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「何の話をしていたのぉ?」 

 私は首を大きく傾げて唇を軽く突き出した。思ったよりも首を勢いよく傾げてしまった。……痛い。

「真剣な話をしていたんだ」

 バイロンが私を突き放すようにそう言った。……私、邪魔者? それならとっとと退散しよう。この集団の中にいても私にメリットはない。

「まだ、頭がぁ~、少しアチチッて感じだからぁ、部屋に戻るねっ」

 私は顔を少ししかめてから満面の笑顔でそう言って立った。

「待てよ」

 待てよ、まてお、マテオ、……マテオ・リッチ! イタリア出身のイエズス会宣教師、1583年にマカオに入り、中国での布教を始め、1601年に万暦帝に謁見し、北京居住を許され、キリスト教の伝道の基礎を築いた……。

「急に固まったぞ」

「ニースが引き留めたからだろ」

「きっと、ニースは自分の事が好きなんだって思って、固まっているんだろ」

「勘違いってやつだね」

「ちょっと、言い過ぎだって」

 坤輿万国全図っていう世界地図を作ったんだっけ?

 さらに、古代ギリシアの数学者エウクレイデスの著作、幾何学原論を徐光啓と共に漢訳し幾何原本として刊行した。凄い行動力……。平面幾何学を伝えようなんてあんまり思わない。

「こいつはずっとウィクリフの事しか見てない」

「モテモテじゃねえか~」

「俺が欲しいのはソフィアだけだ」

 けど、徐光啓も凄い。きっとマテオ・リッチと共に幾何学原論を漢訳したのだから、彼も相当な変わり者だったと思う。確か、農政全書や崇禎暦書の編著などもしているし……。とにかく、偉人は変わり者が多い、と思う。実際に会ったことはないからなんとも言えないけど。

「いつまで固まっているんだろう?」

 リマの可愛らしい顔が私の視界に入ってくる。……可愛らしさがウルグとそっくり。

「リル?」

「なぁに~?」

「……やっぱり僕達の話を聞いてなかったみたいだね」

「ごめんちゃいっ。だって、マテオの事が……」

「まてお? ニースが言った待てよの事?」

「そう! それ! ついドキッとしちゃって」

「案の定、勘違いしてるぞ」

 ウィクリフの尖った声が聞こえた。

「意味もないのに私の事を引き留めるぅ?」

「それもそうだな。何でニースはリルを引き留めたんだ?」

 グラントが不思議そうな顔でニースに聞いた。……なかなか失礼な奴だな。一応ここは私の家なのに。

「リルもここにいろ」

 ニースはそれだけ言って私をじっと見た。……やっぱり、私、昨日のマラソンの時に何か言った? 覚えていないって一番怖い。

「分かったよぉ~」

 私はそのままもう一度椅子に座った。……本当に怖い。ニースに弱みを握られているみたいだ。

 とりあえず、怪しまれないように、ぶりっ子演技を続けておこう。まぁ、私のぶりっ子演技自体が怪しいんだけど……。

「話を元に戻そう。魔女の話だが」

「魔女ぉ!? 魔女が現れたのぉ?」

 私は大袈裟に驚いた。まさか私の話じゃないよね? もう、ばれた? ぶりっ子演技が逆効果?

「リル、うるさい」

 バイロンが私を鋭い眼で見ながらそう言った。

「魔女疑惑の女の子が現れたんだ」

「女の子なの?」

 ニースの言葉にソフィアが真っ先に反応した。……私じゃなかったみたい。良かった。

「そうだ、女の子だ」

 そう言ってウィクリフが胸ポケットから写真を取り出し、机の上に置いた。

 六歳ぐらいの女の子が家の前で一人で立っている写真だ。彼女、……白化個体、アルビノだ。

「これは……、なんて白いんだ」

「綺麗だな、……だけど、少し不気味だ」

「こんなにも神秘的な子、初めて見たわ」

「魔女で間違いないな」

「どうして彼女が魔女だと思うのぉ?」

「真面目に考えろ、真剣な話をしているんだ」 

 私の質問にウィクリフは私を睨みながらきつい口調でそう言った。

 ちゃんと真面目に考えて、言っている。アルビノはただの遺伝子突然変異だ。それだけで、魔女だと決めつけるのはおかしい。

「リルっ、ちゃんと考えてるもんっ! 魔法を使った所を見たのぉ?」

 私は頬を少し膨らましながらそう言った。

「いや、実際には見ていない。だが、この村の人達は皆彼女を魔女だと言ってるんだ」

 ウィクリフの代わりにニースがそう答えた。

「それだけぇ?」

「は?」

「それだけで魔女って決めつけるのぉ?」

「そうよ、私達だって、昔、左右の目の色が違うからって魔女だって疑われたけど、実際違ったわ。彼女も魔女じゃないかもしれないわよ」

 ソフィアが力強い声でそう言った。

 メラニン色素が欠乏しているだけで魔女だと疑うなんて、酷い話だ。

「実際彼女に会ってみようよぉ!」 

 私は両手をパンッと合わせて立ち上がった。

「いい案ね!」

 ソフィアも明るい表情で立ち上がった。

 流石、双子だ。考えまで同じみたいだ。もし、ソフィアが私の考えと違う考えだったら、この攻略対象集団は絶対に動かなかっただろう。

「そうだな、一度会って確かめてみるか」

 ソフィアの顔を見ながらウィクリフはそう言って微笑んだ。

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