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第十章 帰る場所、旅立つ場所

 屋敷へ戻った一同が、地下へと続く扉(とびら)を抜けた――その時だった。

「――奥様!」

「エメ様!」

 いくつもの声が一斉(いっせい)に響(ひび)いた。

「……!」

 クロロたちが顔を上げる。

 そこには――。

 屋敷に残っていたメイドたちが、心配そうな表情を浮かべながら待っていた。

 クロロたちが地下へ向かってから。

 何が起きているのか。

 エメは無事なのか。

 誰かが怪我(けが)をしていないか。

 詳しいことも分からないまま、ずっと帰りを待っていたのだろう。

 そして――。

「奥様……!」

 一人のメイドが、真っ先に声を上げた。

 その視線の先。

 ビークルの腕の中には――エメがいた。

「…………」

 救出されたばかりのエメは、まだ少し疲れた様子ではあった。

 それでも。

 自分たちを待っていたメイドたちの顔を見た瞬間――。

「……みんな……」

 その表情が、ふっと和らいだ。

 いつもの屋敷。

 いつも自分のそばで働いてくれている者たち。

 その顔を一人ひとり目にしたことで。

 ようやく本当に――帰ってきたのだと実感したのだろう。

 エメは安心したように、小さく息を吐いた。

「……よかった」

 だが。

 安心したのは、エメだけではなかった。

「エメ様……!」

「ご無事だったんですね……!」

「本当に……本当に……!」

 メイドたちの目から、次々と涙が溢(あふ)れ始める。

 中には口元を両手で押さえながら、声を震わせている者もいた。

「…………」

 エメはそんな彼女たちを見つめる。

 そして――。

 優しく微笑んだ。

「ええ」

 少し弱った声ではあったが。

 それでも、その声は確かにいつものエメのものだった。

「心配をかけてしまったわね」

「奥様ぁ……!」

 その一言を聞いた途端(とたん)。

 一人のメイドが堪(こら)えきれなくなったように泣き出した。

 それにつられるように、他のメイドたちも次々と涙を零(こぼ)していく。

「ご無事で……本当によかったです……!」

「もう戻ってこられないんじゃないかって……!」

「ずっと……ずっと心配していたんです……!」

 エメは何も言わず。

 ただ――。

 泣きながら自分を迎えてくれるメイドたちを、穏やかな表情で見つめていた。

「…………」

 ビークルもまた。

 腕の中のエメをしっかりと支えながら、その光景を静かに見守っている。

 普段なら冷静で。

 執事(しつじ)としてほとんど表情を崩さない彼も。

 今だけは――。

 ほんの僅(わず)かに、安堵(あんど)したように目元を緩めていた。

 そして。

 その少し後ろでは――。

「…………」

 メメリが立ち尽くしていた。

 泣いているメイドたち。

 その中心で微笑んでいるエメ。

 無事に屋敷へ帰ってくることができた。

 その光景を見ているだけで。

 メメリの胸の奥に、また熱いものが込み上げてくる。

「エメ様……」

 小さく名前を呼ぶ。

 すると。

 エメがメメリへ顔を向けた。

「メメリ」

「……はい」

 目が合った瞬間。

 メメリの目にも、再び涙が浮かびそうになる。

 けれど今度は――。

 悲しい涙ではない。

 大切な人が。

 大切な家へ。

 ちゃんと帰ってこられた。

 そのことが。

 ただ――嬉しかった。

 そんな様子を少し離れたところから見ていたクロロは、ほっと息を吐いた。

「……よかったな」

「ええ」

 隣のクロエも、静かに頷(うなず)く。

 アルスも腕を組みながら、メイドたちに囲まれるエメを見つめていた。

「ったく……」

 そして。

 少しだけ笑う。

「ちゃんと連れて帰ってこれたな」

「ああ」

 クロロも笑った。

 地下へ向かう前。

 自分たちは決めた。

 必ずエメを助ける。

 そして――。

 みんなでこの屋敷へ帰ってくる。

 その約束を。

 ようやく果たすことができたのだった。

 ◇

 しばらくして。

 ビークルに抱えられたまま、涙を流すメイドたちに迎えられていたエメは――。

 ゆっくりとクロロたちへ顔を向けた。

「クロロさん。クロエさん。アルスさん。それから――メメリ」

「はい?」

 クロロたちがエメを見る。

「少し……わたくしの部屋へ来ていただけますか?」

「エメさんの部屋に?」

「ええ」

 エメは静かに頷(うなず)いた。

 その表情は穏やかだったが――。

 どこか、聞かなければならないことがある。

 そんな意思が感じられた。

「分かりました」

「私も構いません」

「あたしもいいぜ」

「メメリも行きます」

 四人の返事を聞くと、エメは小さく微笑んだ。

「ありがとうございます」

「では、エメ様」

 ビークルはそう告げると、エメを抱えたまま屋敷の奥へと歩き始める。

 クロロ。

 クロエ。

 アルス。

 そしてメメリも、その後へ続いた。

 ◇

 しばらくして――。

 一同はエメの部屋へと辿(たど)り着いた。

「失礼いたします」

 ビークルが扉(とびら)を開け、エメを抱えたまま中へ入る。

 クロロたちも続いて部屋へ足を踏み入れた。

 するとビークルは部屋の奥へ向かい――。

「エメ様。少々お待ちください」

「ええ」

 そこに置かれていた一台の車椅子(くるまいす)を持ってきた。

 普段使っているものとは別の――予備の車椅子(くるまいす)だった。

 ビークルはその車椅子(くるまいす)をエメのそばへ寄せる。

 そして。

「失礼いたします」

 エメの身体をゆっくりと下ろし、車椅子(くるまいす)へ座らせた。

「ありがとうございます、ビークル」

「いえ」

 エメは座り直すと、ようやく少し落ち着いたように息を吐いた。

 それからクロロたちへ視線を向ける。

「皆さんも、どうぞお座りください」

「はい」

 クロロたちは部屋に用意されていた椅子(いす)へ腰を下ろしていく。

 クロロ。

 その隣にクロエ。

 少し離れてアルス。

 そしてメメリ。

 ビークルだけはエメのそばへ立ったままだった。

 一同が落ち着いたところで。

 エメは静かに口を開いた。

「クロロさん」

「はい?」

「一つ……聞かせてもらってもいいですか?」

「もちろんです」

 エメは一度、膝の上で両手を重ねた。

 そして――。

「わたくしが攫(さら)われたあと……何があったのでしょうか?」

「…………」

 クロロたちの表情が変わる。

 エメ自身は。

 緑色の蔓(つる)に捕まり。

 意識を失い。

 そして次に目を覚ました時には――クロロたちに助けられていた。

 だから。

 その間に何が起きていたのか。

 何も知らない。

「……分かりました」

 クロロはゆっくり頷(うなず)いた。

 そして――。

 エメが攫(さら)われたあとに起きた出来事を、一つずつ話し始めた。

 アルスが蔓(つる)を追い。

 古井戸(ふるいど)へ辿(たど)り着いたこと。

 そこから地下へ続く場所を見つけ。

 ビークルの案内で、屋敷の地下にある巨大な貯水施設(ちょすいしせつ)へ向かったこと。

 そして――。

 そこで待っていた存在。

「……リーエ?」

 エメの目が僅(わず)かに見開かれる。

「はい」

 クロロは重く頷(うなず)いた。

「エメさんの屋敷で働いていた……メイドのリーエです」

「…………」

 エメの表情が固まった。

 リーエ。

 自分の屋敷で。

 他のメイドたちと同じように働いていた少女。

 その名が。

 なぜ今、この話の中に出てくるのか。

 クロロは続けた。

「リーエは……人間じゃありませんでした」

「……え?」

「地下にあったデットリーフ。そのデットリーフが――生み出した存在だったんです」

「…………!」

 エメが言葉を失う。

 アルスが補足するように口を開いた。

「突然変異(とつぜんへんい)したデットリーフだ。昔の奴とは比べ物にならねえくらい変化してやがった」

 負の感情を吸収し続け。

 自らの実すら取り込み。

 やがて力を蓄(たくわ)え――。

 命を生み出すほどにまで進化したデットリーフ。

 そして。

 そこから生まれたリーエ。

 エメは何も言わず、話を聞いていた。

 だが――。

 次に語られた内容は。

 エメにとって。

 あまりにも衝撃的(しょうげきてき)なものだった。

「それで……リーエが話したんです」

 クロロの声が少し重くなる。

「昔、エメさんと娘さんが誘拐(ゆうかい)された事件」

「…………」

 その瞬間。

 エメの指先が僅(わず)かに震えた。

 忘れられるはずがない。

 夫を失い。

 娘を失い。

 自分の足まで動かなくなった――。

 人生を大きく変えた、あの日。

「……あの事件が、どうしたのですか?」

 声が震える。

 クロロは一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 だが。

 ここで隠すわけにはいかなかった。

「……リーエが仕組んだものだったんです」

「…………え?」

 エメの表情から。

