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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
12/115

第11節

 エーデル嬢の名前。初出です。





第11節


 ベロベロ。


「――ん」


 ベロベロベロ。


「――う、ん~」


 ―――――――――。


 ベロベロベロベロベロベロベロ。


「っうわ!?」


 何かが顔を這いまわる感触で目が覚める。重たい瞼をゆっくり開ける。


「アキト!」


 どうやら先に起き出したこの子の「なめる」攻撃を受けたようだ。

 やっと眼を覚ました俺に向かって嬉しそうに声を掛けてくる。


 ――が。


 昨日の疲労のせいか、すぐにでも上野瞼夫君と下野瞼子ちゃんが出来ちゃった婚で電撃結婚しそうになる。

 しかし、その気配を感じた竜によって、それはすぐさま阻止されてしまう。


「アキト!アキト!」


 あぁ、何という諸行無情。だが、俺だけはその結婚を応援するぞ。男を見せろ瞼夫。女は度胸だ瞼子。

 まさに愛する二人が一つになろうとしたその時。


―ガブリ。


「痛ッてーーーー!!」


 その結婚は目の前の神様の(あぎと)によって、またもや阻止されてしまう。

 おお神よ、何という仕打ち。


 ともかく、鼻が痛むので起きる事にする。


 やっと眼を覚ました俺に向かって、膝元の竜が物欲しそうな眼を向けてくる。どうやらお腹が空いたらしい。それを見ていると俺も何だかお腹が空いて来る。

 昨日は結局夕飯も食べずにお互い眠ってしまったため、ほとんど一日食事を抜いていた事になる。


 俺は作務衣のポケットに入れていたリンゴを2つ取り出すと、片方をこの子に対して差し出した。

 そしてリンゴをかじりながら昨日の事を思い出す。昨日は本当に色々な事が有った。まだこちらに来て一日しか経っていないのに、もう数日が過ぎ去った気分になる。

 

 この子との出会い、毒々しい果物達、野盗の襲撃、黒フードに黒マントの少女との出会い、そしてこの子の正体。


 濃い、本当に濃い一日だった。


 そんな事を思い出しているアキトとは裏腹に、小さな竜は夢中でリンゴにかじりついている。余程お腹が空いていたらしい。

(本当に美味そうに食べるなぁ)

 果汁でベトベトになっていく竜の顔を見ながらそんな事を考える。考えつつも既に彼の顔はデレデレ状態だ。

 その顔を拭いてやろうと外の河に包帯の余りを濡らしに行こうと小屋を出ると、件の少女と鉢合わせになる。


「おはようございます」


「……ん、おはよ」


 どうやらあれから遅くまで思考に耽っていたのだろう。その琥珀の目はいまだに細められている。

 

「随分遅くまで考え事をされたみたいですね。」


「……うん、色々と。…後で話をしたいから、悪いけどしばらく待って欲しい」


 俺としては今すぐにでも良かったが、彼女の瞼夫と瞼子のランデブーを妨げるものは現れそうにない。

 仕方が無いので軽く頷くと小屋を出る。


 視界の端に入ってしまった黒い塊を努めて視界の外に追いやり、河へ往く。顔を洗い、簡単に身支度を整えてから、包帯を濡らし小屋へと戻る。


 リンゴを食べ終わった竜の顔を拭いてやり、少女が起きるまでの間竜をじゃらして遊ぶことにする。


「ここか、ここが良いのか」


 脇腹を優しくくすぐってやると、すぐさま嬉しそうな「キャッ、キャッ♪」という声が返ってくる。それがあまりに可愛くて、抱きしめたくなる。そんな心をグッと抑えて次は顎、次は羽根の根元、とさまざまな場所をくすぐってやる。どれも好評のようで竜はおれの膝上を転がりまわる。もちろん俺の顔はデレッデレだ。


 …じっ。


 ふと視線を感じ、いつの間にか起きていた少女にその光景を見られていた事に気付く。


「お、おはよう」


「おはよ」


 挨拶は返って来るものの、いまだにその目は眠気とは別の要因によって細められていた。

 慌てて話題を転換しようと試みる。


「話が有るって言ってたよな!何だ!?聞くぜ!超聞くぜ!?」


 少女は露骨な話題転換に軽く溜息をついてから、話し始めた。


「…まずは昨日の話の確認。貴方にはその子が何を言っているのか本当に分かるの?」


「それは…。ちょっと待ってくれ。今喋らせるから確認して欲しい」


 自分だけに通じている訳ではないかもしれないし、なにより検証には比較の対象が必要だ。

 俺は竜を抱き上げ目線を合わせてから、昨日のように俺の名前を呼ばせる。


「このお姉さんの前で俺の名前を呼んでみて?はい、ア・キ・ト」


「アキト♪」


 うん、きちんと俺の名前を呼んでいるように聞こえる。ちゃんと呼べたので頭を撫でてやりつつ、対面の少女を見やる。


「………」


「あの、聞こえました?」


 尋ねると、フルフルとフードが左右に振られる。どうやら本当に聞こえてないらしい。

 こんなにハッキリと聞こえるのに。

 少女のその様子に浮かんできた疑問をそのまま口に出す。


「竜の言葉が分かる人間っていないんですか?」


「…いや、居ない訳じゃない。居ない訳じゃないけど、おそらく世界中を探しても両手の指にも満たないかも」


 居ない訳ではないらしい。なら何が問題なのだろう。


「竜と話せると何か拙い事になるのかな?」


「…難しい。この世界では竜を信仰していると昨日言った。竜とはすなわち神。その竜と対話が出来るという事は宗教的に大きな意味を持つ。現に各国に存在する教会のトップである大司教達は竜と対話できるらしい」

