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 ニースの言葉を聞いた瞬間、私はソフィアにした取り返しのつかない過ちを一つ思い出した。

 幼い頃から、ソフィアは成績優秀で、可愛らしかった。……愛嬌があったと言えば分かりやすいだろうか。だから誰からも好かれていた。ウィクリフの気持ちもソフィアに向いているということを幼いながらにも分かっていたのだ。

 ……そんなソフィアに腹が立って、悪役令嬢らしいことをしたのだ。 

 十三歳の頃、私の家で開催された舞踏会の日に、私は自分のドレスを切り刻んだ。そして、公の場でそれをソフィアのせいにしたのだ。

 今思わば、いくら前世の記憶がなかったといえどもどうしてあんなことが出来たのだろうか。人として終わっている。

 結局、ウィクリフ達の力により数日後にドレスを切り刻んだのはソフィアでないと証明出来た。だが、犯人は見つからなかった。勿論、ソフィア以外は私だと気付いていたが、私がしたという証拠はどこにもなかった。ウィクリフ達は、私がそれまでソフィアにしてきた数々の意地悪をちゃんと知っていた。あの時のソフィアの苦痛は相当なものだっただろう。その夜、泣いている彼女を私はただ見ていた。その時に、流石にやりすぎたと微かに思ったのを思い出した。

 ……ソフィアだけが知らないのだ。私があの時のドレスを切り刻んだことを。ウィクリフ達はソフィアを傷つけることを絶対に言わない。双子の妹があんなことをしたなんて知ったら、ソフィアは怒るのではなく、悲しむ。

「何も言わないのか……」

 ニースが低い声でぼそりとそう言った。 

 私はなんて最低で卑怯なことをしたのだろう。ソフィアを妬んであんなことをするなんて……。余程自分に自信がなかったのだろう。いや、それはただの言い訳だ。

「あの頃から何か抱えているものがあったのか?」

 ニースにそう言われて私は最低なことを思いついてしまった。あの頃から皆に嫌われようと必死だったとかって理由を付けたら少しは罪が軽くなるんじゃないかって。ああ、これ以上最低になりたくない。

「俺達から嫌われて、自分から周りを遠ざけようとしていたのか?」

 私が考えていたことをニースはさらりと言った。

 ……ニース、私の心の中を読めるのかな? いや、それは非科学的すぎる。せめて表情になにか出ていたと考えた方がいい。

 もしここで頷けたらどれだけ楽だろうか。もし前世の記憶が戻らなかったら、ただの意地悪な奴で終わりだったのに、私が変な演技をしたことによって深読みされてしまった。

「まだ何も言わないのか?」

 言ったら、きっと軽蔑される。けど、嘘をついたらもっと駄目だ。嘘も方便というが、ここは嘘をついていい場面ではない。「嫌われたかった」と言って、私は一生それで騙しとおせる自信がある。けどそれを言ってしまったら、ニースに対して一生罪悪感を背負い続けなければならない。絶対に後悔すると分かっている。

「俺にも言えないのか?」

「……あれは」

 嫌われてもいい。軽蔑されてもいい。きっともう二度と話しかけてくれないかもしれない。けど、今、私はニースに対して正直でいたい。私の中でその気持ちが何より優先された。

「ただの嫉妬心からした行動だった」

 ニースの目を真っ直ぐ見ながら私ははっきりとそう言った。彼は目を瞠った。私がこう言うとは思っていなかったのだろう。

 何も言わない。それが一番怖い。私のこの勇気は正しかったのだろうか。

「侮辱してくれてもいい。それだけのことをやったのは分かっている。彼女がどれだけ涙を流し、どれだけ苦痛に耐えたかも……それを分かっているというのは私が言えることじゃないけど、けど彼女がとても傷ついて」

「もういい」

 ニースは私にそう言った。

 ……完全に呆れられたかな。これでニースとの関係も終わりか。

「罵ってくれても、殴ってくれてもいいよ」

 こんなことで彼の気が晴れるとは思えないがそれで少しでも気が楽になるのなら別にいい。むしろ、私がけじめの一つとしてされたいのかもしれない。……決してマゾではない。

「そんな表情している奴に出来るわけないだろ」

 ニースはそう言って軽く私の頭をポンッと叩いた。

「表情?」

「もういいから。だからそれ以上、そんな苦しそうな表情をするな」

 ニースはそれだけ言って、私が乗ってきた黒馬に乗った。

 ……私、一体どんな表情していたんだろう。

「行くぞ」

 彼は私に手を差し出した。私は彼の手を取り、馬に乗った。私が前で、ニースが後ろ。思っていたよりも至近距離だ。ニースを意識することなんてないって思っていけど、何故か少し緊張してしまう。彼の心臓の音が微かに聞こえる。……あれ? なんか鼓動が大きい? いや、気のせいかな。あのクールニースが、私相手にドキドキはしないだろう。

 森を去る間際に、ふとサーディーの言った「一番大切な人はすぐそばにいるものよ」という言葉が脳裏をよぎった。

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