 完全に色が消えた。

「リーエが……?」

「はい」

 クロロは頷(うなず)いた。

「エメさんたちを狙わせたのも……あの誘拐(ゆうかい)事件を起こさせたのも……リーエだった」

「…………」

 部屋の中が静まり返る。

 メメリは苦しそうにエメを見る。

 クロエも。

 アルスも。

 ビークルも。

 誰一人、すぐに言葉を挟(はさ)むことができなかった。

 エメは俯(うつむ)く。

 ずっと。

 分からなかった。

 どうして。

 あの日。

 あんなことが起きたのか。

 どうして夫が死ななければならなかったのか。

 どうして娘が殺されなければならなかったのか。

 どうして自分だけが生き残ったのか。

 何度も。

 何度も。

 考えた。

 けれど――。

 答えなど見つからなかった。

 ただ不幸が重なっただけなのだと。

 そう思うしかなかった。

「……リーエが……」

 ぽつりと。

 エメの口から声が漏れる。

「全部……」

 エメの頬(ほお)を。

 一筋の涙が流れた。

「エメ様……」

 メメリが思わず声をかける。

 だが。

 エメは小さく首を横に振った。

「……大丈夫です」

 そう言ったものの。

 涙は止まらなかった。

 悲しくないはずがない。

 苦しくないはずがない。

 何年もの間。

 同じ屋敷に。

 真犯人がいた。

 その事実は。

 あまりにも残酷(ざんこく)だった。

 けれど――。

 しばらくして。

 エメの中に。

 悲しみとは違う感情が、少しずつ生まれ始めた。

「……そう」

 エメが小さく呟(つぶや)く。

「そう……だったのですね……」

 クロロが心配そうに顔を覗(のぞ)く。

「エメさん……」

 すると。

 エメは涙を流しながら――。

 ほんの僅(わず)かに。

 笑った。

「……少しだけ」

「え?」

「少しだけ……安心しました」

「安心……?」

 クロロたちは驚いたようにエメを見る。

 エメは自分の胸元へ手を添えた。

「わたくし……ずっと、分からなかったのです」

「あの日……なぜ、あんなことが起きてしまったのか」

 夫。

 娘。

 そして自分。

「何か……わたくしたちが悪いことをしたのかしら、と考えたこともありました」

「エメさん……」

「なぜ夫が死ななければならなかったのか。なぜ娘が殺されなければならなかったのか……」

 何年経っても。

 その疑問は消えなかった。

 答えがないからこそ。

 ずっと。

 心のどこかに引っかかり続けていた。

「でも……」

 エメは涙を拭(ぬぐ)う。

「今、ようやく分かりました」

「わたくしたちに原因があったわけではなかった」

 リーエが。

 デットリーフが。

 自分たちを利用するために起こしたことだった。

 決して救われる真実ではない。

 知ったからといって。

 夫も。

 娘も。

 帰ってくるわけではない。

 それでも――。

「そして……」

 エメはクロロたちを見る。

「その張本人(ちょうほんにん)は……もう、いないのですね?」

「ああ」

 アルスが答えた。

「デットリーフもリーエも、もう消えた」

 クロロも頷(うなず)く。

「俺たちで倒しました」

「…………」

 その言葉を聞いた瞬間。

 エメは目を閉じた。

 長い間。

 心に残っていたもの。

 何度考えても答えの出なかった疑問。

 どうして。

 どうして。

 どうして――。

 ずっと胸の中に残り続けていた、行き場のない思い。

 それが。

 今。

 少しずつ――。

 ほどけていくような気がした。

「……そうですか」

 エメは小さく笑った。

「終わったのですね……」

「やっと……」

 その声が震える。

「やっと……終わったのですね……」

 一粒。

 また一粒。

 涙が零(こぼ)れる。

 けれど。

 先ほどとは違う涙だった。

 悲しみだけではない。

 苦しみだけでもない。

 長い間、胸の中を覆(おお)っていた霧が――。

 ようやく晴れていくような。

 そんな涙。

「あなた……」

 エメが亡き夫を想う。

「そして……あの子も……」

 亡き娘を想う。

「これで……」

 涙が次々と頬(ほお)を伝う。

「やっと……安らかに眠れるのでしょうか……」

「…………」

 誰も。

 すぐには答えなかった。

 それでも。

 メメリがゆっくりとエメのそばへ歩み寄る。

「……エメ様」

 そして。

 車椅子(くるまいす)に座るエメの手を。

 そっと握った。

「きっと……」

 メメリは優しく微笑んだ。

「きっと、ご主人様も……娘様も……安心していると思います」

「…………っ」

 その瞬間。

 エメの中で――。

 何かが切れた。

「……あなた……」

 ぽろぽろ。

 涙が止まらない。

「ごめんなさい……」

 泣きながら。

 何度も。

 何度も。

「ごめんなさい……」

 誰に向けた謝罪(しゃざい)なのか。

 夫へか。

 娘へか。

 あるいは――。

 長い間。

 自分だけ生き残ったことを責め続けていた自分自身へなのか。

 分からない。

 ただ。

 エメは泣いた。

 何年もの間。

 胸の奥に溜(た)め続けてきたものを。

 全部。

 流してしまうように。

 メメリは。

 そんなエメの手を強く握ったまま。

 決して離さなかった。

 ビークルも。

 クロロも。

 クロエも。

 アルスも。

 何も言わず。

 ただ――。

 静かに見守っていた。

 夫と娘を失った日から。

 ずっとエメの心に残り続けていた、答えのない痛み。

 その全てが消えるわけではない。

 大切な人を失った悲しみは。

 これからも、きっと残り続ける。

 それでも――。

 あの日の真実を知り。

 全ての元凶(げんきょう)を倒したことで。

 長い間エメの心を覆(おお)っていたものは――。

 ようやく。

 少しだけ。

 晴れ始めていた。

 ◇

 しばらくして――。

 エメの涙は、ようやく少しずつ落ち着いていった。

 目元に残った涙をそっと拭(ぬぐ)い、エメはゆっくりと息を整える。

 メメリはまだ、その手を握ったままだった。

「……ありがとう、メメリ」

「いえ……」

 メメリは小さく首を横に振る。

 エメはもう一度深く息を吸うと――。

 今度は、クロロたちへ顔を向けた。

「クロロさん。クロエさん。アルスさん」

 三人がエメを見る。

 エメは真っ直ぐに彼らを見つめ――。

 そして。

 深く頭を下げた。

「本当に……ありがとうございました」

「……!」

 クロロが目を見開く。

「わたくしを助けてくださったこと。この屋敷を守ってくださったこと」

 そして――。

「夫と娘に起きたことの真実まで……見つけてくださったこと」

 その声は、まだほんの少し震えていた。

 けれど。

 先ほどまでのような悲しみに押し潰(つぶ)されそうな声ではない。

「皆さんがいなければ……わたくしは、今こうしてここに戻ることもできませんでした」

「本当に、ありがとうございます」

 もう一度。

 エメは深く頭を下げた。

 すると――。

「メメリからもです」

 その隣にいたメメリも、クロロたちへ身体を向けた。

「クロロ様。クロエ様。アルス様」

 メメリもまた、深く頭を下げる。

「エメ様を助けてくださって……本当にありがとうございました」

「いや、メメリだって一緒に戦っただろ」

 クロロがそう言うが。

 メメリは首を横に振った。

「それでもです」

 そして。

 胸の前で両手を重ねる。

「エメ様は……メメリにとって、とても大切な方です」

「そのエメ様を、こうして無事に連れて帰ることができたのは……皆さんのおかげです」

「本当に――ありがとうございました」

 そして――。

「私からも、御礼(おれい)申し上げます」

 今度は。

 エメのそばに立っていたビークルが、一歩前へ出た。

「ビークルさんまで……」

 クロロが少し驚く。

 ビークルはいつもの落ち着いた表情のまま。

 それでも。

 いつも以上に丁寧(ていねい)に頭を下げた。

「エメ様を救っていただいたこと。そして、このウィルハード家を守っていただいたこと」

「この屋敷に仕える執事(しつじ)として――心より感謝いたします」

 三人から次々と向けられる感謝。

 クロロは。

 なんとも居心地が悪そうに頬(ほお)を掻(か)いた。

「いや、その……」

 視線が泳ぐ。

「そんな改まって言われると……ちょっと恥ずかしいっていうか……」

「兄さん、こういうの慣れてないものね」

 隣でクロエが言う。

「う、うるさいな」

「別に悪いことじゃないでしょ」

「そうだけどさ……」

 クロロは少し頬(ほお)を赤くしながら。

 改めてエメ。

 メメリ。

 ビークルを見る。

 そして――。

「……でも」

 小さく笑った。

「どういたしまして」

 照れくさそうではあったが。

 ちゃんと、その感謝を受け取った。

 一方。

 クロエは胸元へ軽く手を添える。

「お気になさらないでください」

 騎士長(きしちょう)として。

 こうして誰かから感謝されることには、ある程度慣れているのだろう。

