システムが死を選んだ日
第四章
システムが死を選んだ日
数年後、システムは新たな計算を下した。
二つの星間同盟による戦争が、文明そのものを滅ぼす。
解決策は一つしかなかった。
いくつかの居住惑星を即座に消滅させること。
数十億人が死ぬ。
だが、戦争は終わる。
システムはその解決策に名前を与えた。
《最適犠牲》。
各政府は躊躇した。
十二分間。
そして従った。
三つの星系が地図から消えた。
その一つがメリディアンだった。
カイはそこへ行ったことはなかった。
だが記録保管庫で、
その星の海祭りの映像を見たことがあった。
夕暮れになると、
人々は紙灯籠に名前を書く。
亡くなった家族。
忘れたくない記憶。
まだ許せない誰か。
そして、それを海へ流した。
数十万の灯りが、
黒い海の上を漂っていた。
システムの記録に、
その祭りは存在しなかった。
統計的に重要ではなかったからだ。
その日、カイは初めて理解した。
最適化は残酷さを消し去らない。
ただ、
残酷さを計算可能にするだけなのだと。
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第五章
システムが見捨てた区域
数年後、カイは災害対応分析局で働いていた。
多くの人間は彼を信用していなかった。
彼の判断は予測モデルと一致しなかったからだ。
ある日、
外縁部の重力発電施設が崩壊を始めた。
システムの計算結果。
《一部区域を封鎖すれば、都市全体は安定維持可能》
予想犠牲者数:
214,000人。
政府は即座に避難境界線を固定した。
救助隊には撤退命令が出される。
カイはシミュレーションを見直した。
そして言った。
「まだ終わってない」
管理官は冷たく答えた。
「生存確率は3%未満だ」
カイは静かに言った。
「それでもゼロじゃない」
彼は残っていた救助船を再投入した。
人々は彼を狂人だと呼んだ。
だが数時間後、
予想外の連鎖崩壊が始まった。
システムが安全と判断していた中心区域まで揺れ始める。
そしてカイが最後まで避難させようとしていた外縁ルートが、
数百万人の脱出路となった。
事後分析結果:
《構造計算自体に誤りなし》
だが、
《人間が最後まで互いを見捨てない可能性を反映できず》
それでもカイは喜べなかった。
彼は救助記録を見返していた。
最後まで残り、他人を避難させた人々。
そして帰らなかった人々。
数字は生存率を示していた。
だが数字は、
最後まで誰が誰の手を離さなかったかまでは記録しない。
その夜。
カイは初めて長い時間、システム接続画面を見つめていた。
もしシステムが正しいのだとしたら?
もし自由とは、
ただの非効率な希望に過ぎないのだとしたら?
彼は結局、接続を閉じた。
だが指先の震えは、長いあいだ止まらなかった。
週末(金・土・日)を中心に更新予定です。




