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神域超越の継承者  作者: ネコ光一
1章 天族
14/18

覚醒



 ---------- クエス -----------



 高所から滑空し続け、ユキナたちの姿が肉眼でも確認出来る位置まで来たわけだが、突如巨大な炎が発生して地上を焼いていた。


『な、何よ!? 下が燃えているんだけど、本当にあそこへ行くの?』

「くそっ! ユキナたちが巻き込まれて…………いや、生きていたか!」


 あの炎を耐えた事に驚きと安堵の息が漏れるが、あんな規模の攻撃を放つなんて敵は一体何者なんだ?

 咄嗟に望遠鏡で敵の姿を確認してみたところ、両腕に竜の首が移植されているという、人でありながら人に見えない男だった。


「何だ……あいつは?」


 まるでゲームとかに出て来る、何らかの実験体みたいじゃないか。

 敵は……神人とやらの技術は、あんな事まで出来るのか?


『ねえねえ! あの子たち、ちょっと不味くない?』

「……だな。のんびり考えている暇もなさそうだ。離れていろよ」

『うん! 行ってこーい!』


 ルルの声援を後ろに、俺はケティールから飛び降りる。

 目的はユキナたちの救援だが、上空にいるならまずやるべきは……。


「……せいっ!」


 竜の首を移植した男への奇襲だった。

 落下速度を乗せた剣の一撃を男の腕へと振り下ろせば、刃は鱗を切り裂きつつ腕を斬り……。


「っ……駄目か!」

「ぬっ!? 何者だ貴様!?」


 腕が半分斬れたところで刃が折れてしまい、奇襲は成功したが結果は駄目だった。

 これで腕を斬り落としたかったが、やはりこんな数打ちの剣じゃ……いや、あいつなら斬っていたな。

 だが悔しがっている暇はない。向こうが動揺している間にもう一撃食らわしてやろうとしたが、それよりも先に周囲にいる魔物たちが俺へ襲い掛かってきたのである。


「私の邪魔とは無粋な!」


 二体のオウガが左右から同時に拳を振り下ろしてきたが、単純な動きなので回避は難しくない筈だ。

 それどころか、記憶が戻った事で肉体にも影響があったのか不思議と体が軽く、俺は余裕を持ってその攻撃を避けつつオウガの背中側へ回り、敵の片膝の裏を全力で蹴飛ばした。

 どれだけ頑丈な筋肉があろうと関節は脆く、片膝を砕かれたオウガはその場にへたり込んだので、俺はその背中を駆け上がって頭部へと迫り、喉元にナイフを突き立てて止めを刺した。

 これで一体は倒せたが、代わりにナイフが折れてしまい、持っていた武器を全て失ってしまったな。隙を突いて奴にもう一撃と考えていたのだが、これでは無理か。


「何!? 人族がこんな簡単にー……む!?」


 仕方がないので、懐から取り出した容器を地面へと叩きつければ、それが爆発するなり白い煙が周囲一帯を覆った。

 所謂煙幕であり、敵の視界を完全に遮ってから俺はその場から脱出し、地面に座り込んでいるユキナの下へと向かう。


「ユキナ!」

「あ……」


 ユキナも中々の怪我人のようだが、隣で倒れているエルカはすでに満身創痍のようだ。ユキナの治療の奇跡によって、何とか命を長らえているような感じである。

 更に少し離れた場所ではオウガの集団に囲まれているエイジの姿も見え、向こうも俺に気付いたのか敵の攻撃を避けつつ叫んだ。


「クエスか!? ユキナと……その子を連れて……逃げろ!」


 見たところ苦戦しているようだが、敵の数と厄介さに手間取っているだけで、ユキナたち程の危うさは感じない。

 だから彼の言う通り、二人を連れて逃げるべきだろうが、エルカが一刻を争う状態だ。


「クエスさん! エルカさんが……エルカさんが!」

「落ち着け。わかっているさ」

「え?」


 やっぱりお前は、レイアの子孫なんだな。

 困ったらいつもそんな目で見てきて、俺は何とかしようと奔走……と、よくあの子には振り回されたものである。

 感傷に浸りつつも、とりあえず持っていた治療薬をエルカの体にかけてはみたが、これでは焼け石に水のようだ。

 やはりもっと強力な回復方法でなければ……。


「……ユキナ、光翼だ。君の全力の奇跡ならいけるんじゃないか?」

「で、出来なかったんです! またこの間みたいに、沢山の人を巻き込んでしまいそうで……」


 すでに試した後か。しかもこんな状況では感情も滅茶苦茶で、力の制御もままなるまい。

 そもそも、やり方がわからないから発現が出来ず、他種族の俺に相談してくるくらいだったのだ。

 だが、今の俺なら……レイアを思い出せた俺なら出来るかもしれない。


「大丈夫だ。俺が教えるから、一緒にやってみよう」

「あ……は、はい!」


 その言葉に困惑しながらもユキナが頷いたところで、俺は彼女の背後へ回って背中に掌を添えた。


「これは……そういうわけか」


 人族にはわからない感覚だろうが、俺の中にあるレイアの光翼によって理解は出来た。

 ユキナは光翼を発現させる為の穴……と言うべきか、とにかくその穴の二つが極端に狭まっているのである。

 これでは天力の放出が上手くいかず、いずれ体内に留め切れなくなり、安全の為に無意識に全身から放って暴走……爆発というわけだ。彼女が膨大な天力を生み出せるが故の現象だろう。

