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白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
68/115

第29節

 すみません!何故か週末は筆のノリが悪い…。


 まあ、ノリが良くても面白い物を書ける訳では無いんですが。





第29節


「何か武器は無いのか!?」


「馬鹿!どうするつもりだ!?」


「どうするって、あの糞竜モドキをぶッ殺してやるに決まってるだろ!!」


「出来る訳ないだろ!!」


「じゃあ、どうしろってんだ!?」


 大人達は口々に女王救出を叫び、そしてそのあまりの至難さに絶望の呻きを上げる。彼らの中には理不尽を憎む心が確かに存在していた。理不尽に抗う意志が確かに存在していたのだ。

 だがその意志がいくら存在しようとも、現実として女王を救う手段が存在しないのだ。それぐらい、感情的になっている彼らの頭でも容易に理解できる。


 意志は在っても、力が無かった、方法が無かった、時間が無かった。今彼らの敬愛する国王は今まさにその身を引き裂かれようとしている。


 どうして彼女がそのような目に遭わなければならないのだろうか?彼女がそのような事をされるような悪い事をしたのだろうか?


 大人達は己の無力を嘆く。そのような情けない姿を、無慈悲な現実を己の子供たちに見せなければならない悔しさを。


 希望など、どこにも無い。


 大人達に出来たのは、愛しい我が子のその眼を塞いでやる事だけだった。


 だがしかし、子供たちの様子が変だった。だれもその惨劇の様子を見ようとせず、呆けたように空を見上げその視線の先を指している。


「…お星さま」


 誰かが幼い声で呟いた。


「え?」


 大人の誰かが問い掛ける。そして、その幼い声につられるように誰もが空を、それ(・・)を見た。


「お星さまがおちて来るの」


 大人たちの誰も最初は子供達が何を指して言っているのか分からなかった。無理もない、お星様と言ったってこの夜空にはその言葉が指す光は無数に在るのだから。


 しかし、子供達の指差すままに空を見上げていた彼らの眼もそれを捉え始める。


 あれは何と言う星だろうか。夜空に輝く星の内、ひと際強い光を放つその星は注視しなければ分からないが、確かに動いている、否、墜ちて来る(・・・・・)


 彼らは状況も忘れ、その光を見詰める。


「本当だ…、星が墜ちて来る」


 それはこの真上、彼らの天頂に存在していた。その星は徐々に徐々にその輝きと大きさを増し、地上へと迫り来る。


「星が墜ちるなんて…」


 果たしてそれは吉兆か、それとも凶兆か。


 分からない。分からなかったけれど。


「なんて…綺麗…」


 それは確かに美しかった。大人達の誰もが見惚れるように落星を見続ける。


 ただ、子供達だけが無邪気にはしゃいでいた。


「お星さまにお願いしなくちゃ!!」


 その声に、子供達だけでなく大人達まで手を組み、星に祈る。


 『奇跡』を。目の前の理不尽を撃ち砕く正しき『光』を。


 誰もがその白銀の落星(・・・・・)に祈った。


 

欺瞞ほんとう』を晴らし、『真実ほんとう』をあらわす白銀の光が来たる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


『シノ様の事は良かったのですか?』


「ん?うん、まあヒカルとユウキが上手くやってくれるだろうし」


 彼の曖昧な答えが返って来る。本当は気になっているのだが、それでも今はそれどころではない。あの新竜を名乗る珍妙な竜が大聖堂の天辺に現れたのは街のどこからだって見えた。そして、それにシノの力が関係しているであろう事も。

