1 あれから数日
更新再開です。
「おはようございます、ジラルドさん。お体の調子はどうですか?」
「ああ、ほぼ全快したみたいだ」
冒険者ギルド『癒しの盾』にやって来た俺は、出迎えてくれたソフィアに言った。
「またクエストを再開したいと思うんだが」
「うーん……もう少しお休みされてもいいのではないですか?」
ソフィアが反対した。
「かなり無理な力を使ったのでしょう?」
第一階位堕天使ノアとの戦いで俺が使った『剣帝の闘気』のことを言っているのだろう。
普段使う闘気とは段違いの消耗度だった。
ただ、それを使ったとき、俺は全盛期にまで肉体が若返っていた。
ソフィアのスキルの新たな段階である。
だから、そこまで大幅な消耗はない……のだが。
「まあ、もう二、三日くらい大事を取ってもいいかもしれないな」
「そうですよ。あれだけの戦いをしたのですから、ゆっくり休んでください」
「気遣わせてすまないな。ありがとう」
「い、いえ、そんなっ……!」
礼を言ったとたん、ソフィアが真っ赤になった。
「わ、私は、その、えっと……ジラルドさんが、心配で……その」
あたふたしていた。
ため息交じりに自分の唇を指でなぞっている。
「あ……」
この間の戦いで彼女からキスされたことを思いだした。
あれはきっとスキルの効果を最大限に発揮するための、一種の『儀式』みたいなもの──だと思っている。
それ以上の意味はないはずだ。
とはいえ、かつての恋人そっくりの容姿をした娘からのキスは、やはり特別な感慨があった。
と、
「おっはよー、師匠。ソフィアさんもー」
明るい声とともに一人のエルフ少女が入ってきた。
ミリエラだ。
俺は感慨やら回想やらを中断した。
「おはよう」
「おはようございます、ミリエラちゃん」
俺たちは挨拶を返した。
「ちらっと聞こえたんだけど……師匠、まだ体の調子が悪いの?」
上目遣いに俺を見上げるミリエラ。
エルフ特有の尖った耳がぴこんと動く。
「ん? いや、ほとんど問題ない。ただ念のために、もう少し休むだけだ」
珍しく心配そうな顔をしたミリエラに、俺は微笑んだ。
「何せ『剣帝の闘気』は若いころも滅多に使わなかったからな。ほんの少しでも闘気のコントロールを失敗すると自分の体に大きなダメージが残る。かなり危険な闘気操作が必要なんだ」
いわば切り札中の切り札である。
「へー」
なぜかミリエラは目を爛々と輝かせた。
「それだけリスクがあるってことは、きっとリターンも大きいんだよね? あたしもそれを使えるようになったら、もっと強くなれる?」
「いや、ミリエラはやめておいたほうがいいな」
俺は思わず苦笑した。
「第一、ミリエラには魔法があるだろう。そっちを磨いて、剣技も組み合わせて強くなる道を目指した方がいい」
「うーん……ま、そうだよね」
ミリエラはうなずいた。
「あたしが生きる道は魔法剣士かー」
「そういうことだ」
「じゃあ、稽古つけてよ。師匠──って、まだ本調子じゃないんだったね」
「そうだな……いや、待てよ」
俺はふと、あることを思いついた。
「俺が直接稽古をつけるのは控えるが、こういうのはどうだ、ミリエラ?」
耳打ちする。
「実戦訓練……?」
ミリエラがおうむ返しにつぶやいた。
そう、実戦訓練だ。
ミリエラに難易度が高めのクエストを受けてもらう。
俺は基本的に見守るだけ。
念のためにソフィアにも同行してもらい、どうしてもピンチのときにだけ俺が助ける──という具合だった。
俺と一対一の剣術指導もいいが、やはり実戦は人を大きく育てるからな。