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白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
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第17節

貞子3D観てきました。


心臓に悪いね。特に自分は小心者チキンなんで。






第17節


 『枕を濡らす』という言葉が有る。袖を濡らす、頬を濡らすなどと同じく、悲しみに暮れ、滂沱と涙を流す有り様を指す言葉だ。

 だが、現在の彼女の状態を表現するとすれば、やはり『枕を濡らす』が最も適切であろう。

 何故なら―――――。


「うっく…ひっく…、情けないです…」


 彼女は現在、絶賛床に伏せ、壮大に涙を流しているのだから。その勢いや、アキトが元の世界の漫画的表現を思い起こす程だった。

 長時間(と言っても、フーカにとってはの話だ)強い日差しの下にいた彼女は、あっさりと日射病にかかり、盛大にぶっ倒れたのだ。以来、意識を取り戻してからというもの、謝罪の言葉を連ねながら、泣き濡れていた。


 その様子を見かねたアキトが必死にフォローを入れようとする。


「…仕方ないよ。フーカはお爺さんが亡くなってから、一カ月近く引き籠ってたんだから」


「………そうですよね…ひきこもりで無職ニートの私が、何を勘違いして日向に彷徨い出たのでしょうか…。ヒキニートはヒキニートらしく、部屋の隅にいい塩梅に出来た影に膝を抱えて座っていれば良いものを調子に乗って太陽を浴びた途端塩をかけられたナメクジのように溶けるしか能が無い私なんてこんな私が風竜走で優勝を目指すなんて夢物語どころか笑物語わらいものがたりですよね―――――」


「あ、トドメ刺した」


「さすがご主人様ですわ…!わたくし、僭越ながら畏敬の念が止まりませんわ…!」


 アキトの一撃により、とうとう流す涙も枯れ果てて、顔に陰が差し始めた。かなりの重症だった。日射病関係無く。

 しかし、確かにこのままでは《風竜走》だの、操船だの言っている場合では無い。フーカには悪いが、たかが数時間炎天下に晒されただけでダウンするようでは、優勝どころか出場も危うい。


「船に乗る前に、身体を鍛える必要が有りそうだな…。特にフーカとシノは」


「なんで私まで!?」


「…この街に来る時、誰におぶって貰っていたか、忘れたとは言わせない」


「…オ―、イエス」


 アキトにジト目で睨まれて、シノも冷や汗混じりで頷いた。


「大丈夫だ。俺が拝流整体術を使って、一週間で仕上げる」


 なにやら、そういう便利な技があるらしい。アキトが自信たっぷりに宣言する。


「…良く分かりませんが、よろしくお願いします」


「シノも頑張るよー!」


「ただし、凄く痛い」


「…良く分かりませんが、少し考えさせて下さい」


「シノはねー、成長しないのでやっぱり止め――――」


「ちなみに、胸もちょっと大きくなる」


「…良く分かりました、一生懸命やらせていただきます」


「シノも、超頑張るよー!!」


 コンプレックスを刺激された哀れな子羊達が、悪魔オオカミとの契約を交わした瞬間だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぁ~あ…」


 レオが起きぬけの大きなあくびをかます。最近は船の訓練も領域エリアの境界ギリギリまで出るようになり、レオ達も気が抜けなくなってきた。その辺りまで出るとなると、流石にチラホラと魔獣が出現するようになる。絶えず気を張り続けるのは、なかなか堪えるものがある。


 そんな理由から、昨日の疲れが取れ切らないレオは、再び出そうになるあくびを噛み殺しながら部屋を出て食堂に向かう。スタミナの付くような…そうだな、豚肉料理でも頼むとするか、なんて考えながら。


「おはよう」


「ああ…おはよ」


 食堂に着くと、既にルルが朝食を取っている。彼女は冷血だが、低血では無いらしく、朝に強い。

 チラッと彼女の食べている物を覗くと、パンにハムエッグ、そしてサラダとスープというスタンダードな物だった。レオにしてみれば、それだけでよく持つなと思うのだが、女性と言うのは往々にして小食を美徳とするきらいが有るようなので、深くは突っ込まない。


 レオも朝食を頼み、彼女の対面に腰を下ろす。注文が届くまでやることも無いので、しばらくルルが食べ物を口に運ぶ様をぼんやり眺めていると、突然彼女がこう切り出した。


「そう言えば、あの子達が今何をしてるか知ってる?」


「あの子達…?ああ、アキトと《死神》の事か?」


「ええ。正確にはあの子達のチームが、だけど」


「あ?何だよ、なんか面白い事でもしてるのか?」


 ルルの口調に揶揄するような響きを感じ取り、レオが眉を寄せる。そんな彼を一瞥して、彼女が語る。


「あの子達、走ってるみたいよ」


「走ってる…って、そりゃそうだろ?《風竜走(・・・)》だぞ?走ってナンボだ」


「そうね…。でも―――」


「でも?」


「自分の脚で走る必要は無いんじゃないかしら?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「本当だ…。走ってやがる…」


 レオが少し唖然とした調子で呟く。この炎天下の元、レースをしようと言うのも酔狂な話ではあるが、炎天下に加え足場の悪い砂地でロードランすると言うのも相当酔狂だ。そんな酔狂な事をやっている連中が、今目の前にいた。


 走っているのはアキトと見知らぬ少女二人で、《死神》は近くの木陰でそれを眺めている。


「なあ、あれは何をやってるんだ?」


「走っているのでしょう?」


「そんなこたぁ見りゃ分かるわ!なんで走ってるか聞いてんだ!!」


「さあ?」


 相変わらずの冷淡な答え。


 休暇で手持無沙汰だったレオ達は、敵情視察にかこつけてアキト達が『走っている』という街外れの砂漠までやってきたのだが、そこで待っていたのは言葉以上に言葉通りな光景。すなわち――――、


「なんで《砂船》じゃなくて、あいつらが走ってんだ…?」


 正直、理解不能だった。


 あまりの現実と、彼らの熱の入りように、その中に割って入るのも躊躇われ、しばし呆然と立ち尽くしてしまう。

 その時だった、彼らの後ろ、街の方から一人の女性がやって来る。蒼系統の露出の多い衣装と、露出させている割にはハッとさせられる程に白い肌。女性らしさと言うよりは、妖艶さと言うべき豊満な姿態。流麗と艶美が合わさったかのようなその女性は、棒立ちするレオ達を不思議そうに一瞥しながら、その横を通り過ぎて、砂漠で走り回っている連中に声をかける。


「ご主人様ーー!そろそろ休憩に致しましょう!」


 その声にアキトが反応して、ヒカルが腰かけている木陰まで戻って来る。そうなれば当然、突っ立っているレオ達が目に入るのも必然だ。彼らに気付いたアキトが小走りで近付いて来る。


「レオンさんにルルティエさん? どうされたんですか?」


「ええ、それがね―――」


「おい、手前!!」


 状況を説明しようとしたルルの言葉をレオの怒鳴り声が遮った。そして、アキトの肩をその剛腕でガッチリと掴むと、ブンブン揺さぶりながらこう叫んだのだった。


「『ご主人様』ってなぁ、どういうことだぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 アキトは漠然と嫌な予感がした。

明日こそ本気出す。(フラグ)

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