エピローグからはじまるプロローグ
二年後……。
おれは、桜の木の下にいた。桜舞い散る四月。おれが、佐藤さんに告白した春から、二年が経過していた。
そして、今日は、大学の入学式だった。
一カ月前。おれは、高校を卒業した。金田と蒼井さんは内部進学し、おれとは別の道を歩んでいる。
この一年と半年間は、親友コンビの惚気を特等席でみることができる素敵な優待をいただいた。本当にリア充爆発すればいいのに……。でも、その悔しさは、おれはひたすらに勉学に向かわせた。あの時、佐藤さんのところにおいてきた返事をもらうために……。
スマホが鳴った。やはりというか、金田からのメッセージだった。
真新しいスーツを着飾ったおれの親友コンビの満面の笑みで撮られた写真が添付されていた。
『がんばれよ』
その一言を添えて。
「よし、そろそろ行くか」
おれは、気合を入れて、大学の正門をくぐる。桜の花びらがおれの背中を押してくれているような気がした。
入学式までは、あと一時間ある。時間としては、充分だ。
『中庭にある大きな桜の木の下で待っています』
昨日、彼女から届いたメッセージの場所に向かう。中庭の桜は、春風で舞い散っていた。最高のロケーションだった。あの時の教室のことを思いだす。
『でも、ごめんなさい。あなたは友達にしか見えないんです』
あの後、何度も頭の中で繰り返された言葉は、もう俺の中ではいい思い出となっていた。
あの失恋シーンも、俺にとっては数少ない思い出だ。
桜の木の下で、彼女は待っていた。
散っていく桜の花が、彼女を美しく着飾っていた。その姿は、本当にきれいだった。
俺は見惚れて、硬直する。
「久しぶり」
彼女が笑いかけてくれる。
「うん、久しぶり」
そんな月並みな返事しかできなかった。たくさん、イメージトレーニングしていたのに、出てくる言葉は単調だった。
「やっと会えたね」
彼女の短い言葉がこころに突き刺さる。
「うん」
もう、ここからはおれの番だ。
「佐藤さん、好きです。おれと付き合ってください」
二年前と同じ言葉を彼女にぶつけた。
彼女は、あの時と違って微笑んでいた。
こうして、おれの長いプロローグは終わりを告げた。
そして、新しい物語がはじまった。




