14.追いかけっこはまだ続く? sideバイオレット
「で? 1日間監禁されて、耳とろけるくらい好きと言われたのね」
「そうなのよ! もー! 恥ずかしくて死ぬかと思った!」
私はアザレアと自宅でお茶をしていた。
舞踏会で面白い展開になって、その後、寝るまも惜しんで好きと言われ続けたらしい。
それで、どうにか転移魔法を使って抜け出してきたらしい。
まぁ、それも時間の問題かもしれないけど。
「それで? 晴れて両思いになった感想は?」
微笑みながら聞くと、アザレアは机に突っ伏した。あらあら、顔が真っ赤だわ。
「信じられない…だって、ずっと嫌われていると思ってたし…」
しゅんとなって戸惑うアザレアによしよしと頭を撫でる。
「今まで頑張ってきたんだもの。それが報われたってことよ」
「そーなのかなー…」
まぁ、アザレアの戸惑いも分かる気がする。振り向いてくれなかった人が突然、手のひら返しに溺愛モードに入ったら、戸惑うわよね。
特にこの子は恋ってものに疎いから。
そこらへん王子様は気がきかないのよね。
もっとじっくり攻めればよいものを。
ま、あの王子様なら暴走するのも分かるけど。
夫となったグレイは王子様の側近だ。
だから、王子様の思いも知っていた。
知っていて、わざと隠していた。
だって、面白いんだもの。
この二人を見ていると飽きないわ。
だけど、ちょっとだけ可哀想と思う気持ちもある。二人がめでたく結婚してほしいとも思っている。
だから、今度はそうなるようにアザレアを誘導する。
「戸惑いもわかるけど、好きなんでしょ? 素直に受け取ったら?」
「うー…」
まだ気持ちの整理がついてないアザレアに魔法の言葉をかける。
「私は早く二人の子供が見たいわ。そしてうちの子と遊ばせるの。可愛いでしょうね。天使たちが遊んでいる姿は」
うちの子を天使だ、天使だと言っていたアザレアのことだ。そのシチュエーションはかなり魅力的なはず。
予想が当たってアザレアはむくっと顔を上げて考えだした。
それをふふっと見つめていると、ものすごい勢いで誰かがやってきた。
「やっぱり、ここにいたのか、アザレア」
「げっ。セルリアン!?」
あらあら、随分と早い到着ね。
汗まみれで目は充血して色男が台無しよ。ま、それだけ余裕がないってことなんでしょうけど。
「王宮に帰るぞ。あと、3年分は言わなくちゃいけないからな」
「いーやー! あんな恥ずかしい思いしたくない!」
「お前が5年分、言えって言ったんだろ! 黙って聞いとけ!」
「やーだー!!」
あらあら、本当に立場が逆転してるわ。
ふふっ。5年もこじらせていたのに、6年目は立場逆転なんて、ほんと、見てて飽きないわ。
目の前で言い争うのをもう少し見ていたかったけど、シオンがふえっと泣きそうなので、ここいらへんにしとく。
「――転送」
「「!?」」
呪文を唱えて二人を転送する。二人分だからちょっと転送までに時間がかかる。驚く二人ににこやかに言った。
「王宮の教会に飛ばすから、後は二人でごゆっくり」
そう言うと、王子様は輝くばかりの笑顔になり、アザレアは泣きそうなくらい青ざめた。
その二人の反応が面白くて笑ってしまう。
「バイオレットの裏切り者ー!」
そんなアザレアの叫び声を最後に二人の姿は消えていった。
ふぅと一息ついて、シオンを抱っこする。
あぁ、そうだ。
ドレスを用意しなくちゃね。
結婚披露宴には呼ばれるだろうし。
まぁ、その時にどんな二人が見られるのかまた楽しみだわ。
ふふっと弾むように笑って、シオンをゆっくり揺らした。
ふと、成長したシオンと、二人の子供が遊ぶ姿を想像した。
「二人の子供がシオンを好きになってまた追いかけっこしたら面白そうね」
そう笑いかけると、キャッキャッと弾むようにシオンは笑った。
素直になれない二人の話をここまでお読みくださいましてありがとうございます。
とても楽しく書けたものなので、楽しんでもらえたら嬉しいです。
子供たちの話として、見た目セルリアン(天使)で中身アザレアのうわーなヤンデレ王子が、五歳年上のシオンにアタックをかけまくる話が脳裏をよぎったので、いつか書くかもしれません。
ひとまずは完結しました。
最後まで読んでくださいましてありがとうございます。