 

 逆にいえば、竜と対話出来る人間が大司教となれる訳か…。成程、確かに言い触らせば厄介事に巻き込まれかねない。注意が必要だろう。

 そう肝に銘じた俺は話の先を促す。


「竜と話しが出来ることに大きな意味が有るのは分かった。しかし、それが君とどう関係してくるの?」


「…これは相談…と云うよりお願い。私は大陸の街を回って竜について研究しているの。けれど人間の記した文献では限界がある。そもそも世界創造の時から生きていると云う竜に話を聞く事が出来れば私の研究は大きく進むはず。その為に力を貸して欲しい。その代わりと言っては何だけれど、この世界に疎い貴方達の面倒を見させて欲しい」


「………」


 俺は考える。

 正直に言ってこれはチャンスだ。この世界について疎いままで行動する訳にはいかない。それは先ほどのやり取りからも確認済みだ。

 元の世界に帰る手段を探すにしても、この世界で暮らしていくにしても、最低限生きていくための知識とは必要になって来る。少なくとも彼女に協力している間はその心配をしなくて済むと云うのは魅力的だ。

 ただ問題は、彼女が本当に信用出来るかどうかだが…。まあ、そこを疑っていたのでは話にならない。この世界の知識を得るためにはある程度のリスクは必要だろう。もちろん付き合いきれないと判断した時はさっさと逃げる事にしよう。それまでは協力しても良いように思える。個人的に彼女の云う『研究』にも興味がある。


 そういった思考を読んだ訳では無いのだろうが、彼女が言葉を続ける。


「…迷うのは当然。それにまだ貴方に言っていない事が有る」


 そう言って彼女はそれまでずっとかぶっていた黒いフードを外す。


「…貴方の世界に居たのかどうかは知らないけれど、この世界には人間とは別のヒトが居るの」


 黒フードの下には肩まで伸びる艶やかな黒髪が朝日を浴びてキラキラと光っている。


「…獣人といって、身体の一部に獣の特徴を持つ者達」


 その美しい黒髪で彩られた頭部には、普通の人間には無い筈の物が付いている。


「…獣人はこの世界では差別の対象。そして、私は―――」


 そうそれは――――


「…その獣人なの」


 黒い綺麗な毛並みで覆われた『ねこみみ』が生えていた!!


「…私と行動することで、貴方に何らかの不利益が生じてしまうかもしれない。だから嫌なら遠慮なく――――」


「受けたっ!!」


「…断ってくれて――え?」


 俺は一も二も無く話を受けていた。

 だって、ねこみみだぞ!

 フードを取った事ではっきりと見えるようになった彼女の顔は、声の調子から想像していた通りまだ幼さの残るものの端正に整っており、おそらく十代の後半に差し掛かったばかりである事を窺わせる。

 その誰が見ても文句なしの美少女の頭にねこみみが付いているのだ。ときおりピクピクと動いているのだ。

 一体この世の誰がその愛らしい耳に触ってみたいという願望に抗えるものか。この時の俺を責められる者はむしろこの世に存在しちゃいけないだろ。

 ちなみに俺は、ねこみみ×メイド、ねこみみ×ナース、ねこみみ×スッチー、と何でもいける派だ。邪道とか云うな。ねこみみは正義。いや、いやらしい意味で無く。


 とはいえ、最初は俺の勢いに目を白黒させていた彼女だったが、どうやらその意思が固い事を見てとると、明らかに安堵した表情を浮かべ「ありがとう」とはにかんだように言った。


「それじゃあ、よろしくお願いします。俺はアキト。拝 暁人(オガミ アキト)。君は?」


「…そう云えばまだ名前を名乗っていなかった。私はヒカル。ヒカル=エーデルライト」


「――ヒカルさんか。言い名前だ。改めてよろしく」


「…別にヒカルで良い。それより、その子の名前は?」


「…え?」


「…その竜に名前は無いの?」


 そう云えば、そうだった。なんだか、他所様の猫に勝手に名前を付けるようで気が引けたのだが…。これから一緒に連れていくのだから名前は必要だろう。


「この子はまだ『アキト』しか言えないからな…。勝手に付けるしかないか」


「―?」


「じゃあ、この子の名前は――東雲(しののめ)…は少し長いか。じゃあ、『シノ』だ。いいか?お前の名前はシノだぞ。言ってごらん?シ・ノ」


 俺は「シノ」に言い聞かせるように言った。


「シノ?」


「偉いっ!」


 今度も一発で覚えたようだ。その愛らしさに頭を撫でて褒めてやる。

 

 またもや、「シノ」と言えば頭を撫でてもらえると学習したシノが自分の名前を連呼しだすのだが、それは割愛する。あくまで、俺の名誉のために。

 ヒカルの眼がひたすらに冷たかった、と言えば分かっていただけるだろうか。

「お・は・よ・う。ほら言ってみ?」


「オハヨウ?」


「おぉ!偉い偉い!」(ナデナデ)


「…何をしているんだ?」


「あぁ、せっかく喋れるんだから言葉を教えてやろうと思って」


「…ふむ。まあ、シノの言っている事が分からない私には関係ないな」


「………。そんな君に任務を与えよう!」


「何?」


「この世界の文字って分からないんだ。だからシノと一緒に教えて欲しいんだけど」(チラッ)


「………。まあ、面倒を見ると言ったばかりだしな。いいぞ」


「やたっ!」


「ヤタ?」


「…はぁ。まあいい。先に言っておくが私はスパルタだぞ」


「…え゛」


「覚悟しておくことだな」


「お手柔らかにお願いします」(ガクガクブルブル)

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