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 生まれた時から俺はウィクリフ様にお仕えする運命だった。最初はウィクリフ様と呼んでいたが、ウィクリフがいちいち様を付けなくていいし、敬語を使わなくてもいいと言ってくれた。

 俺自身彼の人柄に惹かれ、これから一生お仕えしようと心に誓った。

 ウィクリフを傷つける者は誰一人許さない。……だから、俺はリルを許さない。ソフィアを虐めて、ソフィアを傷つけ、ウィクリフも傷つけた。

 

 だが、最近、リルがおかしい……。急におかしくなった。本当に何を考えているのか分からない。

 幼いころに初めて彼女を見たときに心が痺れた。透き通った金髪に左右で色の違う神秘的な瞳、誰かを見て美しいと初めて思った。それがリルだった。後にも先にも俺が一目惚れをしたのは彼女だけだろう。

 ……だが、彼女の性格があまりにも酷かった。ウィクリフが好きだという事は一瞬で分かった。

 だが、ウィクリフは彼女の双子の姉のソフィアが好きだった。ソフィアはリルとは正反対で穏やかで優しい女の子だ。それに賢く可愛らしい……芯のある強い女だ。

 だが、リルはそれを妬み、散々ソフィアを虐めていた。ソフィアは物凄く妹思いだから、リルのしている事にはずっと我慢していたが、俺は彼女が陰で泣いていたのを知っている。そして俺らの前にいる時は決して笑顔を絶やさなかった。彼女を見ていると自然と心が惹かれた。気付けば俺はソフィアを好きになっていた。だが、ソフィアはウィクリフの好きな人だ。諦めるしかない。俺はソフィアとウィクリフの幸せを守る事が出来ればそれでいい。だから、彼らの幸せを邪魔するものには容赦しない。


「なぁ、ニース、ソフィアは何位で帰ってくると思う?」

 ウィクリフは俺の肩に腕を乗せながらそう言った。

「ソフィアなら一位で帰ってくるかもな」

「だよな~。ソフィアは何に対しても本気でやろうとする。……その姿がたまらなく愛しい」

「……そうだな」

 俺はそう言って曖昧に頷いた。

 何事にも本気で取り組む姿は確かに魅了される。……リルが出来ない事だ。リルは自分を磨こうとせず、ソフィアを虐める事しか考えていなかった。リルは……馬鹿で心の醜い人間だ。

 

 今のリルは……虐めているというよりもむしろ俺達と関わりたくない雰囲気を醸し出している。

 ……あのキャラは本当に何なのだろう。あれが本当の性格なのか、それとも可愛いと思ってやっているのか……。あれでウィクリフがリルに落ちると思っているのか? ……そうだ、あいつはずっとウィクリフの事しか頭にない。きっとウィクリフを自分に惚れさせたくてあんなキャラをしているのだろう。


 ……遅い。どんどん女子生徒達がゴールに到着する。その中にソフィアはいない。勿論リルもいない。だが、リルがいないのは予想の範囲内だ。あいつの事だから、きっと本気で走っていないだろう。

「ソフィアが足を挫いたみたいだ」

 誰かの声が耳に響いた。足を挫いた? 今すぐ助けに行かないと……。多分、この中では俺が一番足が速いだろう。俺は急いで立ち上がった。その瞬間、何故かリルの事が頭に浮かんだ。今日のあいつ、顔色が悪かった……。それに声も少しおかしかった。大丈夫なんだろうか。……どうして俺はリルの心配なんかしているんだ。あいつが倒れていようが俺には関係ない。今はソフィアの事だけを考えればいい。

「ニース? どうしたんだ?」

「……ウィクリフ、ゴールの方からソフィアを助けに行け」

「は? ニースの方が足が速いし」

「俺はスタートした方からリルを見に行く」

 俺はウィクリフの言葉を遮ってまでどうしてそんな事を言ったのか分からなかったが、もう体が勝手に動いていた。

 ソフィアはきっとゴール側にいるだろう。そして、リルはまだスタート側の方にいると思う。あいつの事だ、全く進んでいないだろう。

 ソフィアを助けに行けば、もしかしたらソフィアは俺の方を向いてくれたかもしれない。……だが、どうしてもリルが気になる。もう好きではないし、むしろ嫌いだ。それなのに、胸がざわつく。俺は足を速めた。


