表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀のスコール  作者: 九朗
第三章『砂漠の華』
82/115

第7節

 アレ?

 風竜走への出走を決めるのは、大体四節くらいで書こうと思っていたのに、もう第7節?


 冷や汗が止まらないぜ。




第7節


「ゼェ…、ハァ…。お、おわかりいただけただろうか…?」


 アキトが荒い息を吐きながら、説得の言葉を締めくくる。


「ゼェ…、ハァ…。は、はい…お手数をお掛けしました…」


 こちらはフーカ。アキト共々、汗にまみれ、荒い息を吐き出している。


 彼らは何も妙な事をしていた訳では無く、単純に、錯乱に陥ったフーカが、衰弱しているとは思えない元気さで自害しようとするのを、アキトが必死に止めただけの事だ。


 普段のアキトなら、フーカのような小柄な少女を取り押さえる程度、まさしく赤子の手をひねるが如く、容易な事なのだが…。


 しかし、フーカは長い断食によって、その腕は枯れ枝のようになってしまっている為、安易あんいに力を込める訳にもいかず、格闘戦は長期戦の様相を見せる事となってしまったのだった。


 今、彼らはその戦いの姿勢のままで、まるでアキトがフーカを組み伏せるような状態になっていた。


 第三者が見たならば、フーカの幼い容姿と相まって、『幼女を襲う悪漢』と取られても文句は言えない有り様だった。


 幸いにも、ここに第三者の眼は存在しな――――


「おい、いつまでそうしているつもりだ」


 それまで、(冷酷にも)事態を静観していたヒカルが、少量の苛立ちを含めた声を掛ける。


「そう言うなら、せめて手伝ってくれても…」


 アキトがぼやきながらも、フーカの腕を解放し、立ち上がると、押し倒していた彼女に手を伸ばす。


「身体は大丈夫?」


「は、はい…。あれだけ暴れたのに不思議と無事です…」


 その裏にアキトの気苦労がうかがえるような台詞を吐きながら、フーカは彼の手を取り立ち上がる。

 実際、彼女の枯れ枝のような腕が無事なのは、一重にアキトの努力の賜物たまものなのだが、幸か不幸かこの場でそれに気付く者は居なかった。


「まったく、『受ける』と言っているのに、どんな勘違いをしているんだ君は。そんなに信じられないなら、今からでも撤回してやろうか?」


 ヒカルの辛辣な言葉を受け、フーカは気まずそうに顔を伏せる。

 ヒカルの言い分ももっともなのだが、普段の彼女を知っているアキトからすると、なんだか違和感を感じずにはいられない。

 なんだか、ヒカルのフーカに対する態度がやたら冷たいのだが…。


「ヒカル、そこまで言わなくても良いだろ?実際、俺達がやろうとしてるのは、常識外れもいい所なんだから…」


「それを差し引いても、いきなり鎚で頭をかち割って死のうとするのは度が過ぎていると思うが?」


「それは…まあ…、思い詰めやすいんだよ!きっといままで散々酷い目に遇ってきたんだよ!!可哀そうな子なんだよ!!」


 アキトにろされたフーカは、もはや涙目だ。


「うう…、そこまで言わなくても…」


 アキトの必死のフォローは、逆にフーカを項垂れさせてしまったようだ。


「ああ、ごめん!そう云うつもりじゃ…」


 慌ててリフォローするアキト。

 だが、今度はその反対側から鋭い視線が飛んでくる。ヒカルだ。


「随分と、その子の肩を持つじゃないか?犬耳がそんなに好きか?」


「またその話!?いい加減、俺が人を耳で判断する変態みたく言うの、止めてくれませんかねぇ!?」


「そ、そうなんですか…?」


「ほら!信じちゃう子がここに居るんだから!!フーカも簡単に信じないで!?」


「だ、大丈夫です!私はアキトさんの事を信じています…よ?」


 と言いつつも、『さん』付け+疑問形+一歩引かれた。

 アキトの方がとんかちで頭をかち割りたくなってくるのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「オホン!とにかく、フーカの『依頼』を受けるよ」


