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こんな独占欲が自分にあると思わなかった。ウィクリフとソフィアの為になら全てを犠牲にしてもいいと思っていた、それが自分の命であっても。
それなのに、一つだけどうしても手に入れたいものが出来てしまった。彼女にもう一度惚れたと自覚してからというもの、自分の中で色々な感情が芽生えた。こんな感情があったのかと自分でも驚く。そしてその感情を知る度にソフィアへの思いは恋ではなかったのだと気付く。彼女への情は憧れに近かった。
そして今日、また新たな感情を知ることになった。
学校があるのに朝からソフィアに会いに来るウィクリフの愛は凄いとつくづく実感する。俺はいつものように彼に仕え、供に彼女の家まで来る。
前回のサーディーの事件でウィクリフとの関係に若干亀裂が入ったように感じたが、彼はいつも通り接してくれている。
もしかしたら、あの事件で少しだけリルのことを見直したのかもしれない。
リルは……、魔女だ。それはもう確信している。あの蜜蜂を見た時に疑惑が確信に変わった。
さっきまで動いていた蜜蜂が、彼女の目の前でじっと止まったのだ。そして、リルは気付いていなかったが、あの後……、蜜蜂は彼女に軽くお辞儀をした。
真の魔女にしか蜜蜂はそうしない。蜜蜂がお辞儀をしたら偉大な魔女であるということだ。蜜蜂がそんな行動をした瞬間を生まれて初めて見た。魔力の弱い人間には蜜蜂は見向きもしないほどなかなか残酷な生き物だ。それなのに……。あの光景だけはいつまで経っても忘れないだろう。
……そして、リルが魔女だということは、俺はいつか彼女を殺さないといけない。
なのに彼女を守りたい。この気持ちの方が大きいのだ。王子を守る騎士ならば、どんなことにも我慢しなければならないが、これだけは譲れない。彼女を守りたいのだ。
こんなにも彼女の存在が自分の中で大きくなるなんて想像していなかった。
グラントと彼女が至近距離で笑い合っているのを見た時、俺は自分の中にあるドロドロとした黒いものを知った。これが嫉妬というものだと初めて知ったのだ。
ウィクリフと仲良くしているソフィアに対してはそんな気持ちを持ったことが一度もない。理性なんて飛んで、いつの間にか彼女を彼から離そうとしていた。
余裕がない。グラントはリルがそこまで馬鹿じゃないと気付き始めている。……いや、グラントだけじゃない。きっと、バイロンもリマもウィクリフもソフィアも感じているはずだ。
あの時、リルがネロに発した言葉は馬鹿っぽい口調だったが、中身に重みがあった。それが分からないほど彼らは馬鹿じゃない。
これ以上、彼女を誰の目にも触れさせたくないな。俺はカーソン家をぶらぶらと歩きながらそんなことを考えていた。
「リル?」
俺は歩いていた足を止めた。
少し前の方に、朝日に照らされたリルの顔が見えた。
濃く鮮やかなオレンジ色の朝焼けは俺の心を見事に刺激した。カーソン家から見える朝焼けはこんなにも綺麗なのか。水面に映る地平線から少しばかり昇った太陽がユラユラと揺れている。
「は?」
そんな景色をぼんやりと眺めていたら突然リルが髪の毛を下ろし、服を脱ぎ始めたのだ。
……リボンとフリルが沢山ついたドレスの下にあんなシンプルなドレスを着ていたのか。いや、そんなことより誰かに見られたらどうするんだ。
俺は彼女に注意しようと呼びかけようとした時だった。その瞬間、彼女は柵を超えて池に飛び込んだ。
公爵家の令嬢がそんな行動をするなんて前代未聞だぞ!?
驚きのあまり声も出なかった。そして、そんな驚きを簡単に超越する彼女の美しさに見惚れた。
水面から出てきたリルの姿を見て、女神だと思った。水滴が輝き彼女を祝福しているように見える。
半透明の湿った艶やかな金髪がしなやかな背中に張り付き、朝日に照らされた凛とした左右色の違う瞳は人間離れした神秘さだった。色気と品が備わった佇まいからまるで世界を統べる女だと主張されているように感じた。
こんなにも誰かを釘付けになって見たことがない。『真の美』というものを初めて見た気がした。
「ウィクリフ様も朝からソフィア様に会いにくるなんて凄いな」
「愛の力っていうのは俺達には計り知れないんだよ」
どこからか使用人達の声が聞こえた。
このままだとリルが見られてしまう。見られて何か罰せられるようなことはないが、俺が嫌だった。
彼女の美しさを独り占めしたい、本能的にそう思ったのだ。
「何してるんだ?」
俺は心を落ち着かせ、リルの元へ行き、あたかも偶然通りかかったようにして彼女にそう聞いた。




