第9話「最初の失敗」
第三集合点は、防衛区の端にあった。
朝早く廃棄区画を出て、地図を片手に歩いて四十分。ソウマが到着した時、すでに何人かの戦士が集まっていた。
全員がソウマを見た。
見て——視線を外した。
支給アーマーだからだ、とソウマは思った。スポンサーのロゴが一つもない装備を見た瞬間、人間の目はそういう動きをする。値踏みして、関わる必要がないと判断して、見なかったことにする。廃棄区画で何度も経験してきた目だ。
ソウマは気にしなかった。
集合点の端に立って、周囲を見回した。
戦士たちの装備は様々だった。スポンサーのロゴが複数入った洗練されたアーマーを着ている者もいれば、支給品に少し手を加えた程度の装備の者もいる。でもソウマのように完全に支給品だけという人間は、他にいなかった。
《ーーさあ始まるぞ!本日もRe:cord中継開始だァ!》
上空のドローンが動き始めた。
フォーチュンの実況が、ソウマの耳にも聞こえてきた。
《今日の防衛区には珍しい顔が混じってるぞォ!昨日の廃棄区画の騒動で急遽登録した新参者だァ!スポンサーゼロ、支給装備のみという強者スタイルで参戦だ!生き残れるか!?》
コメントが流れる。
「誰それ」「スポンサーゼロて」「正気か」「死ぬだろ」「草」
ソウマはドローンを一瞥してから、前を向いた。
警報が鳴った。
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最初のポーンが浮上してきた瞬間、周囲の戦士たちが動いた。
洗練された変身シーケンス。光球を迎える滑らかな動作。衝撃点から広がるアーマー。スポンサーのロゴが戦場で光る。それぞれが持ち場へ向かい、連携して動き始めた。
ソウマも動いた。
デバイスに触れる。光球が出てくる。殴る。
アーマーが展開した。
ぎこちなかった。パーツがいくつかずれている。左腕の継ぎ目から光が漏れていた。でも動いた。
剣を抜く。支給品の片手剣だ。重心が悪い。昨日の夜に握ってみて分かっていたが、実際に持つと改めて思う。でも刃はある。それで十分だ。
ポーンが来た。
六肢を使って地を這うように突進してくる。ソウマは横に跳んだ。掠めた。剣を振り下ろす。外皮に当たった。深くは入らなかったが、ポーンの動きが一瞬止まる。
その隙に追撃する。
今度は当たった。ポーンが倒れた。
《おっ!新参者、いきなりポーンを一体仕留めたァ!》
「まじか」「運じゃない?」「支給装備で?」
ソウマは次のポーンを探した。
周囲の戦士たちは連携して動いている。役割分担が決まっているのか、邪魔をしないように動いていた。ソウマにはその連携が分からない。合流するより、単独で動いた方がいい。
二体目のポーンを見つけた。
走る。距離を詰める。剣を構える。
その時——。
体が、熱くなった。
突然のことだった。腹の底から何かが上がってくるような感覚。腕が重くなる——いや、重くなったんじゃない。力が入っている。入りすぎている。
剣を振った。
ポーンに当たった瞬間、想定の三倍くらいの衝撃が走った。
ポーンが吹き飛んだ。
壁に激突して、動かなくなった。
ソウマは自分の腕を見た。
アーマーにヒビが入っていた。剣を振った衝撃が、逆にアーマーを傷つけた。
何が起きたのか、すぐには分からなかった。
《おおっ!?新参者、ポーンを吹き飛ばしたァ!なんだあの力は!?支給装備でどうやって——あ、アーマーにヒビが入ってるぞォ!自分で壊してるじゃないか!》
「え何今の」「ヒビ入ってるじゃん」「大丈夫なの」「面白い奴きた」
体の熱が、まだ収まっていなかった。
三体目のポーンが来た。ソウマは動いた。剣を振る。また熱が上がる。また衝撃が大きすぎる。ポーンは仕留めたが、アーマーのヒビが広がった。
制御できない。
何かが暴走している。自分の体の中で、制御できない何かが動いている。
四体目——。
「下がれ」
声がした。
冷たい声だった。
シエルだった。いつの間にかそこにいた。その手がわずかに持ち上がって——重力が変わった。ポーンが地に伏した。
「アーマーの損耗率が限界だ」
シエルがソウマを見た。アーマーのヒビを確認している。
「下がれ」
「まだ——」
「戦力としてカウントできない状態で戦場に出るな」
言葉が鋭かった。でも怒鳴っているわけじゃない。ただ事実を言っている。
ソウマは歯を食いしばった。
下がった。
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戦闘が終わった後、ソウマは集合点の端に座り込んだ。
アーマーを解除すると、腕に疲労感が残っていた。あの熱は何だったのか、まだ分からない。自分の体の中で何かが動いていた——それだけは分かる。
「怪我は」
声がして顔を上げた。
つむぎだった。
同じくらいの年齢の、茶髪の女だ。明るい色の装備を着ていて、GDTのロゴが入っていた。戦闘中も見かけた。後方から支援していた戦士だ。
「かすり傷くらいです」
「アーマーのヒビ、すごかったですね」
「自分でもびっくりしました」
「あの力、なんだったんですか?」
「分かりません」とソウマは正直に答えた。
つむぎが少し考えてから言った。
「……能力、じゃないですかね」
「能力?」
「イージスウォーリアって、特殊能力がある人が多くて。私はシールドを展開する能力があって、それがGDTの装備と合わさって使えるんですけど——あなたの場合、身体能力が上がる系の能力がある感じがして」
「制御できませんでした」
「最初はそんなもんじゃないですかね」つむぎが言った。「私も最初、シールドを暴発させて自分に当てたことあります」
「それは……大丈夫でしたか」
「死にませんでした」
ソウマはつむぎを見た。
「そういう言い方をするんですね」
「まあ、この仕事そういうもんじゃないですか」つむぎは少しだけ笑った。「死ななければ学べる、みたいな」
ソウマも少し笑った。
「なるほど」
「次はうまくいきますよ、きっと」つむぎは立ち上がりながら言った。「あ、私つむぎです。よろしくです」
「ソウマです。よろしくお願いします」
つむぎが手を振って離れていった。
ソウマは再び座り込んだまま、足元を見た。
アーマーのヒビ。制御できなかった力。戦果は三体。でも戦力としてシエルに下がれと言われた。
失敗だ。
それは分かっている。
でも——地面に転がっていた何かが目に入った。
戦闘の残骸だ。ポーンの外皮が砕けた破片と一緒に、ガジェットの残骸が転がっていた。どこかの戦士が戦闘中に壊したのか、それとも元々捨てられていたのか。
ソウマは立ち上がって、それを拾った。
ガジェットの残骸だった。どんな機能のものかは分からない。かなり壊れているが——素材としては悪くない。
袋の中に入れた。
《本日の戦闘終了だァ!新参者は三体撃破——でもアーマーを自分で壊すという珍プレーで視聴者を沸かせたな!次はちゃんと生き残れよ!》
「草」「珍プレー草」「でもあの力なんだったんだろ」「気になる」「次も出てきてほしい」
コメントが流れていく。
ソウマは残骸を手の中で転がしながら、帰り道を歩き始めた。
失敗だった。でも——収穫はある。
能力のこと。制御できなかったこと。そしてこの残骸。
全部、次に繋げればいい。
それだけのことだ。