 だからシノはヒカル達に任せ、アキトとナギは王宮へと急いでいた。

 アキトがシノを任せると言ったその時のヒカルの様子を思い出したのだろう、身体を一つぶるりと震わせる。


「ヒカル怒ってたよな…」


『ええ、間違い無く。帰ったら覚えておけ、とも仰ってましたね』


「殺される…、間違い無く殺される…」


『大丈夫ですわ、殺されたりしません』


「ホント!?」


 彼のあまりに必死な姿にナギは苦笑してしまう。そして思わず意地悪をしてしまう。


『ええ、間違い無く。ただ、食べられてしまうでしょうけど』


「食べられる!?」


 予想通りの慌てようにナギは彼に分からないように口唇を吊り上げる。


『ヒカル様の眼を御覧になりましたか?完全に捕食者の眼でしたよ?』


「まい、がっ…!」


『お覚悟をされておいた方がよろしいですね。そう簡単には止まらないでしょうから、あの眼は』


「………」


 しばしの沈黙。その後、アキトがどこか達観した声で提案してくる。


「なあナギ。このままどこまでも飛んで行かないか?」


 その提案は大変魅力的ではあるのだが。若干、いや無茶苦茶グラリと来るのだが。しかし、彼女はこう答える。


『それは構いませんが、わたくしも捕食する側ですよ?』


「ノォ――――――――!!」


 アキトの叫びが夜の空に響く。結局諦めたのか、それとも力尽きたのか、彼はぐったりとナギの背中に完全にその身を預ける。

 その間、ナギが飛翔する静かなはばたきと風を切る音だけがその場を支配する。


「信じても、良いのかな…」


『何を…ですか?』


 そんな中、再びアキトが口を開く。その言葉はまるで犬に怯える子供がそれでもその犬にさわろうとするような恐る恐るといった調子で、ナギは質問の意図が分からず困惑してしまう。


 彼はナギの美しい鱗に覆われた首を優しいその手でそっと撫でながら続ける。


「俺の『欲望』の正体は『愛』だったんだ…。けど、俺はそれを受け入れて良いのか分からない」


 そう、彼の抱いていた『欲望』、それが『愛』だと気付いたのは本当に最近の事だった。シノがさらわれ、ぽっかりと空いた胸の虚について考えていた時、思い出したのだ。


 ミズキのあの言葉。


『アキト、ぬしは『大事なもの』が有り、それに十分満足し、しかし同時に『飢えて』おるのじゃ。難儀な事じゃな』


 その言葉が全てだったのだ。その歪な『欲望』に名前を付けるとしたら、それは『愛』だった。


 『大事なもの』が有るのに、それでも満足できない。『大事なもの』をさらに大事にしたい、求めてしまいたい。


 それが、彼の見つけた、見つけてしまった『愛』の形だった。


 だからこそ、彼は迷っていた。


 歌手や詩人は『愛』をさも素晴らしいものであるかのように詠う。


 けれど、彼の見つけた『真実ほんとう』の『愛』は、そんなピンク色のハート型で丸っこく、可愛らしい物では無かった。


 赤黒くて、ドクドクと強烈に脈打ち、彼の身体を狂わせる、その節々から大量の『欲望』を撒き散らす。まさしく心臓ハートの形をした代物だった。


 美しくなどない、尊くもない。醜く、歪み、捻じれ、どうしようもなく己の胸に蔓延り、決して取り除くことは出来ないような、複雑怪奇な形をした『愛』。

 彼はそのささくれ立った『愛』で色んな物を絡め取り、捕え、傷付けるだろう。


 それでは彼が恐れ、遠ざけた『欲望』となんら変わりないではないか。


「この『愛』はきっと皆を傷付ける。それでも、俺は受け入れるべきなんだろうか?」


 ナギはしばらくは何も言わなかった。それはそうだろう、こんな事誰かに相談するような事じゃない。誰かに決めてもらうような事じゃ無い。


 でも、言っておきたかった。ミズキが言ってくれたから。「皆で相談しろ」と。俺だけで出した答えに意味は無い、と。


 だから傲慢でも、何でもいい。とにかく聞いて欲しかった。


 だから、答えを期待した訳じゃない。


 ただ、信じたかったんだ。


『これはわたくしの話でしかないのですが…』


 ナギが一つ一つの言葉を確かめるように呟く。


『それがわたくしへの『愛』であるならば、わたくしはご主人様に傷付けて欲しいです。なるべく深く、強く、いつまでも痕が残るくらい。他の何者にも消せないほどに、誰にも真似できないような形に』


