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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
二章『湯けむりの向こう、約束の場所』
45/91

2-4

 さて、話を聞くかぎり今回も状況に大きな違いは無いようだった。

であれば、想定されるのは包囲戦だ。

敵は拠点(きょてん)に引きこもっていて、味方がそれを取り囲んでいる。

あとは土壁の防御を打ち破って攻め込めばいい。

まして一度この戦いを経験した俺が居るのだから負けるわけがない――というのは魔王軍が一周目と同じ戦術を取った場合だけだ。

カルクトス陣営に俺というループ毎の記憶を持つ参謀が居るように、魔王軍にもクーネリアという対等な記憶保持者が居る。

俺が一周目の記憶を頼りに有利な行動を指示できるように、クーネリアも魔王軍に対して同じことができるのだ。

だから魔王軍が一周目と違う動きをしてくることは想定しておかなければならない。


 俺は目線だけを動かしてクーネリア表情を盗み見た。

建前上俺の侍従(じじゅう)ということになっているためか天幕の端に控えて所在なさげな顔をしている。

見るかぎりこちらの作戦を魔王軍へと漏洩(ろうえい)しようと考えているようには思えない。

単純に暇を持て余してつまらそうな感じだ。

だが仮にも魔王が本当に?

そう勘ぐってしまうのは俺でなくても正常な反応だろう。

何せ一周目ではこの戦いはカルクトス側の勝利で終わったのだ。

その結果は直接戦いに参加していなかったクーネリアだって知っているはず。

だから戦術を変更したり追加の戦力を投入したり何らかの対策は講じているだろう。

まして今のクーネリアはこちらの作戦をあらかじめ聞き出せる立場に居る。

だからそれを有効活用してもおかしくない。

いや。

当然そうするだろう。

そしてクーネリアがそうした行動を取ったとして、俺はそれを裏切りだとは思わない。

もともとやむにやまれぬ理由で協力関係にあるが、それはあくまでも機械仕掛けの神デウス・エクス・マギアの生み出したループ現象からの脱出という共通目的に限っての話。

それ以外の、現世界対魔界という戦争においては依然(いぜん)敵同士であることに変わりはない。

それに俺自身一周目の記憶を頼っているのにクーネリアにそれをするなとは言えない。

その上でこの軍議に同席させたのはクーネリアが自分の得た情報をどう扱うのか見極めるためだ。

……今後のこともある。

クーネリアとはお互いの立場について話し合っておく必要があるかもしれない。

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