 しかもこれは肉体の問題ではなく、魂と呼べるような精神的なものなので、本来は手なんか出しようもないが……。


「少し痛みがあると思う。耐えてくれ」

「はい……くっ!?」


 レイアの光翼がやり方を……どうすればいいかを導いてくれた。

 やるべき事はレイアの天力で干渉し、狭まった穴を強引に広げる事だ。同じ血筋の天力だからこそ可能な手段なのだろう。

 その痛みは想像できないが、彼女の苦悶の声から相当辛いのは理解出来る。

 だがここで止めるわけにはいかないので処置は続けつつ、俺は気が紛れるようにとアドバイスを一つ送った。


「それと君の光翼だが、翼と考えずに獣族の尻尾や、ケティールの尾羽とかを想像するといい」

「尻尾? 尾羽……」


 かつてレイアは光翼の事を、そんな風に扱っていると言っていたのだ。

 その感覚がユキナに合えばいいと願いつつ、処置が終わったところで俺は彼女に合図を出した。


「出来た。まずは軽く……力の流れをよく理解してから解放だ」

「……はい!」


 その返事は、今まで何度も聞いた控え目なものではない。

 かつてのレイアを思い出すような、自身に満ちた頼もしい返事だと思った瞬間……俺は凄まじい力によって大きく吹き飛ばされたのである。

 暴走……ではない。

 飛ばされる途中で見えたのは、ユキナの背中からジェットの如く光翼が均等に噴き出す姿であり、その勢いにより俺は吹っ飛ばされたのだ。軽くでこの勢いとは、そりゃあ暴走すれば爆発もするわけである。

 地面を数回転がってから立ち上がった頃には、光翼の調整が済んだのだろう。

 ユキナの背には美しくも力強い、四枚の光翼が発現していた。


「本当だ。尻尾……尾羽……うん、わかる。これが私の光翼……」

「ユキ……ナ……さん?」

「あ、ごめんなさい! すぐに治しますからね」


 光翼が輝いたその瞬間、ユキナの両手から膨大な天力の光が放たれてエルカを包み込む。

 そして光が消えた後、全身にあった火傷は綺麗に消えており、エルカは上半身を起こしながら不思議そうに己の体に触れていた。


「あ、あら? ユキナさん、貴方……」

「良かった。エルカさん、後は私に任せてください」

「え、ええ……」


 素直に頷く彼女の無事を確認したユキナは、俺を一瞥してからあの竜の腕の男へと振り返る。

 その頃には煙幕も晴れており、怒りを露わにした男がこちらを睨んでいた。


「ごほ……さっきから、さっきからどこからともなく次々と! この私の完璧な策をこれ以上乱すな! 野蛮人共があああぁぁぁぁ――っ!」


 煙幕で怒っているかと思ったが、己の邪魔をされた事で切れているようである。

 それよりもあの両腕の構え、またさっきのような炎を放つつもりか?