「困っている人を助けるのは、騎士(きし)として当然のことですから」

「おお……」

 クロロが感心したように妹を見る。

「クロエ、こういう時はちゃんとしてるな」

「どういう意味よ、兄さん?」

「いや、褒(ほ)めてるんだけど……」

「余計な一言があるのよ」

 その横では。

 アルスも気楽そうに片手を上げた。

「ま、気にすんなって」

「やることやっただけだ」

「全員無事だったんだから、それでいいだろ」

「……はい」

 エメはそんな三人を見つめると。

 穏やかに笑った。

「本当に……皆さんに出会えてよかったです」

 部屋の中に。

 ようやく。

 穏やかな空気が流れ始めた。

 だが――。

「…………」

 エメはふと。

 何かを思い出したように目を瞬いた(またたいた)。

 そして。

 次の瞬間。

 すっ――。

 その表情が変わった。

 先ほどまで涙を流していた人とは思えないほど。

 顔をしゃきっとさせる。

「ビークル」

「はい、エメ様」

「一つ、大切なことを忘れていました」

「大切なこと……でございますか?」

「ええ」

 エメは真剣な顔で告げた。

「――屋敷を直さなくてはなりません」

「…………」

 クロロたちが一斉(いっせい)に黙る。

「……あ」

 クロロが声を漏らした。

 言われてみれば。

 そうだった。

 デットリーフの襲(おそ)撃によって。

 浴場(よくじょう)。

 裏庭。

 そして屋敷の各所。

 かなりの被害が出ている。

 さらに。

 エメを攫(さら)うために蔓(つる)が暴れたことで。

 壁や床。

 家具なども、あちこち傷ついていた。

「そういや……結構壊れてたな」

 アルスが思い出したように呟(つぶや)く。

「結構どころじゃないでしょ」

 クロエが呆(あき)れたように返す。

「あなたも相当撃ってたじゃない」

「仕方ねえだろ! あの状況で撃たずにどうすんだよ!」

「誰も撃つなとは言ってないわよ」

「だったら言うな!」

「でも……」

 メメリも申し訳なさそうな顔になる。

「お屋敷の中、かなり大変なことになっていますよね……」

「ええ」

 エメは深く頷(うなず)く。

 そしてビークルへ視線を向けた。

「被害の確認をお願いします」

「承知いたしました」

「修理が必要な場所を全て確認して、必要な人手や材料もまとめてください」

「かしこまりました」

 完全に。

 ウィルハード家の主人としての顔に戻っていた。

 その切り替えの早さに。

 クロロは思わず苦笑(くしょう)する。

「エメさん、もう仕事のこと考えてる……」

「当然です」

 エメはきっぱり答えた。

「ここは、わたくしたちの大切な家ですから」

 その言葉に。

 メメリが嬉しそうに微笑んだ。

 大切な家。

 それはエメだけではない。

 メメリにとっても――。

 同じだった。

 すると。

「じゃあ俺たちも手伝います」

 クロロが言った。

「え?」

 エメが目を瞬く。

「屋敷の修理」

 クロロは笑う。

「俺たちも手伝いますよ」

「ですが、皆さんにはすでに十分助けていただきましたし……」

「だからって、この状態の屋敷をそのままにして出ていくのも気になるんで」

「兄さんの言う通りです」

 クロエも頷(うなず)く。

「人手は多い方がいいでしょう?」

「まあ、あたしも手伝ってやるよ」

 アルスも立ち上がる。

「戦って終わりってのも後味悪いしな」

「もちろん、メメリも全力で働きます!」

 メメリも勢いよく手を上げた。

「いや、お前は元々ここのメイドだろ」

 アルスがすぐに突っ込む。

「そうでした!」

「忘れんなよ!」

「ふふっ」

 エメが思わず笑う。

 そして。

 クロロたちを一人ずつ見回した。

「では……お願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろん!」

 クロロが答える。

 クロエも。

 アルスも。

 メメリも。

 それぞれ頷(うなず)いた。

 ◇

 それから――。

 ウィルハード邸(てい)では。

 戦いとはまた別の。

 大忙しの時間が始まった。

「クロロ様! そちらの荷物をお願いいたします!」

「了解!」

 クロロは壊れた家具や瓦礫(がれき)を運び。

「兄さん、それ一人で持つつもり?」

「これくらい大丈夫だって」

「無理して腰を痛めたらどうするの!」

「じゃあ一緒に持ってくれよ!」

「最初からそう言いなさい!」

 クロエはクロロと一緒に重い物を運びながら。

 時には壊れた木材を片づけ。

 時には高い場所の作業を手伝った。

「おい! これどこ持ってきゃいいんだ!」

 アルスは大きな板を肩に担ぎ。

「アルス様! そちらは中庭です!」

「中庭な! 分かった!」

 戦いでは銃を扱う十二星具(じゅうにせいぐ)も。

 今は完全に人手の一人だった。

「よいしょ、よいしょ……!」

 メメリもメイドたちと一緒に。

 壊れた場所の掃除。

 家具の移動。

 片づけ。

 できることを次々とこなしていく。

「メメリさん、こちらもお願いします!」

「はいっ! ただいま!」

 その声は。

 いつものように元気いっぱいだった。

 ビークルは屋敷の各所を確認し。

 被害をまとめ。

 他の使用人たちへ的確(てきかく)に指示を出していく。

 エメもまた。

 車椅子(くるまいす)に座ったまま。

 自分にできる範囲(はんい)で修理の手配や指示を続けていた。

「その部屋の家具は一度すべて外へ出しましょう」

「はい、奥様!」

「浴場(よくじょう)については床も確認してください。あの穴も、そのままにはできませんから」

「承知いたしました!」

 次々と指示が飛ぶ。

 戦いが終わったばかりだというのに。

 ウィルハード邸(てい)は――。

 あっという間に活気を取り戻していった。

「うおおおおっ!」

 クロロが荷物を持ち上げ。

「兄さん! そっちじゃない!」

「えっ!? こっちじゃないの!?」

「反対!」

「先に言ってくれよ!」

「言ったわよ!」

「聞こえてなかった!」

「ちゃんと聞きなさい!」

「アハハハ! 相変わらずだな、お前ら!」

「アルス、笑ってないで手伝え!」

「あたしも今働いてんだろ!」

「アルス様、その板はそちらではありません!」

「え!? あたしも間違ってんの!?」

「ふふっ……!」

 メイドたちの間から。

 久しぶりに笑い声が漏れた。

 ◇

 ある程度は修復(しゅうふく)できたものの。

 さすがに一日ですべてを終えることはできなかった。

 そのこともあり。

 エメの好意によって、クロロたちはあと二日ほどウィルハード邸(てい)へ滞在(たいざい)することになった。

「本当にいいんですか?」

 クロロが尋(たず)ねると、エメは穏やかに微笑んだ。

「もちろんです」

「でも、もう事件も終わったし……」

「だからこそです」

 エメはそう言ってクロロたちを見る。

「皆さんには、あまりにもたくさん助けていただきました。せめてあと二日くらいは、何も気にせずゆっくりしてください」

「それに――」

 エメの視線がメメリへ向く。

「メメリも、きっと喜びますから」

「エメ様……」

 メメリが少し照れたように笑う。

 そうして。

 クロロたちはエメの言葉に甘え、もうしばらく屋敷へ滞在(たいざい)することになった。

 もちろん。

 修理が必要なら手伝うつもりではある。

 だが――。

 今日はさすがに、全員疲れきっていた。

 戦い。

 救出。

 屋敷の片づけ。

 朝からほとんど休む暇もなく動き続けていたのだ。

 だから。

 その日の残りは――。

 皆、それぞれゆっくりと身体を休めることになった。

 ◇

 そして――夜。

 夕食までは、まだ少し時間があった。

 部屋でじっとしているのも落ち着かなかったクロロは、一人で屋敷の中を散歩していた。

 戦いが終わった後のウィルハード邸(てい)。

 まだところどころに傷跡は残っている。

 それでも。

 メイドたちの声。

 廊下(ろうか)を行き交う足音。

 厨房(ちゅうぼう)から漂(ただよ)ってくる料理の香り。

 そんなものを感じていると――。

 ようやく本当に。

 いつもの屋敷へ戻ろうとしているのだと分かった。

「……平和だな」

 クロロが小さく呟(つぶや)く。

 そのまま歩いていると。

 中庭へ続く扉(とびら)が目に入った。

 クロロは何となく、そちらへ足を向ける。

 扉(とびら)を開けると――。

 夜の涼しい風が頬(ほお)を撫(な)でた。

 月明かりに照らされた中庭。

 そして。

 そこに置かれているベンチへ――。

 一人の少女が座っていた。

「メメリ?」

「……?」

 名前を呼ばれ。

 少女が振り返る。

「クロロ様」

 メメリだった。

「何してるんだ?」

 クロロはベンチへ近づきながら尋(たず)ねる。

「こんなところで一人で」

「ああ……」

 メメリは柔らかく笑った。

「今日はエメ様から、もうお仕事はしなくていいと言われたんです」

「そうなのか?」

「はい」

 メメリは少し困ったように笑う。

「今日はよく働いたから、もう十分だと……」

