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 私はこの国についてもっと知らなければならない。私はあまりにもこの世界のことについて疎過ぎる。生き残るためにはまず自分のいるこの世界のことをもっと詳しく理解しないと。

 誰よりも早く起きて、私は図書室の方へ向かった。今日は学校があるから勉強できる時間は朝と夜しかない。地理をもっと把握していないと、いざ魔女だとバレて逃げる時に困る。

 この家の図書室に初めて向かう気がする。ソフィアと違って勉強大嫌いだったからね、私。

 朝日が眩しくて思わず目を細めてしまう。壮大な雲の上に佇む太陽を見て、私は何故か一瞬全てがどうでも良くなった。無駄にデカいため池が私の家にあるのは喜ばしいことなのかな。

 ため池と言っても水は澄んでいて、とても綺麗だ。まぁ、使用人たちが手入れしてくれているおかげだけど。

「こんなに綺麗な朝焼け、初めてみた」

 オレンジ色に全てが染まっている。水面に映る太陽は何とで表せない幻想的な光景だ。

 太陽が地平線から昇り、大気中にある塵や水蒸気により屈折しにくい波長の長い赤やオレンジだけが到達するから朝焼けというものはこんな色をしている。なんて神秘的なのだろう。

 それに、今日の朝焼けは一段と綺麗だ。湿度が高いせいかな? まぁ、普段あまり朝日なんて見ることがないのだけれど。これから朝早く起きてみようかな。

 ああ、なんだか無性にあの朝日に飛び込みたいな。こんな綺麗な景色と一体化出来たら、今までソフィアにしてきた罪が許されるような気がする。

 朝から自分でセットしたツインテールを外した。リボンを外す時にシュルッと音が鳴った。

 フリフリのドレスももういい加減嫌になってきた。たまには解放されたい。

 実は私は、前世の記憶を取り戻した日から基本ずっと下に何の装飾もない黒いドレスを着ている。これも逃げる時の為に……。いつものドレスだと走りにくいからね。暗闇でも目立たない黒色に、動きやすさを重視し、余計なものは何もついていない素晴らしいドレスだ。

 私は重いドレスを脱ぎ、シンプルなドレスになった。

 誰も見てないし、澄んだ美しい水だし、朝焼けは綺麗だし、……いいよね?

 柵をまたいで、勢いよく池にダイブした。

 池って汚いものだと思っていたのに、飲めるレベルに綺麗な水だ。水に潜るなんていつぶりだろう。前世の時の中学生の水泳教室か? それ以来、水に潜ったことなんてない気がする。

 私はゆっくりと水面から顔を出す。

「気持ちいい」

 朝日を見ながら静かに呟いた。

 一生このままでいたい。魔女とか貴族とか平民とか、余計なことを考えずに静かに穏やかに暮らせれればどれだけ楽か。私のことを誰も知らない町に行って、普通に暮らしたいな。

「何してるんだ?」

「げ!?」

「色気のない反応だな」

 流石にこんな朝っぱらからニースを見るなんて誰も想像していないでしょ。

 というか、なんで私の家にニースがいるんだろう。……まぁ、考えられるのは一つしかないけど。

「ウィクリフのお供?」

「ああ」

「朝から大変だね」

「……お前は何をしてるんだ?」

 怪訝な表情で私を見つめる。相当頭のおかしな奴だと思われているに違いない。こんな朝早くに自分の家の池にダイブする女って……。多分、そんな令嬢はこの世界にいないよね。

「ちょっと泳ぎたい気分だったから? ……というか、いつ私に気付いた?」

「髪をほどく前から」

「え? 声かけてよ」

 流石にそんなに前から見られているとは思っていなかった。なんかそう思うと恥ずかしいな。

 ニースはじっと私を見つめている。彼の私を全て見通しているような瞳が苦手だ。

 ただ見つめられるのが一番困る。何かしょうもないことでもいいから言葉を発して欲しい。

 太陽に照らされたニースの双眸はいつもよりいっそう輝いて見えた。

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