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重い。
何やら顔面に圧力を感じる。
これはあれだ。
よく知っているあの感触だ。
「だから踏むなって」
目を醒ました俺は、クーネリアの素足を掴んで顔の上からどかした。
そして回復した視界に写ったのは、仰向けの俺を跨いで腕組みしている魔王様だった。
「まったく、あれだけ偉そうなこと言っといて失敗してんじゃないわよ」
記憶に覚えのあるこの状況とクーネリアの機嫌の悪そうな表情から察するに、どうやら俺はまた時間を巻き戻されてしまったらしい。
つまりそれはクーネリアの言うハーレム計画にとって致命的な失敗をしてしまったということだ。
「あんたいったい何やらかしたのよ。一発であの子と結ばれる可能性が吹っ飛ぶなんてよっぽどじゃない」
うむ。
たしかにレーンに殴られはしたが死んでしまうほどの威力ではなかった。
それにも関わらず時間が巻き戻ったということは別の意味でハーレムが達成できなくなった、つまり俺は修復不可能なまでにレーンに嫌われたということだろう。
そしてその原因は言わずもがな。
「裸をごちそうになりまし痛っ」
蹴ったぞ。
こいつ俺の顔を蹴ったぞ。
「待て待て。暴力反対暴力反対!」
抗議するのと同時に両手で顔を防御する。
そうそう何度も足蹴にされてたまるものか。
「犯罪を犯しておいてよくもそんなことが言えるわね。このエロ賢者!」
「あれは事故だ。不可抗力だ。俺だってあんなの予想していなかったぞ」
「だったらもうちょっと慎重に行動しなさいよ。初日からこんな調子で二年先に辿り着くのに何回やり直すつもりなのよ!」
「それについては面目ない。今回の敗因は完全に俺の油断だ。一周目と同じような行動をすれば同じような結果になると思っていたのが甘かった。だが安心しろ。一度失敗したことで時間差の概念の重要性を学んだからな。次はそれを計算に入れて行動するから大丈夫だ」
なんてことはない。
修正するべきはほんの数十秒のタイミングだ。
それさえ気をつければいいのだからそんなに深刻な状況ではない。
「チッ。あたしがそういつまでもやさしい顔してるなんて思うんじゃないわよ」
いったいいつやさしい顔なんてしたのか、クーネリアは言い捨てるとスカートを翻してベッドから飛び降りた。
「て言うかまた俺の家からか……」
ようやく体を起こして周囲を見回した俺は、ここがまごうことなき自宅であることを確認した。
つまり時間的には始まりの朝だ。
悲しいことに。
「なぁ。これまさかやり直しの度に一番最初まで戻されるんじゃないだろうな?」
「べつにそういうわけじゃないわよ。今だってあんたにとっては一番最初でもあたしにとっては途中からなんだし。でも戻された分だけまたやり直さないといけないから真面目にやれって言ってんのよ」
なるほど。
たしか一番最初の時間遡行でクーネリアは俺よりもっと前の時間軸に戻されて、十回以上巻き戻りを経験しながら今日この時点までたどり着いたんだったか。
そのクーネリアが今回俺といっしょにここから再スタートしているなら、俺もこの先上手くやれば今日より先のどこか途中からやり直せるわけだ。
そうと分かれば俄然やる気が出てくるな。
「次はもう少し慎重にやってみるか……」
この巻戻り現象のことも徐々に分かってきたし、次からはもっと上手くやれそうだ。
だから早くことを進めたいのだが。
「ちなみに今日の朝食って――?」
「言っとくけど同じ材料しかないわよ」
つまり同じ食事を三回目か。
繰り返しって、つらいんだな。
とっくに靴を履いたクーネリアが部屋から出て行くのを見送って、俺はいそいそと着替えを始めるのだった。




