12
……眩しい。カーテンの隙間から漏れてくる朝日が私に早く起きろと命じているみたい。
頭痛はすっかりどこかに消え去ったし、これで私は完全に復活! 私、昨日、余計な事を言っていないよね……? よし、昨日の事をゆっくり思い出そう。
ソフィアと一緒に家に帰ってきて、その後、すぐに私は部屋に運ばれて……。そこからどうなってんだっけ? 医者が来たのは覚えている。馬面のお医者さん、……じっさい本当に鼻息が荒かった。あの医者が前世、馬だという説を私はまだ捨てていない。馬は口で呼吸できないから、あんなに鼻息が荒くなる。
「リル様?」
私が仰向けに寝ころびながらそんな事を考えていると突然、リディアの顔が私の視界に入った。
「お体、大丈夫ですか?」
リディアは両手を胸の所で握りしめながら私を心配そうに覗いている。こんな朝っぱらからぶりっ子演技発動したくないが、自分で決めた事だ。
「元気モリモリ! モリ子だよぉ」
私はそう言ってベッドに上に立ち上がり、最後に目の横で大きくピースをした。
「リル様! ふざけないで下さい。最近、……変ですよ?」
確かに変だろう。それは自分でも分かっている。別にこれはリディアの洞察力が凄いわけではない。きっと皆、私の事を変に思っているだろうな。けど、誰もその事に触れないって事はやっぱり私のこのぶりっ子演技に違和感がないのかもしれない。……それか関わりたくないか。後者の方がいい。出来るだけ誰も私に関わって欲しくない。
「本当の私をこの世に解き放っているんだよぉ~」
私は両手を上に上げながら、高く甘い声を作り、そう叫んだ。
……これは失敗だ。ぶりっ子というよりただの変な人になってしまった。リディアの少し引きつった顔が目に入る。
「そんな事より、下に皆様、集まっていらっしゃいます」
自分を信用されていないと悟ったのかそう言ったリディアの言葉には少し怒りが感じられた。
……穏やかで優しくおっちょこちょいに見えるリディアの本性を今見た気がする。
その前に、皆様って、……ソフィアとソフィアの攻略対象達?
「リル、行きたくないなぁ~」
ベッドの上で体をくねくねさせながらリディアにそう言った。
ソフィアの様子を確認しに来た所へ私が行っても、良い雰囲気をぶち壊すだけだ。私は今や、ソフィアの恋を応援するキューピット的存在なんだから、邪魔はしない。
「行ってください。皆様、リル様を待っているのですよ」
「じゃあ、リディアが私の代わりにドレスを着て行けばいいじゃん!」
私は頬を膨らませながら腰に手を当ててそう言った。
リディアの冷たい視線が私に突き刺さる。今までそんな表情を私に向けた事なかったのに……。やっぱり、やり手のメイドだ。
「なーんつってっ! リル、今すぐ着替えるぅ!」
私は舌を少し出しながら頭をコツンと軽く拳で叩き、クローゼットの方へ向かった。
リディアは満足気に微笑み、お手伝いします、と柔らかい声で言った。
この私の演技についていけるのはソフィアとリディアぐらいでは? 私はそんな事を思いながら着替えた。
客間にはやはり私が予想した通りの人達が座っていた。
……やっぱり今すぐ引き返したい。ソフィアが中心となって笑顔が溢れているような雰囲気に私が行けるわけがない。
「あっ! リル!」
真っ先にソフィアは、私が来た事に気付いた。流石妹思いの姉だ。頑張って気配を消していたのに……。
ソフィア以外は迷惑そうな顔を浮かべている。……ニースだけは迷惑そうな表情というより私を睨んでいる。私、あの中だと一番ニースに嫌われていると思う。まぁ、ニースの好きな人を虐めて、ニースの主にベタベタとくっついていた私を嫌いになるのも無理はない。というか、当然だ。
「リルっ! こっちにおいでっ、、痛っ」
ソフィアはそう言って立ち上がったのと同時にふらついた。
「大丈夫か!? ソフィア」
「怪我している事、忘れて立っちゃった」
「もう、ソフィアはおっちょこちょいだな」
「そんな所もキュートだけどね~」
「ソフィア、次から気を付けろよ」
なんだろう、この居心地の悪さ。ニース以外が次々とソフィアに声を掛ける。
この甘々な感じ苦手だ。というより、こういう事を見たり聞いたりする事に対しての免疫力がない。
何か別の事を考えておこう。……あの壁の模様、ヒトデみたいだ。ヒトデは腕がちぎれても再生する事が出来るし、ちぎれた腕の方にも体が再生して二匹のヒトデになる。優秀な生き物だ。分裂して増殖する、……これが人間にもし出来たら物凄く気持ち悪い事になりそうだ。別の事を考えても気持ち悪くなってきた。何してるんだろう、私。
「リル、早くこっちにおいでよ」
「うんっ!」
甘々タイムはもう終わったみたいだ。私は周りの迷惑そうな視線は完全に無視して、ソフィアの元へ向かった。




