表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/73

第七十三話 窮鼠猫を噛む

 夕暮れの光が廊下の窓から差し込み、長い影を床に落としていた。

 アレスは少し疲れた足取りで、自室の扉を開ける。


「ただいま……」


 扉の向こうは、いつもの生活の匂いがする空間だった。

 部屋は広くはないが、やはりプライベートな場所は落ち着く。

 エリスは幻惑擬態イリュージョンヴェイルを解き、本来の、アレスとの半々の姿に戻る。

 ふたりはそのまま壁掛けの魔法陣を潜り抜け、隣の部屋に移動した。

 ソファの上には、アーテーが魔導書を読みながら、人型のマケがお菓子をほおばりながらそれぞれ座っていた。

 彼女たちはアレスらの姿を目にするなり立ち上がり、挨拶を交わす。


「おかえりなさい、エリス様、アレスどの。……なんか、お疲れですね」


 アーテーの声は柔らかく、部屋の空気を少し明るくする。


「主様の魔力が途切れた時間があったにゃ。ただの訓練だけで、そんなお顔になるはずがないにゃ。詳しくお話してほしいにゃ」

 

 マケはアレスとエリスに近づくとその場に座り、心配そうな顔をして見上げてくる。

 すると、エリスは揺れる尾を垂れ下げながら、話を切り出した。


「ふぅ……疲れたわい……実はな、島の遺跡でオルクスと戦ったのじゃ」


 アーテーの表情が一気に変わる。


「えっ……死神!? 本当ですか……?」


 エリスが頷く。


「うむ。あれはユピテルの配下じゃったから、おおかたユノーが旦那に頼んだ……といったところじゃろう」


 マケは眉をひそめる。


「卑怯な手は十八番……どうやって倒したにゃ?」


 アレスは少し視線を落とし、静かに答えた。


「……アリスが戦ってくれた。あとはスコルピアの時みたいに亜空間で」


 アーテーは目を細める。


「では、睡眠効果スリーピングでみなさんの記憶を……巻き込まないためとはいえ……」


 エリスは複雑な気分になり、本音を口にする。


「そうじゃ。わらわとアレスの魔力が重なり、独自の境界魔法として具現化した。この力がわらわの弱体化を補ったのじゃ。アリスがいなければ、あわよくば勝てなかったもしれんな」


 アレスは苦笑する。


「……死神の本質を断つには、生と魔の境界が必要だった、とか概念的なのも程があるよ」

「でもアリス様が……全部救ってくれたにゃ!」


 マケのかけてくれた言葉に、アレスもエリスも逆に救われるのであった。

 一方でアーテーが表情を引き締める。


「ところで……それとは別に、暴走結晶の件、関係してると思いますか?」


 エリスも頷く。


「王都の周辺が不安定になってきておる。魔族の干渉は間違いないじゃろうが……死神の奴は関わってなかったようじゃ」


 マケは首を傾け、やや考え込みながら喋る。


「にゃぁ……絶対偶然じゃないにゃ」


 アレスは机に手を置き、真剣な表情で言った。


「……何か焦りも感じるんだよね、魔族の。一気に攻めてくるわけでもないし、エリスさんと僕への刺客も単発的で、大戦力で叩くというよりも、明らかに暗殺狙ってるし。別の目的があるから、そこまで戦力を割けないのかな?」


 アーテーが首をかしげる。


「別の目的……?」


「うん。そもそも、30年前の戦いも目的があったんでしょ? でも話を聞いた限りだと、先代魔王の跡を継いだエリスさんですら、目的を知らないみたいだし……」

 

 エリスが話を続ける。


「うむ。侵略や占領というのは、エネルギーやら人員やらを浪費する金喰い虫での。魔界内ならともかく、転移が必要な人間界まで出しゃばるにはリスクが高すぎるのじゃ。遠い異界では速達性に欠けるゆえ、例えば謀反への対処が遅れるし、自分が異界に出向いては逆に本拠が手薄になる。本来、魔王が城に構えたまま動かんのは、下剋上対策もあるのじゃ。だが、先代は人間界まで出向き、討伐された」


 マケは静かに呟く。


「……だから主様が魔王になれたにゃ」


 アーテも頷き、見解を述べる。


「エリス様はそれがわかっていたからこそ、人間界で全滅した魔王軍への援軍を断ち、国内安定を優先させたんですよね。敗戦処理でいろいろ苦労させられましたけれど」


 エリスがその当時を思い出しながら言う。


「おかげでようやく国力も戻ってきたんじゃがのう。ユピテルの奴め、いったい何を企んでおる??」

 

 アーテーが腕を組む。


「それに……ユノーの件もありますよね。刺客を三回送って全部失敗。しかも今回は人質作戦をとったに……結局失敗した」


 アレスは冷静に分析する。


「ユノーは焦っているんじゃないかな? ユピテルの奥さんで魔王軍の中でも高い地位だけど、ミスばっかりじゃ影響力も落ちるよね? もしかしたら、次は直接、ユノー本人が何か仕掛けてくる可能性もあるし!」


 エリスは鼻で笑いつつ、気は緩めるどころか逆に引き締める。


「ふん。あやつはもう後がないじゃろう。じゃが、追い詰められた者ほど、何をしでかすかわからぬ。むしろ、警戒を強めねばならんのはこれからじゃ」


 マケは静かに言った。


「ユノーは……何を仕出かすつもりかにゃ……?」


 エリスはアレス側の肩に手を置く。


「アレスよ。これからが正念場じゃ。鍛錬の精度を上げるぞ」

「うん。みんなを守るために!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