 ドキリ、と胸が高鳴る。本当は俺だってそうしたい。そうしたいのだ。

 けれど。


「もしかしたら、傷つけ過ぎて壊してしまうかもしれないのに?」


 そう、それが恐ろしい。

 だが、対するナギは「どうという事も無い」といった調子で答える。


『むしろ、それくらい愛していただかないと満足できません』


 それに、と続くのは俺のそれと同じ彼女の『愛』。


『それに、わたくしもご主人様を傷付けますから。なるべく深く、強く、いつまでも痕が残るくらい。他の何者にも消せないほどに、誰にも真似できない形にご主人様を傷付けます。それこそ、壊れるくらい、わたくしを忘れられなくなるくらいに』


「そっか…」


 結局、全部俺の独りよがりだったのか。


 そういえば、誰かを愛することばっかり考えて、愛される事を考えて無かった。


 傷付け、傷付けられる…か。


「ナギはそれで良いの?」


 最後にもう一度だけ問う。これに誰かが頷いてくれるのなら、俺はきっと強くなれる。誰かを傷付ける事も、誰かに傷付けられる事もきっと出来る。


『はい、もちろん!』


 だから、俺はこう答えるのだ。


「愛してる、ナギ」


『っ!?』


 さしものナギも、よもやこんな時にそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。

 息を飲み、飛行が一瞬不安定になる。


『な、なっ!?突然なにを!?』


 驚き慌てふためくナギが可愛い。だが、容赦しない。深く傷付けろと言ったのは彼女なのだ。


「愛してる。大好きだ。俺のそばにずっといろ。離さないからな、逃げられると思うなよ」


 もう既に脅迫とすら取れるような告白。


『わ、わ、わ!?わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


「え、ちょ!?ナギ!?」


 突如ナギが急上昇を始める。見る間に王都の街並みが小さくなり、夜空がどんどん近くなる。このまま成層圏すら突破しそうな勢いだ。俺もナギの背中から振り落とされないようにするので精一杯だ。


「ナギ!止まれ!止まりなさい!!」


『ハッ!?』


 俺の必死の呼びかけにようやく正気を取り戻すナギ。


『も、申し訳ありません…。混乱と歓喜でつい…』


「いや、別に良いけど…。それより王宮に急いでくれよ…」


『それよりも、お屋敷に戻りましょう!!そして誰の邪魔も入らないようにして、朝まで淫ら(・・)に過ごしましょう!!』


「何故『淫ら』を強調するんだ…」


 しかし、そんなアキトの呟きなど聞いていないナギはすぐさま方向転換し戻ろうとする。

 俺も『愛している』と言った手前、別にやぶさかでは無いのだが、その前にやる事が有る。


「ちょっと待て、ナギ!ミズキを助けないといけないし、シノやヒカルにもちゃんと『愛してる』って伝えないと!!」


『え?』


 ピタリ、と器用に空中で停止するナギ。いや、実際どうやってんだ?ホバリングって訳でもなさそうなんだが…。


『ご主人様?さっき何て言いました?』


「ん?だから、ミズキを助けなきゃいけない、って言ったんだが」


『いえ、その後です』


「ああ、シノやヒカルにも『愛してる』って伝えないと、って部分か。だってほら、ちゃんと皆に言っておかないと不公平だろ?俺にとっては三人とも大――――」


『えい』


「え?」


 突然の浮遊感。と思ったら、重力に引かれて墜ちていく俺。


「なにすんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ドップラー効果を付けながら尾を引くように遠ざかるアキトの声。

 その中、ナギの声だけが聞こえて来る。


『知りません!!』


 『おがみ』は『真実ほんとう』に依存する。その性質が変な方向に働き、彼は『愛』に対してかなり無節操になっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「死ぬ、間違い無く死ぬ」