「まあ、そりゃそうだろ」

 クロロも苦笑(くしょう)する。

 今日のメメリは。

 戦いが終わってからも、ほとんど休むことなく動き続けていた。

「メメリ、働きすぎだからな」

「そうでしょうか?」

「そうだよ」

「でも、メメリはこのお屋敷のメイドですから」

「だからって限度があるだろ」

「ふふっ」

 メメリが小さく笑う。

「それで、いつも通り中庭でゆっくりしていたんです」

「いつもここに来るのか?」

「はい」

 メメリは庭を眺(なが)める。

「お仕事が一段落した時や、少し考え事をしたい時は……よくここに来るんです」

「そうなんだ」

 クロロも中庭へ視線を向ける。

 以前。

 ここで二人で話したことを思い出す。

 メメリが。

 エメへの恩返しについて悩み。

 自分が本当に役に立てているのかと不安を口にした夜。

 そして。

 その時――。

 メメリは何かを言おうとしていた。

『実は――』

 だが。

 その直後。

 浴場(よくじょう)からクロエの悲鳴が響(ひび)き。

 話は途切れてしまった。

 クロロは少し考えてから。

 ベンチを指差した。

「なあ」

「はい?」

「隣、座っていい?」

「もちろんです」

 メメリは少し横へずれる。

「どうぞ、クロロ様」

「ありがと」

 クロロはメメリの隣へ腰を下ろした。

 二人並んで。

 静かな夜の中庭を眺(なが)める。

 風が吹く。

 花壇(かだん)の花々が、小さく揺れた。

 しばらく――。

 何も言わない時間が続いた。

 けれど。

 不思議と気まずくはなかった。

 やがて――。

「……クロロ様」

 メメリが静かに口を開いた。

「ん?」

「改めて……ありがとうございました」

「え?」

「エメ様を助けてくださったことです」

 クロロは困ったように笑った。

「さっきも言われたよ」

「それでもです」

 メメリはクロロへ顔を向ける。

「メメリから、ちゃんともう一度お礼を言いたかったんです」

「……そっか」

「はい」

「エメ様が無事に帰ってきてくださって……本当に嬉しいです」

「クロロ様がいなければ……きっと、助けることはできませんでした」

「いや」

 クロロは首を横に振った。

「俺だけじゃ無理だったよ」

「エメさんを助けられたのは――メメリがいたからだ」

「メメリが……?」

「ああ」

 クロロは当然のように答える。

「あの球体(きゅうたい)を壊せたのはメメリの力だし」

「それにメメリがいなかったら、俺だって途中でどうなってたか分からない」

「だから――」

 クロロは笑う。

「俺だけに感謝するのは違うよ」

 メメリは少しだけ目を丸くする。

 そして――。

「ふふっ」

 静かに笑った。

「なんだよ?」

「いえ」

 メメリは楽しそうに首を振る。

「それでも、いいのです」

「?」

「クロロ様がどう思っていても……メメリがお礼を言いたいと思ったので、言ったんです」

「……そういうもの?」

「そういうものです」

「そっか」

 クロロはよく分からないまま頷(うなず)いた。

 その時――。

「あ」

 クロロが何かを思い出した。

「そういえば」

「はい?」

「前にもここで話したよな」

「前にも……?」

「ほら。デットリーフが最初に出てきた日の夜」

 メメリも思い出したらしい。

「ここでメメリと話しててさ」

 クロロは続ける。

「あの時――メメリ、『実は』って何か言いかけてただろ?」

 メメリの目が僅(わず)かに見開かれた。

「結局、クロエの悲鳴で聞けなかったけど」

 クロロは首を傾げる。

「あれ、何を言おうとしてたんだ?」

 メメリは少し黙る。

 けれど――。

 今はもう。

 隠す必要などない。

「……本当のことです」

「本当のこと?」

「はい」

 メメリは自分の膝へ視線を落とした。

「メメリが――何者なのか」

「記憶を失ったという話が嘘だったことも」

「自分が十二星具(じゅうにせいぐ)の一人、メメリ・エアリーズだということも」

 メメリは静かに答えた。

「あの時……全部、クロロ様にお話ししようとしていました」

「……そうだったんだ」

 クロロは少し驚いたように言う。

「でも」

 ふと。

 疑問が浮かんだ。

「なんで俺に?」

「え?」

「だって、そのことはエメさんたちにもずっと隠してたんだろ?」

「……はい」

「アルスにも、その時はまだちゃんと話してなかった」

「はい」

「なのに――」

 クロロは自分を指差す。

「なんで俺には話そうと思ったんだ?」

 メメリは少しだけ考え込んだ。

 だが。

 答えはすぐに出た。

「……なんとなく、です」

「なんとなく?」

「はい」

 クロロが何とも言えない顔をする。

「そんな大事なことを?」

「ふふっ」

 メメリは笑った。

「もちろん、それだけではありません」

 そして。

 少しだけ。

 クロロへ身体を向ける。

「クロロ様は……あの時、メメリの話を聞いてくださいました」

 エメへ恩返しをしたい。

 けれど。

 娘に似ているという理由だけで、自分がここにいていいのか分からない。

 自分にできることが。

 メイドとして働くことくらいしかない。

 そんな。

 メメリの心の中にあった不安。

 クロロは。

 笑ったり。

 否定したりせず。

 ちゃんと最後まで聞いてくれた。

「メメリが何を不安に思っているのか……ちゃんと聞いてくださいました」

「それに」

 メメリは中庭に広がる花々を見る。

「あの時、クロロ様はメメリに言ってくれました」

 見ているだけで。

 周りのみんなを元気にしてくれる――。

 綺麗(きれい)な花畑みたいだ、と。

「あの言葉を聞いた時」

 メメリは自分の胸元へ手を添えた。

「なんだか……クロロ様になら、本当のことを話してもいいような気がしたんです」

「メメリのことを知っても、きっとちゃんと話を聞いてくださる気がしました」

 メメリは柔らかく笑う。

「だから――話そうと思いました」

 クロロは少し困ったように頬(ほお)を掻(か)いた。

「俺って……そんな奴かな」

「はい」

「即答だな」

「メメリはそう思っています」

「うーん……」

 いまいち自覚がないらしい。

 クロロは腕を組んで考える。

「普通に話聞いただけなんだけどな……」

「それでいいんです」

「え?」

 メメリは笑った。

「クロロ様が分からなくても――メメリが分かっていますから」

「……そっか」

 クロロはまだ少しピンと来ていない様子だった。

 その姿を見て。

 メメリはまた、小さく笑う。

 だが――。

 次第に。

 メメリの笑顔が。

 ほんの少しだけ、ぎこちなくなった。

「?」

 クロロは気づく。

 メメリが。

 膝の上で。

 指先同士を何度も触れ合わせている。

 もじもじ。

 もじもじ――。

「メメリ?」

「……は、はい」

「どうした?」

 メメリはクロロをちらりと見る。

 そして。

 すぐに顔を逸(そ)らす。

「……その」

「うん」

「メメリも……一つ」

「クロロ様に、お聞きしたいことがあるのですが……」

「いいけど」

 クロロはあっさり答える。

「何?」

 だが。

 メメリはなかなか言わない。

「メメリ?」

「い、今言います」

「お、おう」

 メメリは胸元で手を握り――。

 何度か深呼吸する。

 そして。

 ようやく。

「……戦っていた時のことなのですが」

「戦ってた時?」

「はい」

「リーエさんと戦っていた時です」

 クロロは記憶を辿(たど)る。

 色々ありすぎて。

 どの言葉のことなのか、すぐには分からない。

 メメリはそんなクロロの様子を見ながら。

 さらに顔を赤くした。

「その……クロロ様が……」

「俺が?」

「メメリのことを……」

 声がどんどん小さくなる。

「……花畑みたいな存在だと……」

「…………あ」

 クロロが思い出した。

 リーエが。

 メメリを責めた時。

 この屋敷に来なければよかったのだと。

 メメリの存在そのものを否定するような言葉を投げつけた時――。

 クロロは言った。

『メメリは、誰にでも元気を与えられる――花畑みたいな存在なんだ』

「……あれか」

「…………はい」

 メメリは。

 もうクロロを見ていなかった。

 頬(ほお)が――。

 真っ赤だった。

 耳まで赤い。

「クロロ様」

「うん?」

「……あの時言ってくださったことは」

 少し間を置き。

「本当……ですか?」

「え?」

 クロロは不思議そうに瞬き(まばたき)をする。

 そして――。

 当たり前のように答えた。

「本当だけど?」

「…………!」

 メメリの肩がびくっと跳ねる。

「俺、本当のこと言っただけだし」

「あの時も言ったけど、メメリがいると周りが明るくなるだろ?」

「エメさんだってそうだったし。屋敷のメイドたちだって、メメリがいると楽しそうだし」

 クロロは何も気にせず続ける。

「だから俺は、本当にそう思ってるよ」

「…………っ」

 メメリの顔が。

 さらに赤くなる。

「メメリ?」

「…………」

「どうした?」

「な、何でもありません!」

 ぷいっ!

