全員美男子にするとろくでもないことが起こる。イケメン慣れをしていない私からすれば全員心臓に悪い。……だがニースだけ、このドキドキの種類が違う。
「う~んッとぅ、本当に何の話をしているか分からないよぉ~」
「絶対に口を割らないんだな。俺が手を貸すと誓っても、何も言わないのか?」
「だってぇ、グラント様はぁ、私のこと、嫌いじゃないですかぁ~」
「は? 誰がそんなこと言ったんだよ」
バイロンは私の言葉に顔をしかめる。
はい? 逆に私を嫌いにならない理由がない。というか、今はグラントに構っている暇はないのだ。私は一刻も早くルミアーナ家のことについて調べないといけない。ニースよりも情報収集力が衰えていると思われたくない。
「ではぁ、リル的にはぁ、もう少しお話したいけどぉ、用事があるのでお先に失礼いたしますぅ~」
私は無理やり話を切り上げて、軽くお辞儀をし、彼に背を向けた。
これ以上目を合わしたらまずい。攻略対象達に関わるとろくなことがない。彼らはソフィアだけを見ていればいい。
「え、あ、おい」
そんなグラントの声が耳に響いたが、振り返ることなく、私は全力で走った。勿論、走り方はお姫様走りだ。両手を胸元まで上げて軽く拳を作りくねくねさせながら、走る。滅茶苦茶走りにくいが、徹底的にぶりっ子演技を通すためにはこれしかない。
数人の生徒に訝し気に見られたが、そんなことは気にしていられない。
学校を勢いよく出たはいいけど、どうやってルミアーナ家に行けばいいのだろう。
馬車は目立つし……、そう言えば、魔女ってどんな魔法が使えたんだっけ?
前世の記憶を辿る。色々な魔法が使えたはず……、正直魔女が本気出せば人類を支配することも出来る。
…………私もそうしたら良くない? でも、別に独裁者になりたいなんて思わないし。
人は権力を持つとろくなことにならない。ミルグラム実験とスタンフォード監獄実験で証明されている。それに例としてはイギリスのピューリタン革命の指導者のオリバー・クロムウェルが良い例。
彼は、独裁的な政治を嫌い独立派を率いて革命を達成させ護国卿になったのにも関わらず、結局は独裁者になっているっていう……。
まぁ、そんなことだから、人間は巨大な権力なんて手にするもんじゃない。特に、私みたいな自分勝手な人間は余計に持つべきではない。
ソフィアみたいな心に汚れがなく綺麗な人が持ったら話は別かもしれないけどね。
「……確か、呪文があったはず」
急に、古い記憶の中の友達の言葉を思い出した。
そうだ、魔法を使うには呪文を唱えなければいけない。確か、数個教えてくれたはず……。頭をフル回転させろ、私。
顔を微かにしかめながら友達の言った言葉を必死に思い出そうとした。