「ユキナ! 一度なら俺がー……」

「大丈夫です。クエスさんは私の後に」


 その穏やかな微笑みに、俺は懐に入れていた手を戻してユキナの背後へ向かった。

 確証はない。けれど、今の彼女なら任せてもいいと俺は思ったのだ。

 そしてエルカの隣まで来たところで、男の両腕から先程と同じ規模の炎が放たれたのである。


「エルカさん……貴方の技、お借りしますね」


 そう口にしたユキナは光翼を輝かせながら盾を構えた。


「あの物語のように、私は……英雄の盾に!」


 そして膨大な天力を盾に注いだと同時に、炎はユキナを呑みこもうと……。


「ユキナさー……えっ!?」


 しかし炎は彼女の盾で完全に防がれ、俺たちの被害は皆無であった。

 いや、俺たちだけじゃない。先程も見た周辺一帯を焼く広範囲の炎だったというのに、俺たちの後方にも被害がほとんどないのだ。


「何て広さ……ですの? これをユキナさんが?」


 ユキナは盾から天力による障壁を広範囲に展開し、巨大な結界を築いていたのである。しかも障壁に沿って走る炎のほとんどを空へ逃がすという、実に器用な事もしていた。


「な、何だと!? こんな……」

「貴方の攻撃は、私が全て止めて見せます!」

「ま、守ってばかりで何が出来るというのだ!」

「そうでしょうか? 戦っているのは私たちだけではありませんよ?」


 炎が消えるとユキナも結界を消したが、光翼の輝きからまだ何度でも発動出来そうである。反面、男の方は連続のブレスにより消耗しているのか肩で息をしていた。

 そして彼女の言葉通り、戦場全体に大きな変化を見られたのだ。


「エイジ殿! 生徒たちは安全な場所へ誘導しました!」

「我々も助太刀します!」

「よし! ここから一気に巻き返すぞ!」


 防戦一方だったエイジに仲間が駆け付けた事により、向こうもそう遠くない内に片付きそうである。


「救援だ! 救援だぞーっ!」

「おお! 遂に来てくれたか!」

「アイラ様だ! アイラ様が来てくれた!」


 更に遠くから角笛のような音が響いたので、アイラが率いる救援部隊が到着したようである。

 おまけでユキナの光翼が周囲に広まった事で士気も上がっており、これなら全体の劣勢も覆せそうだ。

 もちろん油断はまだ出来ないが、あの男を警戒しつつエイジやアイラの部隊と連携していけば……と考えていると、その男が四つん這いになっている事に気付く。


「まさか……私がこんな……あり得ない。あり得ない、あり得ない……あり得る筈がぁ!」

「なあ、ユキナ。あれは一体誰なんだ?」

「彼は先程空に映った男性の部下で、ジンドウと名乗っていました」


 ユキナの説明によると、ジンドウは敵の総大将らしく、魔物を操る力を持っているらしい。

 しかも遠くにいる魔物も操れるようで、その力で魔物を使った戦術を行い、味方を大いに苦しめているそうだ。


「理由はわかりませんが、あの人の言う通りに魔物が動くんです。見てください、あの人が何も言いませんから、周りの魔物が動いていませんよね?」

「声……じゃないな。竜の首……魔物と合体って事は、フェロモンか何かか?」

「ふぇろ……何ですのそれは?」

「虫とかが放つ化学物質……ああ、いや。喋れない虫や魔物が相手に意思を伝える方法……という感じかな?」


 声と違い匂いや感覚なので、簡単な指示なら戦場でもかなり遠くまで届けられると思う。他にも同じ能力を持つ者を戦場のあちこちに配置し、それを経由して細かい指示を飛ばすとか出来るかもしれない。まあ、あくまで予想の話だが。

 とにかくジンドウを倒せば、魔物を操る大元がいなくなり戦いは終わりに向かうだろう。

 とはいえ隙だらけに見えても、戦術を使う相手ならまだ手札を隠している可能性があるので、下手に攻めるのは危険である。

 それを理解しているのか、ユキナは守りに徹しようと盾を構えたままであり、エルカは傷が治ったとはいえ疲労で立ち上がるのも困難であり、俺も武器がないので攻められない状態でもあった。

 何か落ちている武器はないかと周囲を見渡していると、ジンドウが驚愕の表情を浮かべながら俺に向かって叫んだ。


「そこのお前! 何故それに気付ける? 神人様の御業を……何故知っているのだ!?」

「答える義理があるのか?」

「ならそれ程の、それ程の知識を持ちながら、何故そんな野蛮人共の手を貸している!? 才能だ、能力がないからと我々を見下す連中だぞ! 人族である貴様ならばわかる筈だ!」


