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新婚初夜

激甘注意。

 


 カインとの結婚式が終わり、私はティア・ファロムになった。


 結婚式も婚約の時みたいに祭壇の前で誓いを立て、魔導書に魔力を込めるとキラキラとした光が降り注いだ。まるで神に祝福を受けているみたいに幻想的な光景だと思った。

 家族や友人達にもたくさん祝福してもらって、カインとたくさん笑い合って、幸せ過ぎる一日だった。




 入浴も済んで自室に行く。

 新築の匂いがするこの邸宅は、私もまだ知らない部屋があるくらい広い。

 ここに私とカインの二人だけで住んでいるとか贅沢すぎやしないかな。使用人や護衛は何人か雇っているけれど、最低限らしい。カインは必要になったら増やしていこうかと言っていたけれど、そんなに人数必要かなと思うのは私がまだ平民の考えだからなのだろう。


 私の自室はカインの部屋の隣だ。

 私の部屋とカインの部屋の間には夫婦の寝室があって、互いの部屋から行き来出来るようになっている。二人の空間も作りつつプライベートスペースも確保するという素晴らしい作りだ。




 ・・・。




 ・・・うん。

 お気づきかも知れないが、今日は新婚初夜である。


 初夜って事はつまり、アレだよね?

 カインとキス以上の事するんだよね?夫婦だもんね?


 ・・・緊張、するっ!


 さっきお風呂でめっちゃ綺麗に体磨かれたもん!体からすごくいい香りがするんだもん!

 邸宅の事とか使用人の事とか考えて意識逸らしてみたけどダメだ!やっぱり緊張する!


 すーはー。


 深呼吸して、寝室のドアを開ける。


「お待たせ、カイン」


 カインはソファーに座って本を読んでいた。


「ティア」


 本から顔を上げ、いつも通りふにゃりと微笑んでくれるカインはあまり緊張していないように見え・・・


 いや、カインも緊張してるな。

 うん。やっぱり彼も緊張しているのだ。


 だって、持ってる本、逆さまだもの。


 本を逆さまにして読むという奇特な脳の鍛え方をしていない限り緊張しているのだと思う。

 すごく真剣に読んでたように見えたけれど、意識は別の所に行っていたんだね。


「・・・ふふふっ」

「え?何?どうしたの?」


 いきなり笑い始めた私にカインが戸惑う。


「ふふっ、カインも緊張してるんだなって思ったら、ちょっと安心しちゃった。・・・本、逆さまだよ?」

「え・・・、わぁ!ほんとだ・・・恥ずかしい」


 指摘すると、カインは頬を染めて本を置いた。カインの可愛いさにほっこりとした。私はこういうカインの可愛い所も大好きだ。


 私はカインの隣に腰掛けて、ピトッとカインにもたれかかる。

 以前、シャルロッテがニコラスにやっていたやつだ。シャルロッテ程自然には出来てないかも知れないが、私なりに頑張ってみた。

 カインはビクッと反応したけれど、離れられたりはしなかった。


「今日は、たくさんの人が私達のこと祝ってくれたね。すごく、幸せな一日だった」

「そうだね。今日のティアは特別綺麗だったよ」

「ありがとう。・・・本当に、カインと結婚できてよかった」


 乙女ゲームのヒロインに転生した時はどうしようかと思ったけれど、シナリオに巻き込まれつつも、こうして無事に大好きな人と結婚できた。


「うん。僕もティアと結婚できてよかった。ここまで、長かったよ。・・・本当はね、ティアの前世の物語を聞いてからずっと不安だったんだ。学園に入ったらティアが僕じゃない誰かを好きになるんじゃないかって。別の男の所に行こうとするんじゃないかって」

「えっ」


 ゲームの攻略対象達が必然的に私に惹かれたように、私も攻略対象の誰かに惹かれるのではないかと、ずっと不安に思っていたという。


「でも、ティアはずっと変わらずに僕だけを見てくれていて、ずっと一緒にいてくれて、今日、僕と結婚してくれて。僕、今世界で一番の幸せ者だと思うな」


 すり、と私の頭に頬を擦り寄せて来るカインの声は穏やかで、甘い。


「私、カインが好きだよ。今も、昔も、ずっとカインだけが好き。・・・シヴァンさんにも言ったけれど、改めてカインにも言うね」

「うん?」


 私はカインにもたれかかっていた体を起こして、エメラルド色の目を覗き込む。


「カイン、私と結婚してくれてありがとう。私、絶対にカインを幸せにするからね」


 私は、こんなにも私を愛して大切にしてくれるカインを幸せにすると決めている。一生をかけてカインを愛する。


「〜〜〜っ、もう、だから、それ僕の台詞だからっ!」


 そう言うと、カインにぎゅうっと抱きしめられた。


 小さく「ありがとう」と聞こえてからも、あまりにもぎゅうぎゅうと抱きしめられるので、ちょっと苦しくなってきた。


「カイン、苦し・・・」

「ティア」


 名前を呼ばれ、カインの腕が緩んだので見上げると、うっすら頬を染めたカインと目が合った。


 でも、その目はとろん、とまどろんでいるようで――――


 カインの顔がゆっくりと近づいてきて、おでこに、頬に、唇に、優しいキスをされる。


「・・・んっ、!」


 それを何度か繰り返されると、カインの舌が口内に入ってきて、深く絡み合う。


「ふ・・・、んんっ」


 激しいキスに頭がぼんやりとしてきて、カインの寝衣を握ると、背中に回っていたカインの手がするりと腰を撫でた。

 パーティー等でエスコートする時とは違う、明確に意志を持って触れるその手つきに、ピクリと身体が反応する。


「・・・は、・・・ティア、愛してるよ。今からティアの全部を僕にちょうだい?」


 少し息の乱れたカインから今までにないくらい熱っぽい視線を向けられて、心臓が大きくはねる。


「うん。・・・私も、愛してる」


 そう返事をすると、私の背中と膝裏にカインの手が回されて、性急な動作で持ち上げられた。


「わわっ」


 慌ててカインの首に手を回したが、すぐにベッドの上に優しくおろされた。


「なるべく優しくしたいんだけど、理性吹っ飛んじゃったらごめんね」


 私に覆い被さってくるカインのエメラルド色の目には激しい熱が揺らめいていて。まるで獲物を捕らえた狼のように、逃がさないと言われているようで。


 カインの好きにして――――そう言う代わりに、カインの首に腕をまわして、口付けを強請った。










〜fin〜





これにて完結です。

最後までお読み頂きありがとうございました。


またどこかでお会いできることを願っております。

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