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……なにこの状況。
目の前に気の強そうな写真で見た美人が座っている。それにしてもどうしていつも集まる場所が私の家なのだろう。
「物凄く早く見つかったね」
リマが無邪気にそう言った。
物凄く早いっていうか、そもそも見つかる気しかなかったんじゃないのか? という服装だ。それに見つかったところがそんなに遠くない。割と近場で見つかったのだ。
彼女の華美な服装を私はぼんやりと眺めた。体につけている装飾品も凄い。ネックレス、ブレスレット、指輪、イヤリング、一つも忘れることなく着けている。……本当に男と駆け落ちするつもりだったのか?
それにしてもドレスに使われている色よ、赤色、緑色、青色、光の三原色(色の三原色は赤、黄、青)と言われているRGBじゃないか。原色が全て入っているドレスなんて見たことない。この三つの色が加法混色であらゆる色を作り出すことが出来ると言われている。
「私の名前はソフィア、初めましてよね? よろしくね」
「なにその笑顔。ムカつくわね。私をここに連れ戻すなんて……。いい迷惑よ」
「おい、サーディー!」
「いいの、グラント。彼女にも事情があるんだと思う」
色の三原色ってグラスマンの法則だったっけ? あの膨張学を著したドイツの数学者。数学者はやっぱり偉大だ。
「ねぇ、サーディーどうして家出なんてしたの?」
「初対面の貴女に言うと思う?」
きつい口調でサーディーはソフィアにそう言った。相当苛立っているな。ここに私の演技をぶち込んだらもっと苛立つだろう。けど、今は仕方ない。皆がいる前で素の私で話すわけにはいかないし。
……連れ戻されたってことは彼女の父親に連絡がいっているはず。このまま彼女を迎えにきたら結構まずいのでは?
「ねぇねぇねぇ! サーディーのぉ、お父様は今どこにいるのぉ~?」
私は首を傾げながらそう聞いた。最近ずっと右に傾げているから、左の首筋が痛い。次からは右の首筋に負担がくるように左に傾げよう。ああ、ぶりっ子も大変だな。
「……何、貴女。気持ち悪いわ」
サーディーは眉をひそめながら本当に嫌そうな表情でそう言った。
わぁ、ぶりっ子も大変だな。この一瞬の間で二回も同じことを思うとは思わなかった。
今のは単なる悪口だ。けど、同時に彼女のそういうところがいいなと思った。陰でこそこそ言わずに目の前で思ったことを直接いう感じ。まぁ、これが災いを招く可能性もあるのだが。
「ひどおぉ~いッ! 質問しただけなのにぃ~~」
「その喋り方どうにかしなさいよ」
「人の喋り方に文句つけないでよぉッ!」
私は頬を膨らましながら席を立った。とりあえず、今ここに居続けても意味がない。今の私じゃ何も重要なことは聞けない。
「もうリル怒ったもんねッ!!」
私は腰に手を当てて軽く彼女を睨んだ。勿論、痛く可愛く魅せるってことを忘れていない。睨んだっていっても全く威力のない睨みだ。
そのまま部屋を出ようとした。皆安心した表情を浮かべる。まるで早く私に部屋を出て行って欲しかったみたい。そりゃそうか、私みたいなやつがいたら真剣な話は出来ないか。
「父親は今仕事で他国にいる」
ニースがすれ違いざまにボソッと私の耳元で簡潔にそう言った。私は何もリアクションせずにそのまま部屋を出た。
……他国か。もし隣国だとしたら帰ってくるのには大体二日ぐらいかな。高速道路とかないし、馬車だし。この国と隣国との境界線とかにいたらもう終わりだけど。サーディーの父親は彼女が見つかったって聞いてもう既に動いているだろう。
早く解決策を考えなければならない。その前にはまず一番サーディーがどうしたいのかを聞くべきだ。
「やっぱり連れ戻すのは間違いだったんじゃないのか?」
「いや、彼女をここにとどまらせるように説得しなければならない」
私のすぐ後ろからニースの声が聞こえた。慌てて振り返るとニースだけだった。
良かった、独り言を聞かれたのがニースだけで。油断大敵だ。気を引き締めておかないと。誰に何を聞かれるか分からない。
「ちょっと抜けてきた」
「……彼女がここにとどまるように説得するのってハメット家の名に泥を塗らない為?」
「違う。サーディーの為だ。考えてみろ、彼女にとってもその相手にとっても一番幸せなのは何なのか」
身分の違う者同士がくっつくとお互いが大変な目に遭うってことか。今までの暮らしは出来ない。もし見つかれば相手の男は間違いなく殺される。
「けど、彼女達の幸せは私達が決めれることじゃない」
ニースは何も言わない。きっと彼も心の中では分かっているのだろう。だが、ニースにも立場がある。彼女の援護をしたいが難しいってところかな。
「皆はなんて言ってるの?」
「グラントとウィクリフとバイロンは馬鹿なことをするなと言って、ソフィアはサーディーの気持ちを汲み取ろうとしている。リマは特に何も言っていない」
「前途多難、無理難題、……現実逃避しよう」
「リルが頼みの綱だ」
彼の言葉に思わず苦笑してしまう。
「皆が協力して何も進まなかったのを私が彼女と話したからってどうにかなるわけないと思うんだけど」
「……俺はリルなら出来ると思っている」
そう言って、ニヤッと笑うニースはとても楽しそうだった。……この状況を楽しんでいるのか?
どうしてこんな重要なことを嫌いな私に頼むのだろうか。もし失敗したら倍返しとかかな。
「主って変わってますね」
「俺は従者を信用しているんでね」
そう言い残して、彼は去っていった。彼の背中を見送った後に、私は盛大にため息をついた。
どうしたらいいんだろう。こればかりは正解が分からない。




