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第六十二話 休養日

 宿営地での模擬戦が一段落し、第3班が息を整えているところへ、エンディ先生が歩み寄ってきた。

 先生は腕を組み、四人の動きを思い返すようにゆっくりと口を開く。


「第3班。今の模擬戦、よくやっていた。普段とは異なる配置でも、互いの動きを理解しようとしていたのが分かる。だが、まだ改善できる点はいくつかある」


 ネプトが少し身構える。


「うっ……やっぱりダメなとこありました?」

「ダメではない。むしろ伸びしろだ。昨日の乱流域での経験を、今日の動きに落とし込めているのは評価できる」


 ディアナが真剣な表情で頷く。


「では……どこを意識すればいいのでしょうか?」


 エンディ先生は四人を順に見渡しながら、落ち着いた声で続けた。


「アレス。お前は魔力の流れを読む力が突出している。だが、支援の中心に立つなら、仲間の動きだけでなく『敵の意図』も同時に読む必要がある。魔力の揺らぎだけでなく、動きの癖や攻撃の兆候も見ておけ」


 アレスは深く頷いた。


「……はい。もっと広く見られるようにします」


 続いてネプトへの助言も伝えられる。


「ネプト。補助としては悪くなかった。だが、氷の魔法は防御にも攻撃にも使える。前に出る時は、氷を『盾』として使う意識を持て。お前の魔法は、仲間を守る壁にもなるし、同時にそれが武器にもなる」


 ネプトは驚いたように目を丸くする。


「氷を……盾に? なるほど、やってみます!」


 次に、ディアナに対しては、


「前衛は視界が狭くなる分、判断が重くなる。後衛ではどこを撃つか、どこを撃たないか。その選択が戦況を左右する。お前は狙いが正確だが、前に出てしまう事態になっても対応できる柔軟さが必要だ」


 ディアナは静かに頷いた。


「……はい。状況そのものを見て、臨機応変な動きを目指します」


 そしてヴェスタにもアドバイスの言葉。


「側面支援は、敵の動きを乱す重要な役割だ。火力を抑えながらも、敵の注意を引きつける動きができていた。だが、魔力の出力調整をもう少し細かくできると、さらに安定する。それは大火力にも活きるからな」


 ヴェスタは胸に手を当て、少し緊張した声で答えた。


「は、はい……! もっと練習します……!」


 エンディ先生は四人に向き直り、落ち着いた声で締めくくった。


「今日の訓練はここまでだ。だが、まだ合宿は続く。明日は休み、明後日以降は、いよいよ終盤のサバイバルとなる。さらに応用的な連携が試されることになる。昨日の経験を無駄にせず、今日の動きを積み重ねていけ」

「はいっ!!」


 第3班は揃って返事をした。


 ◆


 翌日、今日は完全な休養日として、学生たちはみな宿営地に残っていた。

 ネプトが寝袋から這い出し、大きく伸びをしながらつぶやく。


「休養日って最高だな……昨日までのあれこれが夢みたいだぜ」


 すると、ディアナは髪を整えながら、


「夢ならいいけど、現実よ。でも、こうして無事に朝を迎えられたのはありがたいわね」


 と安どの声を上げる。

 そしてヴェスタは、湯気の立つカップを両手で包みながら胸を撫で下ろす。


「アレスさん、私たち無事に戻ってこられて……よかったです……ほんとうに」

「うん……今日は、みんなでゆっくり過ごそうよ」


 アレスも緊張がほぐれたのか、まだ半分眠そうだ。

 第3班が食堂テントに到着した際には、中は珍しく静かだった。

 他の班の者たちは既に朝食を終え、各々出払っているため、わずかに食堂に残る学生だけでゆったりとした空気が流れている。

 ネプトはパンをかじりながら、ディアナはスープを口に運びながら、ヴェスタは小さく笑いながら会話を交わしている。


「なんか贅沢だよな。俺たちだけのんびり朝飯って」

「昨日の件があったんだから当然よ。むしろ、わたくしたちは今日くらい休まないと身はもたないわ」

「わ、わたし……昨日の夜、なかなか寝つけなくて……でも、今は少し落ち着きました……」


 アレスはもまだぼーっとしている。


「今日は何して過ごそうかな。エンディ先生も『休める時に休め』って言ってたし」


 宿営地の外へ勝手に出ることは禁止されているが、敷地内には自由に使えるスペースが多い。

 四人は思い思いの時間を過ごした。

 ネプトは丸太を担いで走り回り、「休みの日こそ鍛えるんだよな!」と汗を流す。

 ディアナは木陰で本を開き、「こういう時間、嫌いじゃないわ」と静かにページをめくった。

 ヴェスタは食事当番に頼まれ、野菜の下ごしらえを手伝いながら「きょ、今日は焦がさないように……!」と奮闘していた。

 アレスは魔力感知の軽い練習をしながら、昨日の結晶のことを思い返していた。


「アレス、やはり気になるか……あの水晶のことが……」


 とエリスが尋ねる。


「うん。あれ、あからさまに魔族が設置したものだよね? でも、この前の3人の刺客の時とはタイプが違うような気もするし。エリスさんは見覚えない?」

「ふむ……あれはユノーというよりも、ユピテルが使っておったアイテムに近い。じゃが、あんなものを置いたところで、わらわを倒したり探す罠にしては弱すぎる。おそらく実験として別の目的で用意したものじゃろう」

「でも先生たちが処理しちゃったし、国にも報告って言ってたし。侵攻計画って意味では、その証拠になるから、魔王軍もやりずらくなればいいんだけど……」


 そうして休養日は静かに過ぎていき、第3班は心身ともにリフレッシュした状態で、翌日の応用訓練へと向かう準備を整えていった。

 日が沈むと、宿営地の中央に焚き火が灯る。

 火を囲む第3班のうち、その炎の揺らぎを見つめながらネプトがぽつり。


「明日から、また訓練か……」

「うん。明日からも気を引き締めていこう」


 アレスは静かに、自分にもエリスにも語り掛けるように言った。


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