 言葉を発する度にまるで別人のようだとユキナから聞いたが、彼はきっと感情の制御が出来ないのだろう。


「……あんたは、誰にも認められなかったんだな? 自分の知略を他の種族から馬鹿にされ続け、残ったのは怒りと憎しみだけだったわけか」

「っ!? 何故……お前は一体!?」


 何故わかるのかと言わんばかりに目を見開いているが、観察に関しては俺の唯一の特技みたいなものだからな。

 過去の俺は碌に戦えないので、レイアたちの姿を後ろから見続けていた。

 動き方から体の調子や怪我をしていないか、敵の動き等と……俺なりに皆の役に立とうと必死だったのである。

 今の天力や槍の技術等は借り物であるが、培ってきたこの観察眼だけは自信があった。


「図星のようだな。これだけの事を仕出かすんだ、あんたの恨みは相当なものだろう」


 過去に色々あったのは推測できるが、そもそもあんな両腕を移植されるような改造を受けているのだ。その後遺症で感情が壊れてしまったのかもしれない。

 それでも奴の言う事は完全に間違ってはいないし、俺も人族だから面倒事が多かったのは事実だ。記憶が戻ったからこそ、その気持ちはわからなくもない。

 だが……。


「お前のその怒りはわかるけどさ、俺はここまでやる程に捻くれていないし、何よりお前の言う事に賛同なんて出来ない」

「何っ!?」


 俺には、種族が違っても家族だと思えるくらい大事な人たちがいたのだ。

 やられたからって種族の違いで恨んだりすれば、それはあいつ等も否定している事となる。

 そんな事は……絶対に許せなかった。


「それより、お前たちは何者だ? 神人様とやらは本当にいるのか?」

「はぁ……所詮、野蛮人の仲間は野蛮人という事か」


 もうこちらの話は聞いていないのか、俺の詰問を無視してジンドウはゆっくりと立ち上がる。

 俺たちが身構える中、ジンドウはローブから少し大きなランプのような物を取り出しカバーを外すなり、天を仰ぎながら涙を流していた。


「神人様……エルガンテ様……申し訳ございません。授かった神器を使う事を……お許しください!」

「何か不味いぞ! ユキナ、あいつを撃て!」

「は、はい!」


 俺と同意見なのか、即座にユキナは奇跡の光弾を無数に放つが、その光弾はジンドウの前で突然消失した。

 驚きつつもユキナは再び奇跡を放とうとするが、今度は発動すらせず、それどころか彼女は急に力を失ったかのようにふらついたのである。


「何で……力が……」

「ユキナさん、貴方光翼が……」


 見れば力強く輝いていたユキナの光翼が消えており、まるで力を奪われたかのように……奪われた?


「ははははは! これこそ、野蛮人共の天力とやらを奪う、神人様より賜りし神器の一つ! これでもう下らん力は使えまい! さすがは神器だ……そうだとも、私の勝利は最初から決まっていたのだよ!」


 追い詰められていながらも、どこか油断出来ない感じが消えなかったのは、この切り札があったからか。

 その神器とやらの効果は絶大で、魔物たちを押し返していたエイジたちが再び追い込まれており、周囲の歓声は悲鳴へと変わっていく。


「これは不味いな。ユキナ、俺が何とか足止めするから槍をー……」

「いいえ! クエスさんはエルカさんを連れて離れてください」

「何を言っていますの! 私の盾はまだ砕けたわけではありませんわ!」

「母さんが来るまでの時間稼ぎです。大丈夫。少し力が抜けただけで、槍は振るえますから」


 あの道具は外の天力を奪うだけで、さすがに相手の体内の天力までは奪えないようだ。

 だが光翼が発現出来ないという事は、天族の力が半減しているわけでもあり、向こうはその影響を受けていないのである。

 更にジンドウが引き連れている魔物も未だ多く残っているので、一旦退くべきかもしれないと考えたところで、奴は楽しそうな笑みを浮かべながらユキナを指した。


「心配せずとも、貴方だけは逃しませんよ? 神人様の贄になると決定されましたからね」

「贄? 随分と待遇が変わっているじゃないか」

「そこの娘の光翼は、かつて神人様へと逆らった愚かな天族と同じ。ならば、神人様へ捧げるのは当然でしょう?」


 見せしめか、仲間の士気を上げる為に利用しようというわけか。

 そうとわかれば、逃げるのはユキナの方だ。

 アイラと合流すれば彼女を守りやすくなるし、角笛が聞こえた方角へ走れと伝えようとした、その時……。


「このような所で神人様の仇敵に遭遇するとは、何たる僥倖か! 今までそのような天族はー……そうか! あの天族の子孫なのですね? ははは……なるほど、納得です!」

「何が可笑しいんですの!」

「我々が集めた情報にあるのですよ。仇敵が育てている、神人様への対抗戦力がある……とね? それが貴方たちでありながら、神人様どころか私の手で潰される。これ程可笑しい事などありますかね?」

「……もう勝った気でいるんですか?」

「当然ではないか! この神器を前に成す術もないお前たちに何が出来る? 仇敵が残したものは全て……全て無駄に終わるのだ! ははは、はははははははぁっ!」

「…………」


 奴の笑い声が響く中、俺はユキナ向かって手を差し出していた。


「ユキナ、君の槍を貸してくれないか?」

「た、戦うつもりですか? でも魔物がまだあんなに……」

「大丈夫だ。俺に任せてくれ」

「…………え? あれ?」


 無意識に俺へ渡してしまった事に驚いているようだが、気にせず俺は前へ出て借りた槍を構える。


「はは……娘を逃がす盾のつもりですか? 格好良く死にたいー……」

「もう喋るな。黙ってろ」

「んん?」


 自分が馬鹿にされるのはどうでもいいが、さすがに今の言葉は見過ごせなかった。


「俺の義妹いもうとの……レイアが残したものを……」

「クエス……さん?」



「馬鹿にする奴は……許さん!」


続きは、明日の17時投稿予定です。

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