2-15
魔術を使い大急ぎで服を乾かした俺が指揮所の天幕に戻ると、プリニャンカが指揮官やレーンと言い争っていた。
クーネリアも自力で乾燥させたようですでに天幕で待っていた。
しかし騒ぎには介入せず天幕の隅で我関せずを決め込んでいる。
「なんだ、先に来ていたならプリニャンカのことを説明しておいてくれてもいいだろう?」
「……」
ぷいっと。
俺の言葉にクーネリアは返事もせずにそっぽを向いた。
どうやらさっきのことでご立腹らしい。
まぁ、クーネリアよりもプリニャンカたちの方が今は先決だ。
レーンも指揮官もプリニャンカの登場には驚いただろう。
見も知らぬ獣人が乱入してくれば無理もない。
だがこれ自体は想定の範囲内だ。
「ここは傭兵の来るところではない。大人しく仲間のところへ戻りたまえ」
「にゃんは軍師のご主人様にゃん。えらいにゃん。だからここで待つにゃん」
「軍師ってゼノのことだよね。あの人はボクの仲間だけど、君はゼノの知り合いなの?」
「ゼノ――そいつ誰にゃん?」
「あれ。ご主人様ってゼノのことじゃないの?」
「ならばなおさら去りたまえ。でなくては力ずくでつまみ出すことになるぞ」
「んにゃー。にゃんはご主人様にゃん。すぐに子分が来るにゃん!」
プリニャンカが言葉足らずなこともあってまったく事情を理解されていないようだ。
もっとも、プリニャンカがちゃんと説明できてもそうそう信じてもらえるような話ではない気もする。
「レーン。指揮官。遅くなりました」
「賢者様。お待ちしておりました」
「ゼノ。いいところに。じつは今ちょっと大変なんだ」
「来たにゃん。あれがにゃんの子分にゃん」
プリニャンカは俺を見るなり駆け寄って来て勢いそのままに飛びついてくる。
そこから俺の体をよじ登り、プリニャンカはひとりでに肩車を完成させた。
さすが器用なものだ。
だが俺に登った意味は分からない。
「あいつらにゃんをいじめるにゃん。ご主人様命令にゃん。二人まとめて倒すにゃん」
「いや。両方とも味方なので倒したらだめです。ご主人様」
「ご主人様って、ゼノ、その子とどういう関係なの?」
「いや。話せば長くなるんだが、賭けに負けて彼女にご奉仕することになった」
「すごく短いよ!?」
しかたない。
俺はことの経緯をかいつまんでレーンに説明した。
じつはかくかくしかじかうんぬんかんぬん――
「そっか。ゼノは調理場の人たちを助けたかったんだね」
そう言ってもらえると助かる。
何せいっしょに居た誰かさんはそのあたりに関してまったく労ってはくれなかった。
ともかく経緯を理解したレーンは視線を上げてプリニャンカを見た。
「事情は分かったけど、ゼノはボクの仲間だから返してもらっていいかな。獣人さん」
「にゃんはプリニャンカにゃん。こいつはにゃんの下僕になったにゃん。諦めてどっか行くにゃん」
「そうはいかないよ。ボクはレーン・レイ・ソードワース。聖法教会に認定された勇者だよ」
「お前勇者にゃん?」
「そうだよ。ボクたちは魔族を倒すためにこの戦いに参加してるんだ」
「魔族ならにゃんも戦ってるにゃん。猫族のやつらといっしょに全員にゃんが倒してやるから心配するなにゃん」
「そうじゃなくて、それで済まない状況になったからゼノの知恵が必要なんだってば」
「心配しなくてもご主人様のにゃんが居れば大丈夫にゃん」
まるで押し問答だな。
放っておけば堂々巡りになりそうだが、それよりもレーンが気になることを言っている。
「待ってくれ。レーン。それで済まない状況って、もしかして何かあったのか?」
「そうだよ。聞いてよ。ゼノ。魔王軍の様子がおかしいんだ」
「様子がおかしい、ってどうおかしいんだ?」
魔王軍。
やはりクーネリアが何か仕掛けてきたのか。
少なくとも一周目の時にはこういう展開は無かった。
だがたとえ何が起こっても俺はレーンとカルクトス軍を勝たせてみせる。
しかし、俺の想いとは裏腹に、レーンの口から紡がれた言葉は俺の予想していないものだった。
「それがね、魔王軍の陣地に誰も居ないみたいなんだ……」
心底戸惑ったようにそう言ったレーンに、俺もまた困惑するしかなかった。