 見当たらない。一体どこにいるんだ。俺は辺りを見渡しながら走り続けた。

 もしかして、ちゃんと走っていたのか? ……ゴール近くにいたのかもしれない。

 なんて無駄足だ。俺は少し走るスピードを緩めた。その時、どこからか荒い息遣いが微かに聞こえた。

 ……リル? 俺は息が聞こえる方へ走った。

「暗い……、きっと瞳孔散大筋が収縮されて私の瞳孔は今、大きくなっているだろう」

 ぼそぼそと声が聞こえる。多分、近くだ……。俺は念入りに周りを見渡しながら声がする方に向かう。

「明るい時は瞳孔括約筋が収縮され瞳孔が小さくなる。……つまり、瞳孔の大きさを変えて光の入る量を調整する」

 リルの声だ。今にも死にそうなかすれた声だ。……あいつは一体何を言っているんだ? いつもと声の調子が違う。作っていない声だ……。本当にリルなのか?

 

 茂みの陰になっている所で誰かが倒れていた。あの金髪は間違いなくリルだ。倒れている……。一瞬背筋が凍った。俺は急いで彼女の元へ走った。

「リル!」

 リルは動かずにずっと何か呪文のように呟いている。俺はリルの体を支えながらゆっくり起こした。リルの額に手を置いた。……なんて熱だ。あの時、無理矢理にでも走るのを止めさせるべきだったんだ。

「明るい所ではロドプシンが減少し、暗い所ではロドプシンが増加する」

「は? ロドプシンって何だ?」

「……視紅だよ」

 苦しそうに彼女はそう言った。シコウ? なんだそれ。それにいつものあの変な話し方じゃない。……今はそんな事を考えている場合じゃない。

 

 俺は自分の服を勢い良く破り、魔法でそれを冷たくしてリルの額に軽く乗せた。

 それでも、まだ彼女は荒い息遣いで苦しそうな表情をしていた。その様子を見ていると、何故か心が締め付けられた。リルの苦しむ顔は見たくない。そんな事を思いながら俺はそっと両腕でリルを横向きに抱き上げた。彼女の体温が俺の体に伝わる。……かなりの高熱だ。

「視紅は光受容器細胞も存在する感光色素……」

 リルは俺の腕の中で呻きながらそう言った。

「さっきから何を言っているんだ?」

 ……リルは馬鹿だ。それなのにさっきから俺の知らない単語を発している。

 俺はリルを抱きながら、陰から元の道の方に足を進めた。

「眩しい……」

 リルは眉間に皺を寄せながらかすれた声でそう言った。

「明るい所に出ると眩しくてよく見えないけど、段々視細胞の感度が低くなって、見えるようになる。これを明順応という……」

 苦しそうに呼吸をしながらリルは口を小さく動かす。

 ……明順応? まさか、リルがそんな事を知っているはずがない。

「反対に、暗い所に入ると初めはよく見えないが、段々視細胞の感度が高くなるように見える……」

 リルはそう言いながら寝てしまった。……今の説明は暗順応の事だ。

 俺は思わず目を見開きながら眠っているリルを見つめた。……本当にリルなのか?

読んで頂き本当に有難うございます_(._.)_♡

本当に嬉しいです!


感想も全て楽しみながら読んでおります。温かい感想を本当に有難うございます!


ツイッターで、死にたくないのでぶりっ子馬鹿令嬢を演じます、とハッシュタグを付けて画像(picrew)を載せているので良かったら見て下さい。

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[気になる点] Twitterで後書きのハッシュタグ検索したのですが、出てきませんでした もう消してしまわれたのですか?
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