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白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
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第18節

 一日で書くと、やっぱり雑になりますね。文章とか構成とか。


 楽しいからいいですけど。







第18節


「見損なったぜ! まさか手前が、こんな別嬪べっぴんでボインボインのねーちゃんはべらして、『ご主人様』なんて呼ばせて、悦に浸る変態だったとはな!!」


「え、あの、ちょ―――」


 レオンの至極真っ当な意見に、言葉を失うアキト。

 だが、待って欲しい。『はべらして』の部分は、まあ否定しないが、『ご主人様』と呼ばせたのは自分では無いし、悦に浸ってもいない。

 しかし同時に、傍から見たらやっぱそう見えるのか…、という諦観が彼を縛り付け、言葉が出ない。

 それをいいことに、レオンはなおもアキトを責め立てる。


「もしかして『主人と奴隷』とか言い出すんじゃねえだろうな…? 人間の奴隷売買は違法だぞ!」


「………」


 そういえば最初はそんな事言ってたなー、と遠い目になるアキト。


「しかも、こんなに破廉恥な格好させやがって! 手前の血は何色だ!!」


「―――すみません、ホント出来心だったんです、悪気は無かったんです」


 破廉恥な格好をしているのは、完全に本人の趣味なのだが、あまりに常識的な意見の前に、アキトはひたすら低頭して謝るしかない。


 どうやらこの大男、見た目はただの暑苦しいだけの大男だが、中身はかなりの(もしかしたら今まで出会った中で一番)マトモで真面目だったらしい。

 日頃からナギの露出癖に頭を悩ませながら、その更生に力を入れつつも、一向に成果の挙げられないアキトにしてみれば、痛い所を突かれるばかりである。


 そんな時、救いの手は思わぬ所から差しのべられた。ルルだ。


「レオ、あなたが石頭なのは知っているから、少し黙りなさい」


「だってよぉ!そういうもんじゃねえだろ?人って…絆ってよぉ…」


「ええ、あなたの価値観が暑苦しいのは理解したわ」


「んだとぉ!?」


 そして睨み合いが始まってしまう。そこに割り込んだのは、諸悪の根源、ナギだった。


「まあまあ、お二人とも。どうですか、一緒にお茶など」


 空気を読んでいるのかいないのか、良く分からない仲裁。だが、やはりレオンは納得がいかないようだ。口をへの字に曲げて、フンッとそっぽを向いてしまう。


「なにやら勘違いをなされているようですが―――」


 仕方なく――否、当然の事なのだが、ナギがアキトを弁護してくれる。


「まず、私のこの格好ですが、これは誰かに強制されたものではございません。むしろ、ご主人様からは常日頃から、露出を抑えるようにと口を酸っぱくして言われております」


「何故、直さない…」


 これはレオでは無くアキト。その呟きに、ナギは顔を輝かせてこう答える。


「もちろん、ご主人様を誘惑するためですわ!」


 そう言って、たわわな胸を張る。本人の言う通り、大変魅力的なのだが、正直目の毒だ。

 レオもついつい向いてしまう目線を必死に逸らしながら、続けて問う。


「じゃあ、その『ご主人様』ってのは何なんだ?」


「もちろん、私が自発的にお呼びしているだけですわ。もちろん、『主人と奴隷』ではなく―――」


 ナギは一旦言葉を切ると、突然アキトの腕に自分の腕を絡め、豊満な胸で押し包む。いまだにソレに慣れぬアキトが、硬直しているのをいい事に、ぐいぐい胸肉を押しつけながら、満面の笑顔でこう続ける。


「“妻”が“夫”を呼ぶ時の敬称ですわ♪」


 さすがにその答えは予想外だったのだろう、レオのみならずルルまでもが、その言葉の意味を理解できずに、呆然としてしまった。


―――静寂。


 しかし、その静寂を破ったのは――――、


『フフフ…、フハハハ…、アハッハッハッハッハ――――!!』


 突然の哄笑。それはこの場に居る誰の物でも無く、そしてその声に聞き覚えの有る、アキト・ヒカル・レオ・ルルは、一転してげんなりした表情になる。

 そして、近くの砂地が盛り上がり、ザザァという音と共に砂が流れていくと、そこには、


「聞きましたよ、アキト君。ええ、この耳でしかと!!」


>砂の下から、野生の《イケメソ》が現れた!!


>アキトの攻撃!《跳び蹴(ドロップキック)》!

>会心の一撃!!


>《イケメソ》は滅んだ!!


 アキトのドロップキックによって、面白いように飛んでいく変人を尻目に、逆に冷静になったアキトがしれっと言う。


「つまり、そういう事です。誤解は解けたでしょうか?」


「いやいやいや!! 今、砂の下から変なのが現れなかったか!?」


「いいえ、レオ。あなたの気のせいだわ。少なくとも、私は砂の下から積年の好敵手ライバルが現れるなんて現実を受け入れられないわ」


「やっぱり、カインの馬鹿じゃねえか!!」


 アキトとグルになって現実逃避しようとする相棒に突っ込みを入れる。気持ちは分からないでもないが。


「あの…、今のは…?」


 事情を理解していないナギが、恐る恐る尋ねる。


「駄目だぞーナギ、アレに近付いちゃ。馬鹿が感染うつるから」


「馬鹿とは失礼ですね。僕は愛の為ならば、どこまでも愚直になれるだけだと云うのに…」


 いつの間にか復活していたカインが啖呵を切る。ここら辺は、さすがゴールドランク冒険者と言うべきか。アキトにしてみれば、ハタ迷惑なだけだが。


 仕方なく、再び二度と戻ってこられないくらいに吹き飛ばしてやろうと、アキトが拳を振り上げるのを、カインが身振りで制する。


「まあ、待ちたまえアキト君。僕が君を誤解していたように、君も僕を誤解している」


「誤解って…何がだ」


「つまり、君が『ヒカルさんの恋人』だと思ってた、ってことさ」


 カインは砂まみれになった長い金髪を掻き上げながら、フッとニヒルに笑う。


「だが、実際は違った。君は妻帯者だったんだから。そうだろう?」


「………。で、俺がお前の何を誤解してるって?」


「アキト君はきっと、僕の周りに居た女の子たちを見て、彼女達が僕とステディな関係にあると思ったんじゃないのかい?だから、ヒカルさんの“後見人”である君は、僕に苛立ちを覚えた…」