 勢いよく。

 メメリがクロロから顔を背けた。

「え?」

「こちらを見ないでください!」

「なんで!?」

「今は駄目です!」

「どうしたんだよ急に!」

「何でもないです!」

「何でもない顔じゃないだろ!」

「何でもないんです!」

 メメリは両手で頬(ほお)を押さえる。

 そんなメメリの隣で。

「……?」

 クロロだけは。

 なぜメメリがここまで真っ赤になっているのか。

 まるで分かっていなかった。

 ◇

 翌日――。

 クロロたちは朝から、昨日に引き続いてウィルハード邸(てい)の修理に励んでいた。

「クロロ! そっち持ってくれ!」

「分かった!」

「兄さん、無理に一人で持ち上げないでよ!」

「今アルスと二人で持ってるだろ!」

「クロエ! そっちの板どかしてくれ!」

「言われなくてもやってるわよ!」

 屋敷の中では、朝から賑(にぎ)やかな声が響(ひび)いている。

 壊れた家具を運び。

 傷ついた壁を片づけ。

 メイドたちと協力しながら、少しずつ屋敷を元の姿へ戻していく。

 昨日だけでは終わらなかった修復(しゅうふく)作業も――。

 皆で力を合わせたことで、着実に進んでいた。

 ◇

 そんな中。

 屋敷から少し離れた場所――。

 緩やかな坂を上った先にある、開けた丘。

 そこには。

 一人の女性の姿があった。

「…………」

 エメだった。

 車椅子(くるまいす)に座る彼女の前には――。

 小さな墓が、二つ並んでいた。

 静かな丘の上。

 辺りには建物もなく。

 広い空と、遠くに見えるウィルハード邸(てい)。

 そして。

 草花を揺らす、穏やかな風だけが流れている。

 エメは膝の上に置いていた花束へ手を伸ばした。

 色とりどりの小さな花。

 それを一つずつ手に取り――。

 二つの墓へ、そっと供えていく。

 一つ目へ。

 そして。

 隣の、もう一つへ。

 しばらく。

 エメは何も言わなかった。

 ただ。

 目の前に並ぶ二つの墓を、優しい表情で見つめていた。

 ここに眠っているのは――。

 あの日。

 自分を助けるために命を落とした夫。

 そして。

 自分と共に攫(さら)われ。

 帰ってくることのできなかった――娘。

 昨日。

 長い間分からなかった真実を知った。

 なぜ。

 あんな事件が起きたのか。

 なぜ夫と娘が命を奪われなければならなかったのか。

 そのすべての始まりにいた存在。

 リーエ。

 そしてデットリーフ。

 もう――。

 いない。

 長い間、胸の奥に残り続けていた答えのない疑問は。

 ようやく終わった。

「…………あなた」

 エメが小さく口を開く。

 そして。

 隣の墓へ目を向ける。

「……あなたも」

 風が吹く。

 エメの髪が、ふわりと揺れた。

「もう……大丈夫だから」

 その顔には。

 悲しみがなくなったわけではない。

 きっと。

 これから先も。

 夫と娘を思い出すたびに、寂(さび)しさは胸に残り続ける。

 それでも――。

 今のエメの表情には。

 以前にはなかった穏やかさがあった。

「だから……」

 エメは。

 ほんの少し。

 微笑んだ。

「どうか、ゆっくりお休みになってね」

 優しい声が。

 静かな丘へ溶けていった。

 その時――。

「エメ様」

 後ろから。

 聞き慣れた声がした。

「……?」

 エメが振り返る。

 丘を上ってくる、一人の少女。

「メメリ」

「はい」

 メメリは少し息を切らしながら、エメのもとへ歩いてきた。

「ここにいらしたんですね」

「ええ」

 エメは穏やかに答える。

「少し、この二人に会いに来ていたの」

 メメリは二つの墓へ目を向けた。

 すぐに。

 そこに誰が眠っているのかを察した。

 メメリは何も言わず。

 墓へ向かって静かに頭を下げた。

 それから。

 エメの隣へ立つ。

「どうしてここが分かったの?」

 エメが尋(たず)ねる。

「お屋敷にエメ様のお姿が見えなかったので……ビークルさんに聞きました」

「ビークルが?」

「はい。こちらにいらっしゃると教えていただきました」

「そう」

 エメは小さく笑う。

 そして。

 メメリの顔を見上げた。

「それで?」

「……?」

「わざわざここまで来たということは、わたくしに何か用があるのでしょう?」

 その言葉に。

 メメリの表情が僅(わず)かに強張(こわば)った。

 メメリは胸の前で両手を握る。

 そして。

 一度。

 深く息を吸った。

「エメ様」

「ええ」

「メメリ……お話ししたいことがあります」

「聞いているわ」

 メメリは少しだけ俯(うつむ)いた。

 けれど。

 すぐに顔を上げる。

 その瞳(ひとみ)には――。

 迷いながらも。

 確かな決意が宿っていた。

「メメリは……」

 そして。

 はっきりと告げた。

「明日旅立つクロロ様たちに――一緒についていきたいです」

「…………」

 風が。

 二人の間を通り抜けた。

 エメは何も言わなかった。

 ただ。

 メメリの言葉を、黙って聞いている。

 メメリは続けた。

「クロロ様は、残る十二星具(じゅうにせいぐ)を探すために旅を続けます」

「ええ」

「そして……いつか悪星王(あくせいおう)と戦うために」

 十二星具(じゅうにせいぐ)として。

 メメリにも。

 果たさなければならない役目がある。

「メメリは……クロロ様についていきたいと思っています」

 そして――。

 少しだけ。

 声が弱くなる。

「でも……」

「まだ……少し迷っています」

「どうして?」

 メメリはエメを見る。

「メメリは……まだエメ様に、恩返しをし終えていません」

「倒れていたメメリを助けてくださって」

 帰る場所をくれた。

 食事をくれた。

 仕事をくれた。

 そして――。

 家族のように接してくれた。

「それなのに……メメリは、まだ何も返せていないような気がするんです」

「それに……」

 一度。

 言葉を詰まらせる。

「昨日みたいなことが……またエメ様に起きるんじゃないかって考えると……」

「メメリがいなくなって、本当に大丈夫なのかなって……」

 不安だった。

 旅へ出たい。

 クロロたちと一緒に。

 十二星具(じゅうにせいぐ)として。

 自分が待っていたのだと信じる主人と共に。

 けれど。

 この場所を離れることへの不安が。

 どうしても消えない。

「エメ様を置いて……旅に出てもいいのかって」

 メメリは俯(うつむ)く。

「メメリ……分からなくて……」

 しばらく。

 エメは何も言わなかった。

 ただ。

 目の前の少女を見つめていた。

 そして――。

 ふっと。

 笑った。

「メメリ」

「……はい?」

「あなた、まだそんなことを考えていたの?」

「え?」

 メメリが目を瞬かせ(またたかせ)る。

 エメは困ったように。

 けれど。

 とても優しく笑う。

「恩返しなんて――」

 そして。

 はっきりと言った。

「とっくの昔に終わっているわよ」

「…………え?」

 メメリの目が大きく開かれた。

「お、終わって……?」

「ええ」

 エメは迷わず頷(うなず)く。

「いつ……ですか?」

 思わず。

 メメリが聞き返す。

 エメは二つの墓へ一度だけ視線を向けた。

 そして。

 ゆっくりと話し始めた。

「あなたがこのお屋敷へ来てから――」

「わたくしは、とても楽しい日々を過ごさせてもらったわ」

 メメリが来る前。

 夫を失い。

 娘を失い。

 足も動かなくなった。

 屋敷にはビークルも。

 多くのメイドたちもいた。

 決して。

 一人ではなかった。

 それでも。

 心の中には。

 ずっと。

 大きな穴が空いたままだった。

「でも――」

 エメはメメリを見る。

「あなたが来てくれた」

 屋敷の前で。

 一枚の布を身体に巻き。

 倒れていた少女。

 身体を綺麗(きれい)にして。

 服を着せ。

 その顔を見た時。

 エメは。

 亡くした娘の姿を重ねてしまった。

 最初は――。

 それだけだったのかもしれない。

 けれど。

