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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
二章『湯けむりの向こう、約束の場所』
57/91

2-16

「たしかに静かすぎるな……」


 回廊を取り囲む土壁の陣地はその圧倒的な威容(いよう)に反して不気味なまでに静まり返っていた。

本陣から出てカルクトス軍の集結する大門前へとやって来た俺たちだったが、たしかにレーンの言葉は正しかった。

そこには敵からの牽制(けんせい)挑発(ちょうはつ)皆無(かいむ)だったのだ。

普通、城攻めなどをする場合、先ずもって防衛側の牽制攻撃から戦いが始まるものだ。

なぜなら弓矢にしろ投擲(とうてき)武器にしろ、城壁などの高所優位を持つ防衛側の射程距離の方が長いからだ。

だから攻撃側は相手の先制射撃をかい潜って城門を突破するか城壁そのものを登らなければならない。

しかし今、回廊の守備隊からは防衛反応は一切無い。

それどころかこちらの動きを監視する見張りの姿さえ見えない。

本当に無人のように見える。

おかしい。

一周目では敵からの熱烈な歓迎にカルクトス軍も全力で応じたものだ。

それがここまで無抵抗なのはさすがに解せない。


「罠、でしょうか……?」


 指揮官も敵情を測りかねているのだろう。

声に戸惑いがある。


「それにしては不自然です。籠城(ろうじょう)戦の最大の要点はいかに敵を城門城壁に取り付かせないか、です。罠を張るにしてもこちらの接近を簡単に許すようでは意味が無い」


 あるいは接近したところを一網打尽にするような策があるのか。

どちらにしてもリスクに見合うとは思えないが……


「とにかく大門を打ち破って中を見てみるしかないですね」


 危険だが(いた)(かた)ない。

このままここで様子を見ていても(らち)があかない。


「でありましたら我が軍の魔法兵にお任せください。日頃(ひごろ)の訓練の成果をお見せいたします」

「いや。何だったら俺が――」

「いえいえ。賢者様のお手を(わずら)わせるわけにはいきません。ここはなにとぞ我らにお任せを」


 うーん。

正直なところ魔王軍の陣地の防御は固い。

回廊を守っている土壁は敵の魔術によるもので、それこそ魔術戦を意識した強固な造りだ。

それをカルクトス軍の魔法兵力だけで撃ち抜くには相当の時間がかかるだろう。

と言うか、実際一周目ではかなり苦労していた。

この状況で時間をかけるのは正直怖い。

だから俺がどうにかしてもいいのだが、しかしこんなにやる気を出しているのに面子(めんつ)(つぶ)すのも気が引ける。

こうなったら一度任せてだめそうだったら手を貸す方向でいくのがいいかもしれない。


「分かりました。それでは大門の破壊をおねがいします」


 鬼が出るか蛇が出るか。

俺は離れた位置にいるクーネリアの殺気を探っていた。

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