第四十五話 混合魔法を放て!
アリスは、エリスの威圧もアレスの優しさも混ざり合った、どこか幼さの残る表情でスコルピアを見据えた。
スコルピアは毒針を構えながら、警戒心を隠さずに言う。
「……なんなのよ、その姿……魔王でも人間でもない……気味が悪いわ」
アリスは首をかしげ、少し子供っぽい口調で返す。
「気味悪いって言われても、これが『私』なんだもん」
そして次の瞬間、アリスの足元に白い魔法陣が浮かび上がる。
「俊速強化」
アリスの身体がふっと軽くなり、動きが一段階アップする。
「精神透化」
視界が澄み渡り、スコルピアの動きがスローモーションに見える。
「魔力循環」
魔力の流れが整い、エリスの時のような乱れは一切ない。
スコルピアは目を見開く。
「……ちょっと待ちなさいよ! 魔族が光の補助魔法なんて……反則でしょ……!!」
アリスはにこっと笑う。
「魔族じゃないよ。私は人間。だけど、光だけじゃなく闇も、両方使えるの」
アリスは右手に黒い魔力を集める。
「影面縫絡!」
地面の影が触手のように伸び、スコルピアの足元を絡め取ろうとする。
スコルピアは跳躍して避けるが、そこにアリスの左手へ白い光が灯る。
「神聖光弾!」
白い光弾が一直線に飛び、スコルピアの肩をかすめて爆ぜた。
「っ……! 闇光魔法の同時展開なんて……もうムチャクチャ……!」
アリスは軽く首を傾げる。
「うん、知ってる。だから使うんだよ?」
スコルピアは歯を食いしばる。
「……卑怯ね、あんたァ……!」
アリスは無邪気な笑顔で返す。
光と闇を交互に、時には同時に放つ。
光の補助で身体能力を底上げし、闇の攻撃でスコルピアを追い詰める。
スコルピアは毒針を投げ、影に潜り、高速で死角へ回り込むが――
アリスの光魔法による感知能力が、すべてを見抜いてしまう。
「そこっ!」
アリスの光弾がスコルピアの足元を撃ち抜き、スコルピアはバランスを崩す。
「くっ……! なんなのよ、この子……魔王より厄介じゃない……!」
アリスは軽く跳ねるように前へ出る。
「エリスより強いかどうかは分からないけど……私は私のやり方で戦うよ」
スコルピアは後退しながら、毒針を握りしめる。
(……まずい……このままじゃ……光魔法がこんなに厄介だなんて……!)
アリスは再度、両手に光と闇の魔力を同時に集める。
「これで終わりにするね」
スコルピアの顔が強張る。
「……っ……!」
スコルピアは奥歯を噛みしめ、毒針を逆手に握り直した。
「せっかく逆転できたと思ったのに……こんなチートな相手、まともに勝てるわけないじゃない……! ……仕方ない、奥の手……」
アリスが両魔法を同時に放とうと構えたところ、スコルピアの周囲を纏っていた黒紫の魔力が、身体の中へ吸いこまれていく。
「――影毒変異!!」
スコルピアの影が巨大化し、毒と闇が混ざった影が盛り上がり、巨大なサソリの尾のような形状へと変質する。
アリスは目を見開く。
「……わぁ……なんかすごいの来た……! でも、それ……身体に悪そう」
「えぇ……でも、なりふり構ってらんないのよ、アリスッ!!」
スコルピアは苦笑しながらも、その顔は苦痛に歪んでいた。
「当たり前でしょ……これ、命まで燃やす技なんだから……!」
影の尾がさらに巨大化し、毒の霧を撒き散らす。
「でも……これで一気に決める……!」
アリスは光と闇の魔力を両手に集めながら、小さく呟く。
「……そっか。じゃあ、私も……本気でいくね」
アリスの右手に白い光が集まり、左手に黒い闇が渦巻く。
本来なら、光と闇は触れた瞬間に相殺し合い、消滅するはず。
だが、アリスはその二つを同時に制御していた。
「光と闇はね……混ぜると危ないんだよ。でも、私は……両方の魔力を持ってるから」
スコルピアが息を呑む。
「……まさか……混ぜる気……!?」
アリスは両手を重ね、光と闇を強引に融合させた。
「混合魔法、対消滅波!!」
白と黒が混ざり合い、空間そのものを混沌に貶めたような「無色の光」が生まれる。
スコルピアの顔が蒼白になる。
「そんな魔法……聞いたことない……!! けど、私の方が上よっ! 行けぇぇぇぇ!! 暗影毒針!!」
巨大な影のサソリ針が、空間を裂きながらアリスへ突き進む。
アリスは対消滅波を前へ突き出す。
「これで、おしまいっ!!」
無色の光が放たれ、影の針と正面から衝突した。
バチィィィィィンッ!!!
亜空間が張り裂けんばかりの金切り声を上げるとともに、影の針が粉々に分解されていく。
「なっ……!? 私の……切り札が……!」
アリスの対消滅波は勢いを失わず、そのままスコルピアへ直撃した。
「――っ!!」
閃光が空間を満たし、スコルピアの姿が光に飲まれる。
黒紫の影が霧散し、毒の霧も消え去る。
光が収まった時、スコルピアの姿そのものがなくなっていた。
「ふぅーっ」
アリスは息を整えながら、光と闇の魔力がゆっくりと消していき、表情に少しだけ笑みがこぼれる。
「エリスでもアレスでもない……私の力で勝てた……」
アリスは静かに目を閉じ、仲間たちのいる方向へと歩き出した。
「……次は……みんなのところに戻らなきゃ」
亜空間の揺れが収まり、アリスの勝利が確定した。




