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「はい。何でしょうか?」
聞き慣れた声がしてドアが開かれると騎士正装に身を包んだレーンが現れた。
よかった。
まさかまた裸なんてことがあったら本末転倒だったがその心配は杞憂だった。
ただし、その表情はどこかキョトンとしたように目を丸くしている。
謁見の時間までは早すぎるし、俺やクーネリアみたいな自分と同年代の人間が訪ねてくるなんて予想していなかっただろう。
朝からいったい何事だ、と思ってもしかたない。
「突然ですが執政顧問代理です。はじめまして」
四賢者云々は魔導学府での立場なので一応ここではルーシアでの役職を名乗っておく。
何せジェームス王には色々と世話になっている。
たとえ本人が居ないところであっても義理を欠くと誰にも信用されなくなるのだ。
「はじめまして、レーン・レイ・ソードワースです。ってあれ。ルーシア王国の執政顧問代理ってことはもしかして……?」
「ゼノ・クレイスといいます。こっちは妹のクーネ」
「け、賢者さま!?」
俺の不意打ちでの来訪がよほど意外だったのか、レーンの表情がキョトンからびっくりに変わっている。
あるいはもしかしたら俺が思ったより若かったことに驚いたのかもしれない。
今まで俺たちが知り合うのは決まって謁見の場だったからレーンも表情を抑えていたと思う。
だが実際かしこまった場でもなければ初対面の人たちからはよく言われるのだ。
『若いですね』、と。
まぁ、これはしかたがないと言えばしかたがないことだ。
アカデメイアの四賢者たちはほとんど人前に姿を現さないし、俺にしたってルーシアを中心とした辺境暮らしだ。
実物を見たことがない以上、賢者なんて言葉のイメージから想像されるのは白ひげを蓄えた老人の姿だろう。
だいたい相場はそう決まっている。
だから年齢に驚かれるのには慣れているが、これはこれでちょうどいい機会かもしれない。
レーンは最初俺をどう思っていたのかついでに聞いておこう。
「もしかして思っていたのと違いましたか。なんか頼りないなー、とか?」
「い、いえ。賢者様のことは聖法教会から色々聞かされてましたから意外ということはないです」
「色々?」
「若くして四賢者になられた天才だとか、世界で唯一のエルフ魔法の使い手だとか。だからボクもお会いできるのをすごく楽しみにしてました」
おや。
そうだったのか。
俺はてっきり想像より若かったから最初から親近感を持たれていたのかと思っていた。
しかし実際には教会がきちんと俺のことを調べてレーンに伝えていたわけか。
俺自身、彼らとは何の接点もないのだがご苦労なことである。
「それで、あの、どういったご要件でしょうか?」
そうだそうだ。
今は個人的な興味を優先している時ではない。
ここに来たのにはきちんと理由がある。
理由と言うか、決行すべき作戦がだ。
「謁見の前に少しお話しをしたいのですが、かまいませんか?」
俺がそう言うと、レーンは不思議そうにしつつも快く部屋に招き入れてくれた。
さて、ここからが勝負だ。