 一緒に暮らすようになり。

 メイドとして働き始め。

 毎日。

 同じ時間を過ごすうちに――。

「あなたは、あなたになった」

「……?」

「娘に似ている誰かではなくて」

 エメは微笑む。

「メメリという、一人の大切な女の子になったの」

「…………!」

 メメリの瞳(ひとみ)が揺れる。

「あなたが朝から元気に働いて」

「失敗した時には落ち込んで」

「褒(ほ)めると嬉しそうに笑って」

「時々頑張りすぎて、ビークルに注意されて」

「そ、それは……」

 メメリが少しだけ頬(ほお)を赤くする。

 エメは楽しそうに笑った。

「あなたが来てから、このお屋敷で過ごす毎日は――以前よりずっと楽しくなったわ」

「エメ様……」

「まるで……」

 エメの声が。

 少しだけ柔らかくなる。

「もう一人、娘ができたみたいに」

「…………!」

 メメリが息を呑(の)んだ。

「わたくしは、あなたに救ってもらったのよ」

「メメリが……?」

「ええ」

 エメは胸へ手を添える。

「あなたがここに来てくれたから」

 止まっていた時間が。

 少しずつ。

 また動き始めた。

 笑えるようになった。

 楽しいと思える日が増えた。

 明日を迎えることが。

 ほんの少し。

 楽しみになった。

「だから」

 エメは微笑む。

「あなたの恩返しなんて――あなたがこの家で笑って過ごしてくれていた時に、とっくに終わっているの」

 メメリは何も言えない。

「でも……」

 ようやく声が出る。

「それでも……」

 まだ足りない。

 そう言おうとした。

 だが――。

「それでも足りないと言うのなら」

 エメが先に言った。

「……え?」

「クロロさんたちについていきなさい」

「…………!」

「そして――」

 穏やかに。

 それでも。

 力強く。

「世界を救ってきなさい」

 メメリは。

 呆然(ぼうぜん)とエメを見つめた。

「エメ様……」

「それが」

 エメは小さく笑う。

「まだ恩返しが足りないと言うあなたに、わたくしからお願いする――次の恩返しかしら」

「十二星具(じゅうにせいぐ)として」

「クロロさんたちと一緒に、やるべきことをしてきなさい」

 メメリの目に。

 少しずつ。

 涙が浮かび始める。

「……本当に」

 声が震える。

「本当に……いいんですか?」

「ええ」

 エメは迷わなかった。

「もちろん――」

 少しだけ。

 寂(さび)しそうに笑う。

「不安ではあるわ」

「昨日みたいなことが、また起こらないとは限らない」

「それに」

 エメはメメリを見る。

「あなたが危険な旅へ出るのだって、心配よ」

「でも――」

 その表情が。

 柔らかくなる。

「クロロさんたちなら」

「あなたを任せても、大丈夫だと思っているわ」

「だから」

 エメは続ける。

「行ってきなさい」

「あなたには、やらなくちゃいけないことがあるのでしょう?」

「……はい」

「だったら」

 エメは背後を振り返る。

 丘の向こう。

 少し離れた場所に――。

 ウィルハード邸(てい)が見える。

「ここは」

 そして。

 再びメメリを見る。

「今のあなたの――帰ってくる場所なのだから」

「…………!」

 メメリの瞳(ひとみ)から。

 一粒の涙が零(こぼ)れた。

「旅に出たっていい」

「遠くへ行ったっていい」

「何年かかったっていいわ」

 エメは笑う。

「帰ってきたくなったら――いつでも帰ってきなさい」

 メメリは。

 両手を胸の前で強く握った。

「エメ様……」

 声が震える。

 それでも。

 今度は。

 ちゃんと笑っていた。

「ありがとうございます」

 そして。

 深く。

 頭を下げた。

「メメリが、クロロ様たちと旅に出ることを……許してくださって」

「本当に――ありがとうございます」

 エメはそんなメメリを見つめる。

 そして。

 静かに首を横に振った。

「違うわ」

「え……?」

「お礼を言うのは、わたくしの方よ」

「メメリ」

 エメは優しく微笑んだ。

「わたくしのところへ来てくれて――ありがとう」

「…………っ」

 もう一粒。

 メメリの頬(ほお)を。

 涙が流れる。

「……はい」

 小さく。

 それでも。

 嬉しそうに。

 メメリは答えた。

 しばらく。

 二人の間には。

 穏やかな沈黙(ちんもく)が流れた。

 風が吹き。

 墓へ供えられた花が。

 静かに揺れる。

 その時――。

「あ」

 エメが。

 何かを思い出したように声を漏らした。

「……?」

「そういえば」

 エメの口元に。

 少しだけ。

 楽しそうな笑みが浮かんだ。

「一つ忘れていたわ」

「何でしょう?」

「メメリ」

「はい」

「あなたが今まで、わたくしたちに嘘をついていたこと」

「…………!」

 メメリの身体が。

 ぴしっ。

 と固まった。

「記憶を失っていないのに、何も覚えていないと言っていたこと」

「自分が十二星具(じゅうにせいぐ)であることまで、ずっと隠していたこと」

 メメリの顔が。

 見る見るうちに緊張していく。

「エ、エメ様……?」

「まだ――許したわけではありませんよ?」

「…………!」

 メメリの顔から。

 完全に余裕が消えた。

「ですから」

 少しだけ。

 間を置く。

「メメリには――罰を与えます」

「…………!」

 メメリが。

 ごくり。

 と喉(のど)を鳴らした。

「ば、罰……ですか……」

「ええ」

 エメは笑顔のまま。

 メメリは俯(うつむ)く。

 自分は。

 何年もの間。

 エメにも。

 ビークルにも。

 他のメイドたちにも。

 嘘をつき続けていた。

 理由があったとはいえ。

 嘘をついた事実は変わらない。

 なら。

 どんな罰でも。

 受けなければならない。

 メメリは。

 ぎゅっと。

 拳(こぶし)を握る。

 そして――。

 覚悟を決めたように顔を上げた。

「分かりました」

「メメリ……どんな罰でも受けます」

 その表情は。

 真剣そのものだった。

「では」

 エメが。

 静かに口を開いた。

「これからは」

「……はい」

 メメリは身構える。

 そして。

 エメは――。

 今までメメリが見たこともないほど。

 幸せそうに。

 柔らかく。

 微笑んだ。

「わたくしのことを――『お母さん』と呼んでください」

「…………」

 メメリの思考が。

 止まった。

「…………え?」

「聞こえなかった?」

 エメは楽しそうに笑う。

「今後は、わたくしのことを『お母さん』と呼ぶこと」

「そ、それが……」

「ええ」

「罰……ですか?」

「そうよ」

 エメは当然のように答えた。

「とても厳しい罰でしょう?」

 メメリは。

 完全に言葉を失っていた。

 そして。

 エメの嬉しそうな顔を見つめる。

 これは。

 罰なんかじゃない。

 エメから自分へ贈られた――。

 新しい関係。

 新しい居場所。

 そして。

 家族としての言葉。

 メメリの目に。

 また。

 涙が浮かんだ。

 けれど。

 今度は。

 その涙を拭(ぬぐ)わなかった。

「エメ様……」

 そこで。

 言葉を止める。

 もう。

 その呼び方ではない。

 メメリは。

 大きく息を吸う。

 そして。

 今までにないほど嬉しそうな笑顔で――。

「はい! お母様!」

 答えた。

 エメの瞳(ひとみ)が。

 一瞬だけ。

 大きく開かれる。

 そして――。

「……ふふっ」

 心の底から。

 嬉しそうに笑った。

「ええ」

「それでいいわ」

 風が。

 二人の髪を優しく揺らす。

 丘の上。

 並んだ二つの墓。

 その前で――。

 新しい家族の形が。

 静かに。

 生まれたのだった。

 ◇

 そして――翌日。

 朝。

 ウィルハード邸(てい)の前には、旅支度(たびじたく)を整えた三人の姿があった。

 クロロ。

 クロエ。

 アルス。

 数日前。

 森の中で道に迷い。

 偶然メメリと出会ったことをきっかけに訪れた、この屋敷。

 ほんの数日滞在(たいざい)するだけのはずだった。

