第六十三話:麗しき少女たちの昼下がり:王都公爵邸の艶やかなお茶会
4. 麗しき少女たちの昼下がり:王都公爵邸の艶やかなお茶会
公爵や翔が、コーリア商会との本格的な『経済戦争(日本の塩と穀物の転送)』の最終調整で慌ただしく駆け回っている、そんな日の昼下がり。
王都にあるブルグンド公爵邸の、陽の光が燦々と差し込む美しいサンルーム。
白亜のテーブルには、日本の駿から送られてきたばかりの『銀座千疋屋の最高級フルーツタルト』や、繊細なガラスのカップに注がれた高価なハーブティーが並んでいた。
だが、その華やかな席を支配していたのは、紅茶の湯気よりも熱く、そしてバチバチと火花が散るような「尋常ならざる緊迫感」だった。
「──さて、アイリス」
アデライードが、お茶のフォークを握りしめたまま、ツリ目を限界まで鋭く光らせて、給仕をしていた侍女のアイリスを射すくめた。
「あなた、一昨日の夜、翔様のお部屋へ『加湿用の魔法道具』を届けに行ったきり、翌朝の朝食の時間まで、戻ってこなかったそうね?」
「ええ、アイリス」
ベアトリーチェも、おっとりとした笑みを浮かべつつも、その瞳の奥には底冷えするような嫉妬の炎を燃やして、アイリスを問い詰める。
「公爵夫人(お母様)から『夜にこっそりおもてなししなさい』と言われたからといって……本当に、翔様のお部屋で、朝まで何をされていましたの? 包み隠さず、すべてを吐き出しなさいな」
二人の上級貴族令嬢からの、凄まじい「尋常ならざる圧力」。
だが、アイリスは顔を耳まで真っ赤に染め、俯きながらも、指先でエプロンの端をいじりながら、この上なく幸せそうな、そして「勝者」特有の艶やかな微笑みを浮かべてみせた。
「あ、あの……アデライード様、ベアトリーチェ様。その、本当に、ただ……お疲れの翔様にお茶を差し上げようとしたところ……。翔様が私の手首を掴んで、そのままベッドへと引っ張り込まれて……。一晩中、翔様のあの大きくて、熱い両腕で、背中からガッチリと抱きしめられて、温もりを分け合っていただけですわ。……ふふ、翔様は本当に、お優しいお方ですものね」
「き、キーーーーーッ!!!」
アデライードが、顔を真っ赤にしてテーブルを叩いた。
「翔様、泥酔していたとはいえ、本当にアイリスをそんなふうに撫で回して抱き枕にしていたなんて……! 私なんて、まだ腕をぎゅっと抱きしめただけなのに、ずるすぎるわ!」
「まあ……。アイリス、まさかそこまで既成事実を積み重ねていたなんて、カノーヴァの名にかけて、私も負けていられませんわ」
ベアトリーチェも、サクラ色のプルプルの唇を悔しそうに噛み締めた。
「あはは! アデライードちゃんたち、本当に翔先生のことで頭がいっぱいなんだねー!」
テーブルの端で、タルトをサクサクと美味しそうに食べていた柊鏡花が、ゲラゲラと笑い出した。その隣では、橘ほのかもハーブティーを飲みながらクスクスと笑っている。
このお茶会には、特訓の合間の休養として、地球の鏡花、ほのか、そして新生合同チームのシェリーと、ミリーナ(ミーナ)の合計七人の女子メンバーが勢揃いしていたのだ。
「でもさ、アデライードちゃん、ベアトリーチェちゃん、アイリスさん。令嬢三人組が翔先生を本気で狙ってるのはよく分かるけど……」
鏡花が、悪戯な笑みを浮かべて、フォークをシェリーたちに向けた。
「ここにいる他の四人──私、ほのか、シェリーちゃん、ミリーナちゃんが、『誰を好きなのか』。そっちの恋バナの方が、私たちはすごく気になるんだけどなー!」
「ええっ!?」
ほのかが、顔を真っ赤にしてハーブティーを吹き出しそうになった。
「き、鏡花ちゃん、急に何言ってるのよ! 私は別に、そんな──」
「あら、ほのかちゃん、顔真っ赤だよ? 隠したって無駄だよ。私たち、この異世界に来てからずっと一緒なんだから、誰が誰のどこを見てるか、全部お見通しなんだから!」
鏡花の言葉に、令嬢三人(アデライード、ベアトリーチェ、アイリス)も、一瞬にして目を輝かせて身を乗り出した。
「まぁ……! 鏡花さん、それは非常に興味深いお話ですわ! 貴方たち、翔様のことを『かっこいい』と、男として凄く尊敬しているのは知っていますけれど……。他に、本命のお相手がいらっしゃるの?」
