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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
36/115

第35節

 ゴッ○・フィンガーではなく、レムリア・イン○クトの方です。


 処刑用BGMは「破神昇○~かわかずかつえず○に還れ~」でどうぞ。



第35節


「何故我に触れられる?」


「驚いた…。本当に喋れるのかよ…」


 ブン投げた黒竜に近付いた俺を待っていたのはそんな奴の言葉だった。

 感情を持ち、言葉を話す。俺の元居た世界の『モノ』とは大きく違うようだった。


 俺の元居た世界の『モノ』は何も思わず、何も喋らず、ただ延々と『世界』に与えられた『仕組み(システム)』を回し続ける、歯車のような存在だった。


 だが、こちらの世界の『モノ』は違う。まあ、俺がやる事は違わないが。


 それでも、それをやる前に確認しておこう。

 俺は竜に問い質す。


「ここは『そういう世界』だからだ。それより俺の質問に答えろ。何故竜を殺す?」


「アレらは我らが殺さねば永遠に生きる。そんなモノこの『世界』には必要無い」


 おーおー。『世界』が考えそうな事だな…。


 だが、


「何故永遠に生きてはいけない?誰がそんな事を決めた?」


「『世界』に決まっている」


「そうか…」


 言葉を話せても、結局こいつも『世界』の『仕組み(システム)』を回し続けるだけの歯車か…。否、まだそう決めつけるのは早い。


 再び、俺は竜に問う。


「竜を喰らっていたな。お前が存在するためには竜を喰らわなければならないのか?」


「あんなものは唯の児戯あそびだ。我らに食事は必要無い」


 だろうな。こいつらは『現象』にすぎない。『現象』は生き物のように食物を摂取する必要は無いだろう。


「なら、何故『わらって』いたんだ?」


「『永遠』である者達が『有限』たる者達に殺されるのだぞ?これ程の見物みものはあるまいよ」


 この部分だけ、妙に弾んだ声で答えやがる。

 奥歯を噛み締め、湧きあがる物を必死に堪える。問答は終わっていない。


「『有限』?お前も『有限』なのか?」


 どうやらこの問いは竜にとって地雷だったようだ。その質問に竜は激情を露わにする。


「そうさ!我らは『世界』に産み出されしモノ!!その『世界』ですらも『有限』であるというのに!!何故奴らだけが『永遠』を手に出来る!?そんな物は在ってはならないのだ!!だから殺す!!」


 俺は理解する。こいつらという存在の『真実ほんとう』を。

 同じく太陽竜に産み出されたはずの、『竜』と『世界』。しかし、彼らは根本的に異なる存在だった。

 『永遠』と『有限』。『世界』には終わりが有るのに、『竜』には終わりが無い。

 『世界』はそれを嫉妬したのだ。嫉妬に狂い、憎悪した。

 そして産み出したのが、目の前の竜。竜に死を与える為の竜。『永遠』を殺すための『有限』。まさしく『死竜』。竜を永遠存在だとすると、こいつは『絶対必死』の存在。『永遠』すら殺す死の象徴。


 俺は溜息を吐く。結局この『世界』も自分に都合の悪い物を消し、自分にだけ都合の良い物を存在させるだけの場所なのか、と。


 ならば、やはりこいつは俺の『敵』だ。

 俺は最後に一つだけ問い掛ける。


「お前には『意志』は無いのか?自分で自分の在り方を決めるつもりはないのか?竜を殺す以外の道を選ぶ気は無いか?」


「『世界』の一部である我らに『意志』など不要!!そして、己の存在意義は『竜を殺す』。それだけよ!!」


「そっか…」


 ならば。


「なら、俺はお前の『敵』だ。お前が俺の大事なモノを殺そうとするなら、先に俺がお前を殺す。いや、違うな。だって、ただの『歯車』を壊す事を『殺す』とは言わないからな」


「ふざけるな!!小さき者よ!!」


 そうせせら笑う俺に、死竜は激情も露わに襲いかかって来る。


 ここに『化物ばけもの』と『化物ばけもの』の血闘が始まる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 30メートルにも達する巨竜と、2メートルにも足らない人狼が激突する。それは己の『真実ほんとう』のしのぎ合い。

 この世界では『真実ほんとう』だけが力を持つ。けれど、死竜は元々この世界にいるのだ。彼らは『世界』にもらった『欺瞞ほんとう』でもって戦う。この世界は謂わば彼らの『自陣ホーム』であり、アキト達にとっての『敵陣アウェー』でもあった。


 けれど。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 アキトの拳が勢いよく振り抜かれる。懐深くで放たれたそれは死竜の胸を大きく陥没させて、その巨体を大きく浮かせる。そのまま『世界』の『欺瞞じゅうりょく』によって落ちて来る死竜に渾身の回し蹴りを放つ。