 アキトは絶賛大ピンチだった。高度数千メートルの高さからの自由落下だ、『ニギリ』も間に合わない。


「ええい!こうなったら、このまま行ってやらぁ!!」


 やけっぱちのように叫ぶ。どの道、相手は人間のままでは手も足も出ないのだから、こうするしか無いのだし。


「さっきはシノを人質に取られて、手も足も出さなかった(・・・・・・)けど…」


 アキトは落下しながらも、背筋を伸ばし、姿勢を正す。


「今度は――――」


 彼は宣告する。


「手も、」


 大きな音を立て、拝むように両のてのひらを重ね合わせる。


「足も、」


 空気すら踏みしめるように足を伸ばす。


「爪も!」


 重ね合わせた両のてのひらを強く握り合わせる。


「牙も!!」


 奥歯も砕かんばかりに顎を強く噛み締める。


「全部!!」


 それは『悲劇』の終わりを告げる、終幕宣告。


「出してみましょうかぁ!!」


 そしてそれは、大団円に終わる物語。その開幕宣言コール


「拝無神流、秘義がいち!!『大神オオカミ』!!」


 そして、絶望の世界に白銀の落星が来たる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 地上が迫って来る。ちょうど王宮の上に墜ちられそうだ。


「んん?」


 人間の時以上に強化された彼の視力がこの夜闇の中でもその王宮の様子を捉える。暴虐を振るい続ける異形の竜にミズキが追い詰められているのが見えた。


「寄り道してたらヤバい事になってるし!!」


 俺を放り出した後、それでも俺の後に続くように下降する水竜に文句を言う。


『誰の所為ですか、誰の!!』


 逆ギレされた。


『ご主人様は節操が無さ過ぎます!!愛している、と言う台詞は普通一人の異性に対してだけ使われるべき言葉です!!』


 どうやら、その事で機嫌を損ねてしまったらしい。

 だが、俺にだって言い分は有るのだ。


「シノだけでも、ヒカルだけでも、ナギだけでも、誰か一人『だけ』にそう言ってしまったら、俺達の旅はそこで終わりな気がするんだが…」


 ナギもそれは分かっているのだろう。これに対しては特に異存は無いようだが、それでもこう言う。


『帰ったら覚えておいて下さいね!』


「ヒカル二号!?」


 まあ、とにかく今はミズキ達の救出が最優先だ。もちろんナギにも協力して貰う。


「じゃあ、予定通りに」


『分かりましたわ』


 素っ気なく答えて、ナギは俺の近くから離れていく。ここは王宮の直上の為、彼女の為すべき事を為せる位置へと移動するのだろう。


 地上がさらに迫る。俺はその勢いを殺す事無く、構える。今は捕まっているミズキの救出の事だけを考える。


 少々荒っぽくなってしまうが、仕方が無い。


 俺はてのひらを手刀の形に固め、それを剣を構えるように大上段へと上げる。


 これは唯の奥義『手刀テガタナ』であるが、狼男である今の俺にとっては唯の『手刀テガタナ』ではない。


 神竜の腕に力がこもる。だが、間に合う!

 若干の軌道修正をしながら、落下の勢いそのままに手刀を振り下ろす。


 ただ一つ、『切断』の『真実ほんとう』を強く込め、叫ぶ。


「拝無神流、奥義が一つ、『大手刀オオタチ』!!」


 気合と共に、一閃。

 本来であれば、生物の肉体などの複雑な『物』には効きにくい『手刀テガタナ』が、いともあっさりとミズキを拘束する神竜の首から隆起した何十本もの腕を触れる端から切り裂いて行く。


『あ?』


 どうやら神竜は自分に何が起こったのか理解が追い付かないようだ。半開きになった口から間抜けな声が出て来る。


 一方、腕を切り裂き地面に着地した俺はバラバラと降りしきる『腕』の雨の中、落ちて来るミズキを受け止める。


 白銀の世界は最初から体表ギリギリまで絞ってあるため、彼女に影響は無い。このような使い方をすれば、『ただの狼男』として活動する事も出来るが、『世界』と戦う時には『敵』が見えないのであまりやらない。


 ミズキはと言えばゴホゴホと咳き込んでいるが、どうやら大丈夫のようだ。

 ホッと胸を撫で下ろす。


 神竜はと言えば、いまだに現実と頭の中身が一致せず呆然と固まっている。


 まあ、だからと言って俺がやる事は変わらないのだが。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ミズキは突然の衝撃と、それに続く浮遊感を味わう。悲鳴をあげそうになるが、強く締め付けられ、空気はほとんど肺から出てしまっていた為、情けない姿を国民に晒さずに済んだ。

