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あの賢者タイムをもういちど  作者: 妖怪筆鬼夜行
一章『あたらしい朝が、来ない……』
30/91

1-29

 部屋に入るとそこはバラ色の空間――ということはなく、何のことはない普通の客室だった。

寝室と別になったこのそれなりに広い空間には絨毯が敷かれ、その上にソファーとローテーブルが配置されている。

その他壁際には荷物や服をしまっておけるクローゼットと、暇を潰せるようにと小さな本棚が置かれているくらいで王城の客室と言えど全体的に質素なものだ。

ただしそれらの調度品は赤みを帯びた高級木材で作られていて決して貧相な品などではない。

このあたりは自然豊かなルーシアならではの林業あってのことだ。

国中どこもかしこも木ばっかりだがそのぶん木だけはいくらでもある。

高級木材となる銘木もだ。


「どうぞこちらに」


 レーンに促されるまま俺とクーネリアが並んでソファーへ座るとレーンもすぐに対面に腰を下ろした。

一連の動作もそうだが、姿勢良く太ももに手を置いたその姿はやはり上品なことこの上ない。

本当、普段からレーンは立派に騎士の務めを果たしているのだろう。


「それでお話というのはなんですか?」


 さてなんだろう?

何を話すべきだろうか?

いや。

ふざけているわけではない。

実際話の内容自体はどうでもいい。

というのは言い過ぎかもしれないが、具体的に何を語り合うかはさして問題ではない。

どだい短時間のおしゃべりでは必要十分と言えるほど親密度は高められないだろう。

だからもとから俺の目的はこの場を(もう)けること自体、あくまでも旅立ちの前に俺たち三人だけで集まっている状況が欲しかっただけだ。

とは言え何か会話をして間を保たせなければ本当の作戦に支障が出る。

せっかくなので前々から気になっていたことを話題にしてみよう。


「ソードワース卿は魔王討伐に向かわれると聞きました。あなたはなぜそのような危険な旅に?」


 何だろう。

自分で喋っていてよそよそしい気がする。

レーン相手なのだからもっと普通に喋りたいのだが、初対面だと思うとあまり馴れ馴れしくできない。

たぶんあれだ。

今までの周回ではレーンと本格的に一対一で話すのは仲間になったあとだったからだ。

だから決まって『俺たち仲間なんだから気をつかうのはなしにしようぜ』というノリで距離を詰めてきた。

しかし今回に限っては仲間になる前に面と向かってレーンと会話することになってしまった。

正確には、聖法教会の要請を受け入れレーンの仲間になるかどうかを判断する段階で、だ。

このタイミングで仲間気取りの気安い態度というのは無いだろう。

結局最後には仲間になると決まっているとは言え、あんまりちゃらんぽらんだとレーンに優柔不断だという印象を持たれかねない。

もちろんそれは困るのは言うまでもない。

俺はあくまでも勇者レーン・レイ・ソードワースの頼れる参謀、賢者ゼノ・クレイスで居たいのだ。

その地位を守るためにはしかたがない。

ここはいったん寂しさを抑えて大人しく公人として振る舞おう。


「魔王討伐は聖法教会から下された任務です。だからボクは――」

「教会のことはいいんです。彼らが魔族と対立するのは歴史的な問題だ。俺が聞きたいのはあなた自身が魔族と戦う理由です」


 そう問うとレーンは一度呼吸を飲み込んだが再び口を開くのにほとんど時間を要さなかった。

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