「ぜえぇぇぇぇいっ!!」


 弾かれたように吹き飛んで行く死竜。おそらく、肋骨は全て砕かれ内臓も破裂して絶命しているだろう。


 それが尋常の生物であれば。


 木々を巻き込み吹き飛んで行った死竜は、しかし何事も無かったかのように立ち上がる。その胸には陥没の痕も、流血も無い。血があるかどうかは知らないが。


 どうやらあの死竜もそう云う存在らしい。そうだろうとは思っていた。元の世界のソレらもそうだったから。こいつらを滅するには一気に消滅させるか、これらが『世界』と繋がるための『核』を破壊する以外無い。


 けれど、それを為すには問題が一つ。


 そう、この死竜は元居た世界のソレらと比べ、あまりにも大き過ぎる。


 そのため、死竜を一気に消滅させる事は出来ない。否、方法が無い訳ではないが、それをやってもせいぜい半身を吹き飛ばす程度だ。それで『核』を破壊できなければ、こちらがやられるが。


 となると、地道に死竜の肉を削ぎ、その『核』の位置を探すしかない。


 そう結論し、再び死竜との距離を詰める。


 だが、それを待ち構えていた死竜の尻尾が振るわれる。先ほど生身で受けた水竜のそれよりさらなる速度と威力でもって迫るそれ。水竜はただ暴れていただけだったが、こいつは明確な敵意が込められている。


 それを俺は地面に爪を立てて、片腕で受け止める。大地に長い爪痕を残しながらも受け切る。

 ―――が。


 ゴウッ!!


 風を切り裂き、唸りを上げて竜の腕がその鋭い爪でもって俺を切り裂く。それを無事な方の腕でなんとか防ぐ。


「…ぐっ!!」


 しかし、受け切ったは良いものの、両腕が潰れてしまっていた。


 それを死竜が嘲笑う。


「どうした、その程度か?もっと足掻いて見せよ。腕はもう無いのだからな」


 その言葉をアキトが逆に嘲笑う。


「おいおい。どこに眼つけてんだ?誰の腕が無いって?」


 そう、いつの間にかアキトの潰れた筈の腕は元通りになっている。

 

 これこそがこの姿の利点の一つ、『不死』。

 俺はこの姿である時は決して死なない。死ねない。頭を潰されようと、心臓を潰されようと、身体ごと消滅させられようと。死ぬことは許されない。

 もちろん普段の姿の時は死ぬけれど。この姿である間は完全に死と別離してしまっている。

 いな、正確には俺はまだ死んだ事が無いから『死』と言う物の『真実ほんとう』を知らないせいかもしれないが。


 とにかく、確かな事はこの世界では俺はこいつを倒すまで死なない、止まらない、諦めない。そう云う存在になっている、と言う事だ。


 うらやましい?そんな事はじきに思わなくなるから安心して欲しい。


 何故なら。


「お前が普通にやっても消滅しないのは知ってるんだよ」


 そう、奴らは普通に殴っても蹴っても消えたりしない。

 奴らを消滅させるには『秘義』を使う必要があった。


「これあんまり好きじゃないんだけどな…」


 この世界、この姿の時のみ使える『秘義』。

 奴らを消滅させる事に特化したそれ。


「ていうか、全部好きじゃないけど…」


 ああ、どんどんやる気が下がって行くのが分かる…。これからの事を考えると、軽く死にたい気分になってくる。


「『竜を殺しません』って言うなら今の内だぞ?」


 現実逃避のあまり、敵を説得しだす始末。


「くどい!!」


「ですよね~」


 あっさり拒否。じゃあ、仕方ない。

 腹を決める。拳を眼前に突き出し、宣告する。


「拝無神流、」


 『秘義』の解放を。


「『秘義』がいち、」


 『世界』を騙す為では無く、『世界』を滅する力。


「『加具土カグツチ』!!」 


 そして、終幕宣言コール


 しかし、パッと見大きな変化は無い。訝しむ死竜。

 だが、変化はアキトの身体から起こった。


「ぐううぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 アキトの拳は燃え盛っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「―――ハッハッ!!」


 呼吸が荒い。ここまで本気で走って来たためだ。こんなに全力で走ったのはいつ以来だっただろう?思い出す事すら出来ない。


 しかし、そんな全力疾走のおかげでなんとかここまで辿り着く事が出来た。だが、同時にこれ以上進む事が出来ずにもいた。


 原因は目の前の銀色の世界のせいだ。この白銀に照らされている世界は明らかに『こちらの世界』と『あちらの世界』を隔てていた。

 この白銀の境界線を越えてしまえば何が起こるか分からない。彼は言っていたのだ、誰かが近くに居ると使えない、と。つまり、この白銀の世界は踏み入る者に何らかの害をなす可能性が有る。それがどんな物か分からない以上、迂闊に踏み越えて良い筈が無い。


