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11 死闘の後

「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 ノアは息も絶え絶えに、神殿の床に崩れ落ちた。


 間一髪、だった。

 光想体を破壊された彼女は、ジラルドの斬撃を受けつつも時空干渉神術で体を再生させ、残るすべての力を振り絞ってここまで戻って来たのだ。


 もはや恥も外聞もない。

 ただ、死にたくない一心だった。


 心の底から、ジラルドの力に恐怖していた。

 と、


「手ひどくやられたのですね、ノアさん」


 すらりとした女が声をかけてくる。


「いい気味ですわ……じゃなかった、大丈夫ですか?」

「──本音が漏れているわよ」

「あら、心配しているのですよ?」

「邪神様から授かった光想体まで出して、なお負けたってのかよ」


 がっしりとした体格の男がうなる。


「恥だよねぇ、それって。そんなノアさんが僕より序列が上なんて納得いかないなー」

「序列などどうでもいい。ただの数字だ」


 小柄な少年の言葉に、渋みのある中年男が首を振る。


(第一階位の堕天使がこんな場所に五人そろうなんて……)


 ノアは彼らを見上げ、眉根を寄せた。


 彼らは、邪神軍最強の実力者だった。

 その性格は一人残らず気まぐれで、こうして五人もの第一階位が一堂に会する機会は皆無と言っていい。


「邪神様に呼ばれたのです」


 女の堕天使が言った。


「邪神様に……?」

「始まるんだってよ、いよいよ」

「殺戮と殺戮、そして殺戮ですねぇ」

「すべての敵を蹴散らす。邪神様のために。それだけだ」


 口々に告げる第一階位堕天使たち。


「始まる……? まさか、それは──」


 ノアはハッと顔を上げる。


「無論、人間の世界への大侵攻だ」


 頭上から荘厳な声が響いた。


「──邪神様」


 全員がその場に跪く。


「敗れたようだな、ノア。だがこのたびの戦いは不問に帰そう。汝にはまだまだ働いてもらわねばならぬ」


 告げる邪神。


「そう、いよいよ開幕するのだからな──新たな、邪神大戦が」


    ※


 ギルド『守護の剣』の本部にヴェルナと数人の冒険者が集まっていた。


「……ジラルドさんが堕天使ノアを討ったそうよ」


 ヴェルナが他のメンバーたちに告げる。


「あのノアを……やっぱりジラルド様はすごいですわ」


 うっとりした顔で言ったのは、リーネだ。


 先日、ギルドを急襲した堕天使ノアに、ヴェルナたちは手も足も出ずに敗れた。


 唯一、善戦したのがリーネである。

 その彼女にしても、最終的には切り札を出したノアに完敗した。


 やはり第一階位堕天使とは、尋常な敵ではない。


 そんなノアを打ち倒したジラルドは、まさしく英雄の中の英雄といっていいだろう。


(さすがです、ジラルドさん)


 ヴェルナは内心でつぶやく。

 胸の中に、彼への尊敬と憧憬、そしてそのどちらでもない甘い慕情が広がっていく。


「? どうかしたのですか、ヴェルナさん。ボーっとして」


 リーネが不思議そうにこちらを見ていた。


「っ……!? い、いえ、なんでもないのっ」


 顔を赤くして両手を振るヴェルナ。


「と、とにかく、あたしたちは今まで以上に鍛える必要があるわ」


 こみ上げる照れくささを押し隠し、他のメンバーたちに言い放つ。


「ギルドランクを上げるために──一人一人が実力を磨いていくわよ。堕天使や聖獣との戦いでは、上位のギルドには依頼が来るはずだからね」

「今度こそリベンジ、ですわね!」


 リーネの瞳が燃えていた。


 ノアへの敗北にも、決して心が折れることはない。

 むしろ、この超天才魔法使いはますます闘志を高ぶらせているようだ。


 ならば──自分たちの役目は彼女を支えること。


 リーネの才能は群を抜いている。

 そんな彼女がこれからも立ち止まることなく、存分に力を──才能を磨いていけるように。


(あたしはあたしなりにがんばります、ジラルドさん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] あら生きてたかw さすが第一階位 しぶといw [気になる点] あと50年もすれば今の英雄は死に絶えるのに なぜ今? [一言] ジラルドは疲れて寝てるかなw
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