 だが――。

 デットリーフの襲(おそ)撃。

 メメリの秘密。

 エメの誘拐(ゆうかい)。

 地下に潜(ひそ)んでいた巨大なデットリーフ。

 そして、リーエとの戦い。

 あまりにも多くの出来事が起こった。

 それでも。

 今では屋敷の傷もある程度まで修復(しゅうふく)され。

 穏やかな朝を迎えている。

 そして今日。

 クロロたちは――再び十二星具(じゅうにせいぐ)を探す旅へ出発する。

 クロロは背負った荷物を軽く持ち直した。

 その前には。

 車椅子(くるまいす)に座るエメ。

 その傍らに立つビークル。

 そして屋敷で働くメイドたちが並び――。

 三人を見送るために、わざわざ外まで出てきてくれていた。

「皆さん」

 エメがクロロたちへ微笑みかける。

「短い間でしたけれど……本当に、ありがとうございました」

「エメさん……」

「わたくしを助けてくださったこと」

 そして。

 少し後ろにある屋敷へ目を向ける。

「それだけではなく、屋敷の修理まで手伝ってくださって」

「いやいや」

 クロロは少し照れたように手を振った。

「当然のことをしただけですよ」

「そうです」

 クロエも頷(うなず)く。

「困っている人を助けるのは当然ですから」

「あたしも、最後まで片づけねえで出ていくのは気持ち悪かっただけだしな」

 アルスも何でもないことのように笑った。

「…………ふふっ」

 三人らしい返事に。

 エメは嬉しそうに目を細めた。

 すると。

「私からも――」

 エメの隣に立っていたビークルが、一歩前へ出た。

 クロロたちへ向かって、深く頭を下げる。

「屋敷の者たちを代表いたしまして、改めて御礼(おれい)申し上げます」

「エメ様をお救いいただき、本当にありがとうございました」

 その言葉に合わせるように――。

 後ろに並んでいたメイドたちも、一斉(いっせい)に頭を下げた。

「ありがとうございました!」

「本当に、お世話になりました!」

「皆様、お気をつけて!」

 いくつもの声が重なる。

 クロロは少し恥ずかしそうに笑いながら。

「……こちらこそ、お世話になりました」

 と、頭を下げた。

 クロエも。

 アルスも。

 それぞれメイドたちへ別れの言葉を返す。

 そして――。

「そういえば」

 ビークルが顔を上げた。

「皆様は、この先の目的地についてはお決まりでございますか?」

「いや……」

 クロロは少し困ったように笑う。

「まだ十二星具(じゅうにせいぐ)を探すってこと以外は、特には」

「また道に迷うんじゃないでしょうね、兄さん」

 クロエがじとっとした目で見る。

「今度はちゃんと地図持ってるって!」

「本当に?」

「持ってる!」

「前科があるから信用できないのよ」

「あれで三日間も森を歩き回ったのは誰だったかしら?」

「ぐっ……」

 言い返せないクロロ。

 アルスが横で吹き出す。

「くくっ」

「アルス! 笑ってる場合じゃないぞ! お前も一緒に迷ってただろ!」

「あたしは地図係じゃねえ!」

「なんだよ地図係って!」

 そんな三人を見て。

 エメやメイドたちから、くすくすと笑い声が漏れた。

 ビークルも僅(わず)かに口元を緩めると――。

「でしたら、一つお伝えしておきましょう」

「?」

「この屋敷から、そのまま真っ直ぐ進んでいただきますと、大きな街道へ出ます」

「街道?」

「はい」

 ビークルは続ける。

「そこから西へ真っ直ぐ――徒歩(とほ)で一週間ほど進んだところに、大きな都市がございます」

「大きな都市……」

 クロロが興味を示す。

「どんなところなんですか?」

「非常に特徴的な場所でございます」

 ビークルは遠くを見るように目を細めた。

「その都市は――周囲を巨大な崖(がけ)に、ぐるりと三百六十度囲まれております」

「三百六十度?」

 アルスが眉(まゆ)を上げる。

「ってことは、完全に崖(がけ)の中にあるってことか?」

「そのような形でございます」

「へぇ……」

 クロロの目が少し輝く。

「面白そうだな」

「兄さん、観光に行くわけじゃないのよ」

「分かってるって。でも気になるだろ?」

「まあ……少しは」

 クロエも否定しきれない。

「ありがとうございます、ビークルさん」

 クロロは頭を下げた。

「とりあえず、そこを目指してみます」

「お気をつけて」

「はい!」

 そう答えたところで――。

 アルスが。

 ちらり。

 屋敷の方へ視線を向けた。

 そこに。

 一人の人物の姿がないことに気づく。

 そして。

 クロロへ近づくと――。

 耳元へ顔を寄せた。

「……なあ、クロロ」

「ん?」

 アルスが小さな声で囁(ささや)く。

「メメリ、連れてかなくていいのか?」

 クロロは一瞬だけ黙った。

 そして。

 同じように声を潜(ひそ)める。

「……いいんだよ」

「いいって?」

 クロロは屋敷を見た。

「メメリには、ここでやりたいこともあるだろうし」

「それに何より――」

 少しだけ笑う。

「メメリの居場所は、ここだから」

 アルスは。

 その言葉を聞くと――。

 少しだけ目を細めた。

 そして。

「……そうだな」

 笑顔で、同じように囁(ささや)き返した。

「よし」

 クロロが気持ちを切り替えるように荷物を背負い直す。

「じゃあ――そろそろ行こうか」

「ええ」

「おう」

 三人が。

 エメたちへ向かって、もう一度頭を下げる。

「それじゃあ皆さん――」

「――クロロさん」

「?」

 出発しようとした、その時だった。

 エメに呼び止められ。

 クロロが振り返る。

「はい?」

 エメは。

 どこか楽しそうな表情を浮かべていた。

「旅立つ前に……一つ、お願いしてもよろしいかしら?」

「お願い?」

「ええ」

「俺たちにできることなら」

 エメは笑う。

 そして――。

「わたくしの娘を」

「…………」

「ぜひ――皆さんの旅に連れていっていただきたいのです」

「…………」

 クロロ。

 クロエ。

 アルス。

 三人の動きが止まった。

「…………娘?」

 三人の頭上に。

 見えない疑問符(ぎもんふ)が浮かぶ。

「エメさんの……?」

 クロロが首を傾げる。

 クロエも困惑(こんわく)した顔をしている。

 アルスに至っては。

「……娘?」

 もう一度その言葉を繰り返した。

 その時。

 エメの背後から。

 一人の少女が、ゆっくりと姿を現した。

「お待たせしました」

「――!」

 クロロたちの目が大きく開く。

 そこにいたのは――。

 ミントグリーンの髪。

 小さな羊の角。

 見慣れた緑色のメイド服。

 そして――。

 その手には。

 大きな革製(かわせい)のアタッシュケースが握られている。

「メメリ!?」

 クロロが思わず叫んだ。

「はい」

 メメリは、いつものようににっこりと笑う。

 三人とも。

 まったく同じ顔をしていた。

 その表情を見たエメは。

「ふふっ」

 楽しそうに笑った。

「まあ……いろいろあったのです」

「いろいろって……」

 クロロはますます分からない。

 すると。

 メメリが大きなアタッシュケースを持ったまま。

 三人の前へ歩いてきた。

「クロロ様」

「メメリ……」

 クロロは。

 改めて。

 旅支度(たびじたく)をしたメメリを見る。

 そして。

 少しだけ真剣な表情になった。

「……本当にいいのか?」

「?」

「俺たちと一緒に旅に来ても」

「だって」

 クロロは屋敷を見る。

「ここはメメリの大切な場所だろ?」

「はい」

 メメリは。

 迷うことなく頷(うなず)いた。

「とても、大切な場所です」

「だったら――」

「だからこそです」

「え?」

 クロロが言葉を止める。

 メメリは振り返る。

 その先には。

 エメ。

 ビークル。

 メイドたち。

 そして――。

 自分が何年もの間暮らしてきた、ウィルハード邸(てい)。

「メメリは、この場所が大切です」

「大切だから――守りたいんです」

「守る……?」

「はい」

 メメリはクロロへ向き直る。