 解放された肺が空気を取り込み、途中で咳き込んでしまう。


「――――!?」


 その身体が再び唐突に何かに抱き止められる。神竜の腕とは違う、何だかフサフサして柔らかい体毛に覆われたその腕が彼女を優しく包んでいる。


(あたたかい…)


 神竜の冷たく歪な腕とは異なり、ただひたすらに穏やかな気持ちになる。


 その腕の正体を見たくて、閉じて再び開くことは無いと思っていた瞼を開ける。


「うっ…!?」


 最初に見えたのは輝き。夜闇に慣れ切っていた自分の眼には眩し過ぎる白銀の輝きだ。けれど、不思議と痛くは無い。痛くは無いが、ひたすら眩しかった。


 その輝きに眼が慣れて来ると、その腕の持ち主の輪郭が見えて来る。


「え?」


 彼女の口から間抜けな声が出る。なにせその腕の持ち主は人間では無かったのだから、当然と言えよう。まるで狼と人との合いの子のようなその姿。

 神竜を『異形のカタチをした人間』だとするならば、目の前のそれは『人間のカタチをした異形』と云う、まるで正反対の存在だ。


 だが、神竜のようなおぞましさは無い、むしろ『かくあるべし』とすら言いたくなるような完成された異形、奇形。


「大丈夫か?」


 その姿に見惚れていると、突然その異形が喋った。あまりの驚きに、何も言えずにいると、心配そうに顔色を確かめて来る。その優しげな瞳になんだか見覚えがあるような…。


「もしかして、アキト…なのか?」


 あまりに突拍子の無い、根拠も確信も無い事だったが、何故かそう聞いていた。

 すると、目の前の異形は嬉しそうに顔を綻ばせる。


「凄いな、よく俺だって気付いたな!」


「ふ、ふん!!余にかかればその程度の変装を見抜けぬ訳がなかろう!」


 よもや、さっきまで瞼の裏にその顔を思い描いていた、などと言えないミズキはつい顔を逸らしてうそぶいてしまう。


『邪魔を…、邪魔をするな!!』


 あまりに突然の事で完全に忘れていたが、神竜を名乗る異形もまだそこに居たのだ。だが、いままでミズキを捉えていた腕は、何か鋭利な刃物で切られたかのように断面のみを残して全て切り落とされ、地面に散らばっている。


 再び腕を再生、というか体中から指を集め『腕』を作り、こちらに掴みかかって来る。


 だが、アキトはその表情を変えない。変装しているからかもしれないが。


「これ変装じゃないんだ。どちらかと言うとこっちが本当の姿…になるのかな?」


 その思考を読んだようにアキトが答える。


「そんな事より、早く避けんか!!」


 だが、『腕』はそこまで迫っているのだ。あの腕の冷たさを思い出し、思わずアキトの身体にしがみつき、身体を小さく丸める。


 そんな彼女をあやすように、アキトの穏やかな、しかし自信を含んだ声が聞こえる。


「大丈夫、大丈夫」


 全く大丈夫では無い状況なのだが、それでもミズキは急に安堵を覚える。それは彼の腕の中にいるからなのか、はたまたこの毛皮の所為なのか。


「やれ、ナギ」


『承知致しましたわ』


 彼の声が響く。同時に何かの細い音がする。ヒュゥ―――、とまるで風切り音のような細く高い音。


 そして、次の瞬間。


 ―――――ドオォォォォォォン!!


 神竜の巨体に同じくらい巨大な何かが激突し、神竜を吹き飛ばす。吹き飛ばされた神竜は王宮の城壁をぶち破り、周囲を囲む堀へと大きな水柱を立てながら落ちていく。


 そして、神竜を吹き飛ばした巨大な何かの正体は、一体の美しい水竜だった。

 おかしい、ハーレム物にするつもりは無かったのに。


 どこかの女王様のせいで方向転換を余儀なくされてしまった…。

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