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白銀のスコール  作者: 九朗
第二章『東雲の少女』
51/115

第12節

 なかなか難しいですね…。


 こういうのが上手く書けるようになればもうちょっとは面白くなるんでしょうが…。


 未熟だな…。






第12節


「ふむ…」


 ふにふに。


「あうあう」


 耐えろ!耐えてくれ!!


「ふうむ?」


 ぷにぷに。


「あうあうあ~」


 シノの声ならぬ悲鳴が謁見の間に響いていた。


 現在シノは女王陛下の膝上で、彼女の白くて細い指に蹂躙されている。


「うむ。確かに文献にあるような白金の鱗じゃな…。塗装でも無いようじゃ」


 そう言って、再びシノをつつきだす。その姿は見ようによっては、お気に入りのぬいぐるみと戯れる少女のように見え…ないな。完全に『獲物にもならない小さな兎を爪の先でもてあそぶ獅子』にしか見えなかった。恐ろしい。


 だが、一応シノが既存の竜とは明らかに異なる鱗を持っている事を理解してもらえたらしい。


「うえ~ん!助けてアキト!!」


「ふむ?」


 しかし、代償も大きかったようだ。とうとうシノが泣き出してしまった。勿論、女王は竜の言葉など解るはずもなく、膝上でジタバタし始めたシノを不思議そうに見ているだけだ。

 このままではシノに変なトラウマが芽生えてしまう。そうなる前にアキトが何とか助け船を出す。


「あの…、納得していただけたならシノを返していただけませんか?」


「む?よいではないか。もうしばらく、こうさせてくれ」


 すまん!失敗した!!

 アキトがアイコンタクトでシノに謝る。


「うわ~ん!!アキトの薄情者ぉー!!」


 シノの悲鳴だけが謁見の間に響いていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 しばらくシノを蹂躙していた女王だったが、その鱗の触り心地を十分に堪能したのか、シノを解放してくれる。慌てて駆け戻って来たシノは、俺の頭に『ガシッ』っとしがみつき、もう梃子てこでも動きそうに無い。先ほどの意趣返しなのか、若干爪を立ててくるが。


 一方女王はと言えば、無駄に艶々した笑顔でこう言うのだった。


「うむ、良い触り心地だった!これだけでも、そなたらを招いた価値が有ったというものじゃ!もう噂の真偽などどうでも良いわ!!」


 そう言って、ケラケラと笑っている。何この子?超殴りたいんですけど。いや、もちろん殴ったら俺の首が飛ぶだろうから殴らないけど。

 しかし、今までのやり取りが完全に無意味だった事に湧きたつ物が無いわけではない。

 けれど彼女の豪快な笑い声を聞いていると不思議と怒りが萎えてしまうのも事実だった。なんというか、この子なら仕方ないという気分になってしまう。


 おそらく、そんな俺の心中を察しているのだろう、タケシが苦笑している。この女王様のことだ、別段珍しい事では無いのだろう。


 しかし、彼女はこちらの事などお構い無しに話を進めて行く。


「となると、褒章を与えねばならんな!ふむ…何が良いかの…?」


 顎に手を当てて考え始める。こっちの意志を聞く気はゼロのようだ。


 しかし、彼女も特に良い案が有る訳ではないようで、しばらくウンウン唸っている。

 と、そこで横から声が掛かる。あの大司教だった。


「陛下、お決まりにならないのでしたら太陽竜様のご意志を聞いてみてはどうでしょう。不肖ながらも、私が通訳をいたしますゆえ」


「ふむ、確かにそれはそれで面白い趣向じゃな」


 いいのかそれで。いいんだろうな、それで。だって、女王様だもん。


「では、太陽竜よ。そなたが欲する物は何じゃ?」


 あの大司教の口車に乗るのは不愉快だが、さりとて何か欲しい物が有る訳ではない。それならば、良く言えば無邪気、悪く言えば欲望100%のシノに聞いて貰った方が単純明快な答えが返って来るだろう。きっと、肉が食べたいとかそんな感じに違いない。


「シノはね~!お肉が食べたい!!」


 ほらね?


 その台詞に大司教が頷くと、女王にこう言う。


「太陽竜様はこう申されています」


「うむ、勿体つけずに早く申せ」


 いつ勿体つける間が有ったよ!?本当にせっかちな女王だった。

 大司教はその笑みを崩さず、こう続ける。


「はい、太陽竜様は自らを讃える神殿を建てて欲しいと仰せです」


「はぁ!?」


 思わず俺の口から大きな声が出る。だって、そうだろう?どうして『肉喰いたい』が『神殿建てろ』に聞こえるんだ?

 はっ!?もしかして『肉喰いたい』が『ニライカナイ』に聞こえたのか?極楽浄土か!!