ベアトリーチェが嬉しそうに尋ねる。
「うん! 私たちはね、翔先生のことは『お父さん』とか『憧れの最高にかっこいいお兄ちゃん』みたいにリスペクトしてるけど、本命はやっぱり、一緒に戦ってる『パーティーの仲間』なんだよね!」
鏡花が胸を張して言い放つと、シェリーも、ミリーナも、頬を林檎のように真っ赤にして俯いた。
「よし、じゃあまずは私から告白しちゃうぞ!」
鏡花が、少し照れくさそうに頭を掻きながら、満面の笑みで告白した。
「私はね……やっぱり、陽斗(水上)かな。
日本にいた時は、ただのお調子者でうるさいクラスメイトとしか思ってなかった。でもね、この異世界に来てから、私を守ろうと一番前で必死に剣を振るってくれる背中が、すごく……その、頼もしくて男らしくて、かっこいいなって思っちゃったの。あとね、日本のトレーニングを始めてから、彼、身体がすごく引き締まって、私をリードしてくれるステップが、その、凄くセクシーなんだもん……」
「きゃああー!」と、アデライードたちが黄色い悲鳴を上げる。
「次は、ほのかちゃん! ほら、言いなさい!」
「うぅ……、鏡花ちゃんのバカ……」
ほのかは両手で顔を覆いながらも、指の隙間から真っ赤な顔を覗かせて、小さな声で打ち明けた。
「私は……真司君(不破)。
私は魔法を使う時、魔力の充填に時間がかかって、いつも無防備になっちゃう。でもね、真司君は『金剛の肉体』で、私の前に立って、一歩も退かずに巨大な壁になって守ってくれるの。あのたくましい背中を見ると、どんなに怖い魔物が来ても、心臓がすごく安心するっていうか……。それにね、私が魔法を撃ち終えた後、真司君が『橘、怪我はねえか?』って、あの無骨な顔で優しく笑ってくれるのが、すごく……好きなの」
「素晴らしいですわ、ほのかさん! 鉄壁の肉体を持つ男に守られる恋……最高ですわ!」
アイリスも、自分のことのように手を合わせてうっとりとしていた。
「じゃ、じゃあ、次は私ですね……」
シェリーが、優雅な仕草を崩しながらも、サクラ色のドレスの裾をぎゅっと握りしめて語り始めた。
「私は、カイルですわ。
王都で翔様に負けて、代表候補を剥奪されて、泥水をすすって……。そんな絶望のどん底にいたカイルが、公爵様からの手紙を読んだ時、私の手を強く握って『シェリー、俺はもう一度這い上がる。お前を、お前たちを、絶対に幸せな未来へ連れて行く』って、涙を流しながら誓ってくれたのです。あの、傷だらけになりながらも一からやり直そうと決意した彼の、泥臭くも清らかな横顔に……私は、私の生涯のすべてをかけて支えたいと、心から恋に落ちてしまいましたの」
「カイル様、王都の時とは見違えるほどに格好良くなりましたものね……。シェリー、おめでとうございますわ」
ベアトリーチェが、親戚のような存在であるシェリーの恋を、優しく祝福した。
「最後は、ミリーナちゃん(ミーナ)だよ! ほら、早く!」
ミリーナは、ハーブティーのカップをいじりながら、顔が火を吹くほど真っ赤になって俯いていたが、意を決したように小さな声で囁いた。
「私は……ジーモ。
彼は不器用で、身体も大きくて、いつもぶっきらぼうだけど……。戦闘が終わって、魔力のケアをしてあげると、いつも大きな顔を真っ赤にして『ミーナ、サンキューな』って、私の頭を、あの大きな温かい手でくしゃくしゃに撫で回してくれるの。その不器用な優しさと、大きな手の温もりが、私、たまらなく愛おしくて……。もっと、彼のお世話をしてあげたいの……」
「きゃあーーーっ!!!」
サンルームは、七人の麗しき少女たちの、甘酸っぱくも、この上なく温かい「本気の恋バナ」の熱気と歓声に包まれ、深夜遅くまで明かりが消えることなく、賑やかな笑い声が響き渡り続けるのだった。
世界を繋ぐ、奇跡の通信と、不敵なる経済封鎖の進行。
彼らの「異世界課金無双」は、少女たちの美しき『恋の連帯』、そして日本の完璧な食塩・穀物の大量転送システムを得て、いよいよリペラ共和国のコーリア商会を、市場から完全に叩き落とす本番のハメ殺し劇へと、突入していくのだった。