 しかし、ここで手をこまねいていても何も変わらないのも事実だ。


 意を決し、ヒカルがその世界に踏み込もうとしたその時。その世界の中心から白銀以外の閃光が溢れて来る。


 その閃光に照らされて見えるのは、『異形』。狼の姿をした化物。


 けれど、ヒカルには分かった。あれがアキトだと。あの優しい青年だと。


 しかし、安心など出来なかった。何故なら彼の身体は燃え盛っていたのだ。


「アキト!!」


 ヒカルは叫ぶ。しかし、その声は白銀の世界に阻まれて、アキトには聞こえない。白銀の世界に入ろうとしても、もう遅かった。

 あちらの世界は、彼の放つ熱量によって辺り一面燃え盛っていたのだ。


 この時、ヒカルにはまだ見ている事しか出来なかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アキトの腕は燃えていた。否、燃えているなどと云う生易しい物では無い。

 あまりの熱量に、彼の拳は閃光を放っていた。


 プロセスはこうだ。


 腕の細胞を活性化→燃焼→『不死』による腕の細胞の再生。


 これを無限に繰り返し、今や彼の腕は数千度近い熱量を帯びている。

『不死』だからこそ可能な技能。己の身体を、己の命を燃やすわざ。それが『秘義』


 『再生→燃焼』の無限ループにより産み出された熱量は、世界だけでなく彼自身の肉体をもく。

 もちろん、神経を焼かれてもすぐに再生してしまい痛覚遮断なんて甘えが許されようはずも無い。今彼の身体は生きながら無限の火葬に処されている。


 そんな目の前が真っ白になるような激痛の中、彼は『秘義』を紡ぎ続ける。彼の放つ熱量は既に死竜ですら寄せ付けない程に上昇していた。

 その姿はまさしく『炎鬼』。彼の身体は灼熱し、赤く、紅く、朱く。目の前の『欺瞞ほんとう』を討ち滅ぼすためだけの、この姿。


 地面は既に融け出し、真っ赤な溶岩と成り果てる。


 それを顕現させている白銀の世界すら叫びをあげて、


「―――ヒッ!?」


 その圧倒的な熱量に死竜が怯えた声を出す。そして、慌ててきびすを返し、逃げだそうとする。

 それを許すほど、俺は甘くない。燃えていない左腕で死竜の尻尾を掴む。近付いたせいで彼の放つ熱量が死竜を焦がす。


「放せっ!!放せぇ!!」


 死竜が暴れる。だが、もう『加具土カグツチ』は産まれてしまった。実の母すら焼き殺す、無情の炎が振るわれる。


 アキトの腕が死竜の身体にあてがわれる。死竜の身体がその熱量に溶け出す。


 本来であればそれはすぐさま『世界』によって修正されるはずの傷。だが、それは『世界』の修正力すら上回り、徐々にではあるが死竜の身体を抉ってゆく。


「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 この叫びは果たして死竜の物なのか、それともアキト自身の物なのか。激痛に焼かれ続ける彼には分からない。意識を繋ぎとめるのに精一杯だ。


 それでも、アキトは進む事を止めない。死竜の30メートルもある身体は、確実に消滅させられてゆく。


 まず、脚。右の後ろ脚を失った死竜は地に倒れ伏す。アキトは手を止めず、そのまま身体の中心に向かって腕を伸ばしてゆく。


 内臓をき、骨を溶かし、血流を蒸発させながら必滅のかいなは進む。


 そして、アキトの腕が竜の腹の中程まで到達した時、彼の腕に異質な何かが触れる。灼熱によって焼かれ続ける彼の指先でもっても異質と分かるそれ。それこそが、この死竜の『核』だ。


 アキトは渾身の力でそれを掴む。


「やめろおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 おそらく己の『核』を握られたのが分かったのだろう、死竜はさらに激しく暴れる。だが、俺は掴んだ『真実ほんとう』を放しはしない。


 そして、処刑宣告コール


「せいぜい次は見つからないようにするんだな。俺は『世界』の『欺瞞ほんとう』を噛み砕く、『拝暁人オオカミのアギト』だから」


 そして、一息にその『核』を握り砕く。


「――――――」


 幕切れはあっけなく、死竜は霧のように消えて行った。


「死ぬ。マジ死ぬ。だから嫌なんだよ…」


 そう呟いて、いまだ燃え盛る腕をそのままに、なんとか溶けていない地面に辿り着くと、バタンと大の字に倒れてしまう。


「でも、まあ、これで良し!」


 そう満足気に頷いて、白銀の世界をおさめるのだった。

 この節は自分でもまだまだだと思うので、何度も書き直すと思う…。


 さて、次はどんな酷い『秘義』を考えようかな…。

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