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白銀のスコール  作者: 九朗
第一章『アキト=オガミ』
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第10節

 竜のお話。






第10節


「貴方はこの世界の人間ではないのか?」


 突然彼女から発せられた問いは俺の呼吸を止めるのに充分な威力を持っていた。

 

「ッ!何で分かったんだ!?」


 俺がおそらくこの世界とは別の世界から来たであろうことは、まだ誰にも話していない――というかまともに話のできる人間は彼女が初めてだったのだ。

 そんな状況でどうして自分がこの世界の住人で無い事が分かったのだろうか。少なからぬ驚きとともに、彼女の観察眼を畏敬の念を込めて見やる。

 

 まあ、実際は動揺の中にあった彼女が思った事をつい口に出してしまっただけであるのだが、そこら辺は彼女持ち前の無表情に隠れてアキトには読み取れない。


 よもや唯の勘を口にしただけ、とは言えない彼女は素早く冷静さを取り戻し、言葉を繋ぐ。

 

「…そ、それは、この世界に住んでいて、その竜の事を知らない人間はいないから――」


「どういう事だ?この世界にはこの子みたいな竜がありふれているのか?」


「…半分正解、半分はずれ。」


「―?」


「…確かにこの世界には『竜』と呼ばれる存在が多数居る。この大陸には地水火風の四属性の竜に加え、大陸の南と北に存在する『暗黒大陸』と『白光大陸』には闇と光の属性の竜が存在している」


 アキトの想像以上にファンタジーな世界のようであった。


「へ~、じゃあこの子は光の属性の竜なのかな?なんか光ってるし」


 話を先取りしてみるが、


「…違う。光竜の鱗は白いだけで、そんな白金のような輝きを持っている訳ではない。それに彼らは白光大陸から出てくることは無い」


「じゃあ、何竜なんだ?白金だから金竜?」


「…そんな竜は存在しない、竜は一部の例外を除いて今云った六属性の竜しか存在しない」


「じゃあ、この子もその例外なのか?」


「…それも違う。そもそもその子は既にこの世界に居ないはずの竜」


「?」


「…落ち着いて聞いて。その子は私たち――ううん、この世界にとって…」


 ゴクリ、と緊張の為アキトの喉が唾液を飲下する音が響く。

 一拍の沈黙の後、彼女はこう繋げた。


「…神様みたいなものなの」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それから彼女はこの子、白金の鱗を持つ竜、『太陽竜』について話し始めた。


 それは世界に未だ、命どころか光も闇も無かった頃のお話。


 何もなかった世界に、一番最初に生まれたのが白金の鱗を持つ竜、すなわち太陽竜だった。

 その太陽竜が生まれたことにより光と影が、すなわち光竜と闇竜が生まれた。

 光竜と闇竜が生まれたことにより物事の差ができ、有と無が生まれ、それにより物質を司る四属性の竜が生まれた。

 そして、物質が生まれたことにより、人やその他の動植物が生まれた。


 大体そんな感じ。

これが、この世界の一大宗教『竜信仰』の唱えるお題目だそうだ。


 しかし、――


「あれ?太陽竜はどうして存在しない事になってるんだ?」


「…太陽竜は大昔に死んでしまったらしい。その死骸は今もなお白金の鱗を纏い私たちを照らしている。…そう、太陽として。」


「…何で死んでしまったんだ?」


「…それは――あんまり話したくない」


「―?」


「…とにかく、その子はその太陽竜と同じ白金の鱗を持っている。さっきの野盗達もその子を狙っていたと考えられる。教会にでも売りつけるつもりだったのかも」


「へぇー、この子が、ねえ」


 そう言って俺は、長話に飽きたのかすっかり眠ってしまった竜をそっと撫でてやる。

 「お前、そんな凄い存在だったんだな~」なんて思いながらも、だらけきって俺の膝上で眠る姿には威厳なんて物は少しも感じられない。いいとこ、品の良い猫といった所だ。

 

 そんな姿を興味深そうに見ていた彼女は少し驚きの入り混じった表情で尋ねて来る。


「…竜の幼体は初めて見るけれど、こんなに人懐っこい竜は珍しい。…貴方、一体何をしたの?」


「…う~ん。別に特別な事をした覚えが無いんだが…」


 命を助けようとした事も、結局は自分の空回りであった事だし。本当に何故この子が自分に懐いているのか分からなかった。


「…フム。一種の刷り込み(インプリンティング)なのかも」


「え!じゃあ俺はこの子に親だと思われてるのか!?」


 それはそれで悪くないが。


「…あくまで可能性の話。それに本当の所は誰にも分からない」


「そうか?聞いてみれば良くないか?」


「…竜の言葉がわかる人間なんて――――え?」


「え?」


 

 彼女の瞳が大きく見開かれてゆく。


(あ、琥珀色でブローチみたいな綺麗な瞳だな~)

 なんて、考えている彼を他所に、彼女は大きく動揺すると共に、もしかするとこの子について聞いてきた時以上に興奮して尋ねてきた。


「貴方、竜の言葉が分かるのっ!?」


 あまりの剣幕にアキトがたじろぎながら答える。


「竜―というより、この子の言葉は意味の有る発音に聞こえるというだけ――」


「つまり、この子と話せるの!?」


「いや、この子はまだ言葉を知らないみたいで、俺の名前しか――」


 云い募るアキトの台詞も途中から聞いていないようで、何やら――


「…竜の言葉が……研究に………進……力………――――――」


とブツブツ呟いて、細い指を学者のように顎にあてがい、何事か考えている。


 その様子に掛ける言葉を失うアキト。経験上こういう状態の人に話しかけても返事がないか、邪険にされるだけと知っていたのでそのまま放置して、橋を上下する機械を雨風から守るために建てられたであろう小屋に入っていく。街道に雑魚寝するよりは、風が防げるだけ幾分ましだろう。


 竜を起こさないようにそっと横たわり、寒くないように作務衣の懐に入れてやる。しばらく寝心地の良い位置を探すようにゴソゴソと寝返りを打っていたが、どうやらよい場所を見つけたようでまた静かな呼吸が聞こえてくる。


 そんな様子を微笑ましく見ていたアキトは、「おやすみ」と言って自身も意識を手放した。 




「ふぁ。彼女は学者さんだったんだねぇ」


「違うぞ!!」


「えッ!?」


「学者とは机に噛り付いて理論やら仮説やらを考えている連中の事だ!」


「え~っと?(なんか地雷踏んだっぽい)」


「私は学者ではなく、研究者だ!己の理論を証明するために行動する側の人間だ!!」


「な、なるほど」


「……まったく、最近の若いのは……(ブツブツ)」


「(君より年上だと思うが)」


「何か言ったか」


「いえ、何も」(ブンブン)

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