 いや、流石に無いか。無いな。


 俺は慌てて否定する。


「ちょっと待て!シノは『お肉が食べたい』って言っただけだぞ!?」


 しかし、大司教はそんな俺に底冷えするような睨みをくれる。


「お黙りなさい。私は竜の言葉が解るのです。憶測で物を言うのは止めて下さい」


「適当言ってるのはそっちだろう?例え竜の言葉なんて解らなくても、シノがそんなことを望む訳が無い!」


 既にこの時、俺の中に一つの予感が芽生えていた。一見激昂しているように見えて、その裏で言葉をちゃんと選ぶ。


「竜の言葉を解さない者があまり口出しをしないでいただこうか。そもそも、太陽竜様が『肉が食べたい』などと、そんな俗にまみれた事を仰るはずが無いでしょう?」


 うん、もうこれは確定じゃないのかな。彼は竜の言葉が『解らない』のだ。でなければ、「『肉が食べたい』なんて言わない」なんて言えないだろう。俺が竜の言葉を理解出来る事も分かるだろうに。

 けれど、もう少し確実な証拠が欲しい。


 そう考えていると、女王陛下が聞いて来る。


「ふむ、どういうことじゃ?なにやら意見が食い違っているようじゃが」


 流石に女王もおかしいと思ったようだ。少々視線も鋭くなっている。

 その視線に晒された大司教は慌てて抗弁する。


「陛下!あの者は嘘を言っているのです。大司教である私と、どこの誰とも知れない彼と、どちらが信用に値するかは明白な筈です!」


「それはそうじゃが…」


 実際、普通ならばその通りなのだが、こちらの要求があからさまに欲にまみれた『金が欲しい』とかではなく、『肉が食べたい』なだけに判断しかねているようだ。まあ、大司教が『神殿建てろ』なんて、あからさまに教会に利益のある事を言っているのも大きいのかもしれないが。


 そんな女王の様子に焦れた大司教が言葉を重ねる。その表情には焦りがありありと浮かんでいる。

 おそらく今まで彼の言う事は誰にも疑われたことが無かったのだろう。竜の言葉を理解する大司教、それこそが彼の地位を確かな物にしているのだから。


「彼はあんな獣人を連れているような無法者ですぞ!『肉を食べたい』などと騙して、陛下にとりいる算段なのでしょう」


 一見筋が通っているようで、その実滅茶苦茶な論法。

 今までどちらとも言えない、といった表情をしていた女王も既に、語るに落ちたという顔をしている。


 しかし、そんな彼に止めを刺したのは俺でも女王でもなく、


ことわりの裡に、世の裡に、人の裡に――――我が姿を人世に留めん」


「え?ちょっ!?」


 気付いた時には既に遅かった。

 この呪文は―――――


 謁見の間に白金の光が溢れる。それが晴れると、そこにはそれまで存在しなかった少女が立っている。


「嘘吐きはどっちよ!!私は『お肉が食べたい』って言ってるの!神殿なんか欲しく無いもん!それなのに、ヒカルに酷い事言うし、アキトの事を嘘吐き呼ばわりするし!」


 少女はその華奢な肩を怒らせながら、大司教を睨みつけ言い放つ。


「シノ。服着ような」


 そんなシノはやっぱり裸だった。逆に冷静になったアキトが自分の上着を掛けてやる。

 その間、謁見の間には唖然とした空気が漂い、女王を含めた全員が言葉を失っている。


 アキトに服を着せて貰ったシノは、気を取り直して大司教をその細い指でビシィッと指すとこう宣言する。


「とにかく、嘘吐きはそっちなんだからね!!」


 しばしの沈黙。


 その沈黙を破ったのは、やはり女王陛下だった。


「アッハッハッハッハッハ!」


 謁見の間に響き渡る大爆笑。いや、大豪笑。とても見目麗しい少女から発せられているとは思えないような豪快な笑い声。


「これは良い!語るに落ちたな、大司教殿?」


 その言葉にようやく我に返った大司教が慌てて取り繕う。


「へ、陛下!これは――――」


 しかし、その言葉は女王陛下によって遮られる。


「よい。教会の事は教会でやればいい」


 『そんな事』には端から興味が無い、とでも言いたげな言葉。

 その言葉の後に、しばし女王は考え込む素振りを見せる。


「ふむ。しかし、そうなると困った事になったのう…」


 困った困ったと呟く女王。しかし、その表情は全く困った者のそれでは無い。まるで良い悪戯を考え付いた子供のようだ。無邪気だが、それだけに容赦の無いそれ。


「よし!ではこうしよう!余には竜の言葉が解らぬからな、どちらが本当の事を言っているのか判らん!そこで、余はその少女の言う通り肉料理を振る舞おう。そして、神殿の建設の方は教会に任せようではないか!!」


「っ!?」


 大司教の顔が青ざめる。

 それはそうだろう、神殿を建てるとなれば莫大な費用が掛かる。王族にその費用を出させて、信仰を得ようという教会側の目論見は見事に外れ、『災い』として自分に返って来たのだから。

 しかも、断わる事は出来ない。もし断れば、大司教が自ら己が『竜の言葉が解らない』と認めたようなものだ。それは彼自身の、ひいては教会という組織の信用を地に貶めるのに十分だ。まあ、彼自身の信用は既に地に落ちてしまっているが。それはこの場に居る全員が思っている事だろう。


 大司教はそれまで仮面のように張り付けていた笑みを崩し、鬼気迫る表情でこちらを睨んでいる。その瞳に在った侮蔑の色は完全に憎悪へと塗り替わっていた。


(いや、それは完全に逆恨みですよ…)


 自分で掘った墓穴に、自分ではまってしまったのだから世話が無い。うん、他人事じゃ無いよね。分かってる。


 だが、この場で何かできる筈も無く、


「気分が悪くなりましたので、これで失礼させていただきます」


 そう憎々しげに言って、謁見の間を出て行ってしまった。


 それを見送ってから、女王が言う。


「ふむ。こんなものじゃろう」


 そして頷くと、謁見の間に響き渡るその声で宣言するのだった。


「これにて謁見の儀は終了じゃ!余はこの者達との食事が有るのでな!」


 この一言で謁見は終了となった。

 そろそろ折り返し地点なのに、全く折り返せる気がしない。女王陛下があらゆる意味で予定外だった…。

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