 全員がひとまずの落ち着きを取り戻した所で、再び居間にて、折られてひん曲がって、明後日あさっての方向に飛んで行った話を戻す。


 囲炉裏を挟んだ対面に座ったフーカも、今度は錯乱せずに話を聞いてくれている。


 一番距離の離れた対面に座っているのは、そこが彼女の定位置だからだと信じたい。断じて引かれているから、では無いと信じたい。


 そのフーカが、おずおずと質問する。


「その…、私がこんな事を言うのも、あれなのですが…」


「なら、言わなければ良いだろう」


「あうぅ…」


 ヒカルの厳しい言葉に、フーカは口を閉ざして項垂れてしまう。

 ヒカルがやたらと辛辣だった。


 そんなヒカルをアキトがたしなめる。


「ヒカル…。話が進まないから、もう少しフーカに対する態度を軟化させてくれると、大変嬉しいのですが…」


「嫌だ」


 取り付く島もなかった。


「ヒカルが珍しく大人げない…」


 ことフーカに関する事では、ヒカルはいつもの冷静さを失ってしまうようだった。


 原因は、彼女の言質げんちをとるならば、『許せない』から、なのだろうが、それを今すぐどうにかする方法も無いので、仕方なくそのままにしておくしかない。


「まあ、ヒカルの事は置いといて、」


「おい」


 ヒカルから突っ込みが入るが、スルースキルを全開にして受け流し、フーカに向き直る。


「フーカが言いかけた事を、言って欲しいな」


「え?でも…その…」


 フーカがチラリとヒカルをうかがう。すると、


「ガルルルル…」


 ヒカルは犬歯を剥き出しにして、まるで虎のように威嚇する。


「ひぃ!?」


 それに怯えて、チワワの如く縮こまってしまうフーカ。


「って言うか、ホントにあなた、ヒカルさんであらせられますか?」


 思わずアキトですら疑ってしまう程の豹変ぶりだった。ついでに口調も、妙な敬語になってしまった。


「何を言っているんだ、耄碌もうろくしたか?私がヒカル以外の何に見えると言うんだ。アキトは《真実ほんとう》を見極めるのが得意ではなかったのか?」


 アキトに対してすら辛辣だった。

 どうも、アキトがフーカにかまう事自体が気に入らないらしい。

 触らぬ神に祟り無し、とばかりに方向転換したアキトは強引に話を進める。


「と、とにかく、協力する事にした。これは決定事項だから」


「で、でも…本当に良いんですか?」


 ヒカルの冷気がアキトに向かっている隙に、ようやく発言する事が出来たフーカ。


 それに頷くアキト。


「ああ、もちろん。ただし、条件が有る」


「条件…ですか?」


「そっ、『条件』」


 アキトのその台詞に反応したのは、人を殺せそうな視線を彼に送っていたヒカルだった。


「おい、聞いて無いぞ」


「だって、言って無いもん」


 俺がフーカの頼みを受ける事は予想していたが、『条件』については初耳のヒカルが問うてくるが、軽くいなす。


 俺に相手して貰えないヒカルはふくれっ面になるが、それもスルー。


 しかし、本当に今日のヒカルは大人げない…というか、子供っぽい。後でしっかりとかまってあげよう。


 それはさておき、『条件』と聞いたフーカが神妙な顔つきになる。


「それで…、その『条件』ってなんでしょうか?!」


 アキトも、そんなフーカを見詰め返す。


「フーカは確か、『身体で払う』って言ってたよね?だから、身体で払ってもらう事にしました」


「そ、それは…」


 よもや、今更その条件を持ち出されるとは思っていなかったフーカは、言葉を詰まらせる。


 逆に口を開いたのはヒカルだ。


「とうとう本性が出たな!この助平すけべい男が!!こんな幼児体型を囲って、何をさせるつもりだ!そんなに犬耳が好きか!?」


 何故、そんなに俺を犬耳好きの変態に仕立て上げようとするのだろうか?


 一応、恋人であるはずのヒカルの発言に、アキトの心の脆い部分がごっそり抉られて逝く。


 だが、それも努めてスルー。このままでは、本当に話が進まない。


 一方フーカはフーカで、葛藤かっとうしている。


「うぅ…。でも、確かに私が言い出した事だし…。あうぅ…、でも変態さんかぁ…。はうぅ…」


 おい、『変態』って聞こえたぞ。


「とうとう、フーカの中で俺が『変態』認定された訳だが…」


 ははっ!これで満足か!?

 もはや、笑うしかない。


「あ、あのっ!いえ…、そういう訳では無くて…。私、今あばらが浮き出てて…、みっとも無いので、もうちょっとお肉が付くまで待ってはいただけませんか!?」


 そして、どこぞの童話みたいな時間稼ぎを始めた!!


 このままでは、俺の小心チキンハートがズタボロにされて傷心ローストチキンハートになってしまう…。


「いや、『身体で払う』って言っても、別に性的な意味では無いんだが…」


 多少…いな、多大にげんなりしながら、真剣な顔に戻ったアキトが説明する。


「『条件』って言うのは、《風竜走》に俺達で出場するって事だ」


「それは、どう云う…?」


「そのまんまの意味さ。『俺達』が『砂船に乗って』、《風竜走》に出場するのさ!」


 最初、ポカンとしていたフーカだが、徐々にその言葉の意味が脳に浸透してくると、驚愕の表情を浮かべる。


「…え?えぇーー!?そ、そんなの無茶です!!他のチームはプロの船乗りを雇うんですよ!?私達みたいな素人が敵うわけ無いです!!」


 慌ててアキトを止めるフーカ。

 だが、彼は真面目な表情を一切崩さない。


「そうだね、確かに俺は操船なんかした事無いし、本職の人に勝てるのか、って言ったら、『極めて難しい』としか答えられないな」


「ならっ!」


 声を荒げようとしたフーカを、アキトの視線が射貫いぬく。


「フーカ。言ったはずだ。これが『条件』だ、って。これが呑めないなら、俺はこの話から降りる」


「そんな…っ」


 にべにも無いアキトの言い様に、フーカは愕然としてしまう。

 そんなフーカをいさめるように、アキトは声をやわらげて言う。


「それにね、やっぱり金貨十枚の借金は無茶だよ。言ってはなんだけど、今の君には、それこそ一生掛かっても返せない」


「それはっ!…でも!!」


「だから、借金なんてしなくても良い。『俺達』が出場するんだから、俺が参加費を払ってもおかしく無いだろ?」


「そこまでしてもらう義理は…」


「無いね。完膚なきまでに無い。けど、返すての無い金貨十枚を、ただ貸すよりもずっとましさ。少なくとも、俺は納得できる」


「………」


 俯くフーカに、アキトは最終宣告を言い渡す。


「フーカ、君が決めるんだ。諦めるのか、例え可能性は小さくても、やれるだけやってみるのか」


「………」


 とっさには言葉が出ない。

 アキトはつまりこう言っているのだ。


 『タダで協力する』と。


 その申し出に、フーカは泣きそうになる。

 けれど、今は先に応えなければ。


「…わ――――」


 フーカの唇が震える。これから自分がしようとしているのは、この身で金貨十枚を稼ぐのと同じくらい無謀な事だ。


 けれど―――。


「私…は――――っ!」


 答えなど、決まっていた。

 エーデル嬢が、なにやら凄い事に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