1-21
ところでルーシア王国について執政顧問代理の俺から少し話しておこう。
ルーシア王国は大陸中西部の少国家群の内の一つであり、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた農業国だ。
と言っても地形に起伏が多いので大規模農場は少ない。
そのため農作物の産出量は比較的安定しているが輸出量が少なく経済基盤としては弱いのが実情だ。
加えて工業の発展は近隣諸国にくらべて見劣りし、様々な製品を輸入に頼っているために貿易的にはまぁまぁ赤字に近い。
つまりは片田舎の万年貧乏国家なのだが、そのお寒い懐事情とは真逆の温かい人間関係が魅力だ。
その証拠に今も俺の周りには老若男女たくさんの人たちが集まってきている。
「なぁ、ゼノ。どうせ今日も仕事なんかしないんだろ。だったら俺たちと遊ぼうぜ」
「そんなことないさ。今日は王様に呼ばれてるからお城に行かなくちゃいけないんだ」
「ゼノ様。見てください。最近うちの赤ん坊の体に湿疹が出てるんです」
「それは普通の汗疹だから大丈夫だ。近頃は少し暑くなってきたから汗をかいたんだろう。濡れた布でこまめに拭いてあげればすぐ良くなるよ」
「賢者様。先日ご相談した庭木の病が少しずつよくなっておるようです。この年寄りの唯一の楽しみをお救いくださりありがとうございます」
「それはよかった。原因の土を入れ替えたのが功を奏したんでしょう。もし他の木にも症状が出たら同じように対処してみてください」
朝食を終えて国王の待つ城に向かう途中、俺は次々に話しかけてくる人々と言葉を交わす。
そんな様子にクーネリアはなかば呆れたような顔をしている。
まぁ、正体がばれないように前髪で目元を隠しているので下半分しか見えないが。
「鬱陶しいわね。やり直すたびにどこからともなく湧いて出てきて。こいつら普段からこうなの?」
家を出た時は俺とクーネリアの二人だったのに、いつの間にか周りに人が集まってきて歩く井戸端会議状態になっている。
田舎ならではのご近所づきあいの賜物だが、クーネリアは俺のモテモテっぷりが気に入らないらしい。
「そう怒らなくてもいいだろう。この国はみんないい人ばっかりだぞ」
クーネリアがイライラしているのは俺が失敗して巻き戻ったせいだからだ。
みんなに八つ当たりしないように気をそらしておくべきだろう。
とりあえず何か会話でも、とクーネリアに振り向くと、俺以外にも彼女に向けられている視線があった。
それはまだ十歳そこそこの男の子。
俺の遊び仲間の一人だった。