「(イラッ)」


「けど、安心してください! 僕は常にヒカルさん一筋!! 彼女達とは一時の付き合いでしかないんです!! だから、安心してヒカルさんを僕にください!! お義父とうさん!!」


「だれが、お義父とうさんじゃーーーーーー!!」


 アキトの怒りのアッパーカートが綺麗に決まり、イケメソはしばらくの間地上とおさらばして滞空した後、頭から砂漠に落ちた。


 だが、イケメソはゾンビの如くすぐさま復活した。


「グフッ…、これが愛の試練なのか…。ならば、超えてみせようじゃないか!!」


 盛大に吐血しながら、寝言を吐いている。


「おい」


 と、どうやら騒ぎを聞き付けたらしいヒカルが、木陰から這い出てこちらにやってきた。それを見たカインは、目を輝かせる。


「ほら、見て下さい!僕の情熱がヒカルさんを動か―――」


「いつになったら、この馬鹿を追い払ってくれるんだ?」


「………」


「あ、死んだわね」


 ヒカルの言葉に倒れ伏したカインを、ルルが手に持っていた杖でつつく。

 反応が無い、屍のようだ。

 が、しかしゾンビは元から屍だ。復活。


「ど、どうしたら、僕の愛を受け取っていただけますか…?」


「論外だ」


「そこをなんとか」


「君は何かの押し売りか?」


「僕の愛は無料タダですから、安心安全!!」


「…こいつ、消し炭にしていいか?」


 ああ…、ヒカルの額に青筋が立っている…。


 その危険な発言を受けて、常識人なレオが間に入る。


「おいおい、流石に人死だけは止してくれよ。あんた達も《風竜走》に出場できなくなるぞ!?」


「――チッ」


 明らかな舌打ち。好きこのんで出る大会では無いが、アキトの足を引っ張るのも本意ではない。

 だが、かと言ってカインが黙ってこの場を去ってくれそうに無いのも確かだ。

 ヒカルは溜息を一つ吐く。そして、彼には残酷かもしれないが、本当の事を話す決意を固める。


「おい、一つだけ言っておく」


「なんでしょうか?」


「確かに、私はアキトのものでは無い」


 その言葉に、まるで子供のようにパッと顔を輝かせるカイン。顔の造形が良い為、キラキラという擬音がつきそうな勢いだ。


「やっぱり! そうだと思ってました!!」


 だが、私はその笑顔に何の価値も見出せない。見出そうとも思わない。

 だから、私はあっさりと断頭台のギロチンを落とす。

 

「アキトが私の『所有物もの』というだけだ」


「えっ?」


 たちまち笑顔が凍りつく。


「聞こえなかったか?彼の全ては私のもので、彼は私に全てをくれた。君じゃない、アキトが私の欲しかった物をくれたんだ」


 そう言うヒカルは、真剣で、けれど頬を少し赤らめて、宣言する。

 私に笑顔をくれたのもアキトだった。私が逃げずにいられたのもアキトがいたからだった。私が道を、『希望ヒカリ』を見つけられたのもアキトのおかげだった。


「私はアキトで十分満足しているし、おそらくアキト以外の誰も私を満足させることはできないだろう。だから私はアキトだけで良い。君はいらない」


「い、いらな…」


 ヒカルの宣言にしばし打ちひしがれるカイン。何よりも、彼女のその表情こそが言葉よりもなお雄弁にそれが真実だと語っている。

 しかし、彼は項垂れていた顔を上げるとクワッと鬼気迫る形相でヒカルに言った。


「あんな凡庸な男のどこが良いと!? 僕の何が劣っていると!?」


 ヒィ、と遠巻きに見ていたフーカが怯える程の相貌。

 だが、ヒカルはそれでも冷静に答えを返す。


「優劣ではないさ。私には彼が絶対に必要なだけだ」


「そんな…。僕にだって貴女が必要だ!!」


「私には必要いらない」


「では、貴女に必要とされるには、どうしたらいい!?」


「そうだな…」


 ヒカルは、しばし考える。このままでは、結局堂々巡りだ、彼もきっと納得しない。しないだけならまだしも、こうして付きまとわれるのは非常に面倒だ。

 彼が納得できて、きっかり諦められる方法。


「ならば、アキトと勝負すれば良い。君が勝てば、私も君の『愛』とやらについて検討しよう」


「本当ですか!?」


「ああ、本当だ。だが、アキトが勝ったなら、この話はお終いだ。私は君のものにはならないし、これ以上付きまとうのも止めにする。それで良いか?」


「もちろんですとも、ヒカルさん!」


「アキトもそれで良いか?」


「いいよ。俺はヒカルの『所有物もの』らしいしな」


「事実だ」


 アキトの憮然とした表情を見て、ヒカルは状況も忘れて、クスリと笑みを浮かべたのだった。

明日は頑張らない。

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