「このお屋敷には、ビークルさんもいます」

「他のメイドさんたちもいます」

「だから……メメリが少し離れても、大丈夫です」

「それに――」

 メメリは。

 自分の胸元へ手を添えた。

「この大切な場所を守るためにも」

 そのミントグリーンの瞳(ひとみ)が。

 真っ直ぐ。

 クロロを見つめる。

「メメリは――クロロ様たちと一緒に、世界を救いたいです」

「悪星王(あくせいおう)から」

「このお屋敷も」

「エメ様も」

 一瞬。

 エメを見て――。

 その呼び方を。

 少しだけ訂正(ていせい)する。

「……お母様も」

 クロロたち三人が。

 また僅(わず)かに反応した。

 だが。

 メメリはそのまま続けた。

「ビークルさんも。ほかの皆さんも」

 そして。

 大きく笑う。

「メメリにとって大切なものを――全部、守りたいんです!」

 クロロは。

 しばらくメメリを見つめていた。

 そして――。

 ふっと。

 笑った。

「そっか」

 隣で。

 クロエも微笑む。

「なら、決まりね」

 アルスも。

「やっと二人目か」

 楽しそうに笑った。

「よろしくな、メメリ」

「はい!」

 メメリの表情が。

 ぱっと明るくなる。

「よろしくお願いします!」

 そして。

 クロロ。

 クロエ。

 アルス。

 そこへ――。

 十二星具(じゅうにせいぐ)の一人。

 メメリ・エアリーズ。

 新たな仲間を加え。

 四人となった一行は――。

 再び旅へ出ることになった。

「それじゃあ――」

 クロロが前を向く。

「行こう!」

「ええ!」

「おう!」

「はい!」

 四人が歩き始める。

 その背中へ――。

「メメリ!」

 エメの声が届いた。

「……!」

 メメリが足を止める。

 振り返る。

 エメは。

 車椅子(くるまいす)に座ったまま。

 娘を送り出す母親のような。

 優しい笑顔を浮かべていた。

 そして――。

「行ってらっしゃい」

 その一言に。

 メメリの表情が。

 ふわりと柔らかくなる。

「はい!」

 満面の笑顔で。

「――行ってきます! お母様!」

「…………!」

 エメの瞳(ひとみ)が。

 大きく揺れた。

 メメリは。

 もう一度笑うと。

 エメへ背を向け――。

 クロロたちのもとへ走っていった。

「お待たせしました!」

「重くないか、それ?」

「大丈夫です!」

「メメリ、無理なら持つぞ」

「クロロ様、大丈夫です!」

「転ばないようにね」

「はい、クロエ様!」

「最初っから荷物多くねえか?」

「アルス様まで!」

 四人の声が。

 少しずつ。

 遠ざかっていく。

 エメは。

 その背中を見つめていた。

 大きな革製(かわせい)のアタッシュケースを持ち。

 楽しそうに。

 三人の仲間と共に歩いていくメメリ。

 その姿が――。

 一瞬。

 別の姿へと重なった。

 かつて。

 自分のそばにいた。

 小さな娘。

 笑って。

 走って。

 何度も。

 振り返って。

「お母さん!」

 そう呼んでくれた――。

 大切な我が子。

 目の前を歩くメメリと。

 記憶の中の娘が。

 ほんの一瞬だけ――。

 重なって見えた。

 エメの頬(ほお)を。

 一筋の涙が流れる。

 けれど。

 その顔は――。

 笑っていた。

「……ふふっ」

 隣に立つビークルが。

 その様子に気づく。

「エメ様」

「……?」

「なんだか、とても嬉しそうでございますね」

 エメは。

 遠ざかっていくメメリの背中を見つめながら。

 静かに答えた。

「そうね」

 そして。

 少しだけ。

 誇らしそうに――。

「子供の成長というものは……早いものですね」

 ビークルは。

 その言葉を聞くと。

 優しく目を細めた。

「ええ」

 そして。

 同じように。

 旅立つ四人の背中を見る。

「間違いございませんね」

 やがて。

 クロロ。

 クロエ。

 アルス。

 メメリ。

 四人の姿は――。

 少しずつ小さくなっていき。

 最後には。

 道の向こうへ消えていった。

 しばらく。

 エメたちは。

 誰もその場から動かなかった。

 メイドたちの中には。

 目元を拭(ぬぐ)っている者もいる。

「メメリさん……」

「気をつけて……」

 小さな声が漏れる。

 エメは。

 四人が見えなくなった道を。

 もう少しだけ見つめていた。

 そして――。

「さて」

 ぱんっ。

 小さく手を叩く。

 振り返った。

「皆さん」

「はい?」

 ビークル。

 そして。

 メイドたち全員がエメを見る。

 エメは。

 いつもの。

 ウィルハード家の主人としての笑顔を浮かべた。

「まだ屋敷の修理は、完全には終わっていませんよ」

「……!」

「メメリがいつ帰ってきてもいいように――」

 後ろにある屋敷を見る。

 メメリが。

 自分の家だと言ってくれた場所。

 いつでも帰ってきていいと。

 自分が約束した場所。

 だから――。

「みんなで、この屋敷を綺麗(きれい)にしておきましょう」

 一瞬の静寂(せいじゃく)。

 そして。

「――はいっ!!」

 ビークルと。

 メイドたちの元気な返事が。

 ウィルハード邸(てい)の前へ大きく響(ひび)き渡った。

「ふふっ」

 エメは。

 嬉しそうに笑った。

 ◇

 その頃。

 少し離れた道では――。

 クロロたち四人が、ビークルから教えてもらった街道を目指して歩いていた。

 クロロの隣には。

 大きな革製(かわせい)のアタッシュケースを持ったメメリがいる。

 しばらく何も言わずに歩いていたメメリだったが。

 ふと。

 クロロの横顔を見上げた。

「クロロ様」

「ん?」

「その……一つ、お願いがあるのですが」

「お願い?」

「はい」

 メメリは少しだけ緊張したように、胸の前で手を重ねた。

「これからは……クロロ様のことを――」

 一度言葉を止める。

 そして。

「ご主人様、と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」

「…………え?」

 クロロの足が僅(わず)かに止まった。

「ご、ご主人様?」

「はい」

 メメリは真剣な顔で頷(うなず)く。

「メメリは十二星具(じゅうにせいぐ)として、ご主人様と契約(けいやく)しました」

「まあ……そうだけど」

「ですから、これから一緒に旅をするのであれば……そうお呼びしたいんです」

 クロロは何とも言えない顔をする。

 ご主人様。

 そう呼ばれる自分を想像したのか――。

 少しだけ頬(ほお)が赤くなった。

「なんか……恥ずかしいな、それ」

「駄目でしょうか?」

 メメリが少し不安そうに見上げる。

「いや、駄目じゃないけど……」

 クロロは頬(ほお)を掻(か)いた。

 本人がそう呼びたいと言っているのなら。

 無理にやめさせる理由もない。

「……まあ、メメリがそう呼びたいならいいよ」

「本当ですか?」

「ああ」

 その瞬間。

 メメリの表情がぱっと明るくなった。

「ありがとうございます!」

 そして早速――。

「ご主人様!」

「……やっぱりちょっと恥ずかしい!」

「ふふっ」

 嬉しそうに笑うメメリ。

 そんな二人の少し後ろでは――。

「おーい、クロロ!」

 アルスが歩調を速め、前へ出てきた。

「ん?」

「そういやよ」

 アルスはクロロの荷物へ目を向ける。

「屋敷から食料、結構もらったんだろ?」

「ああ」

「どれくらいあんだ?」

 クロロは少し考える。

「そうだな……」

「普通に食べれば――十日くらいは大丈夫そうだ」

「おっ!」

 アルスの目が輝く。

「十日もあんのか!」

「まあな」

 クロロはそう答えた後――。

 ちらり。

 アルスを見る。

「……誰かさんが食べすぎなければ、だけどな」

「…………」

 アルスの動きが止まる。

「なんであたしを見るんだ?」

「いや?」

「いやじゃねえよ!」

「俺は誰かさんって言っただけだろ」

「明らかにあたし見ながら言ったじゃねえか!」

「気のせいじゃないか?」

「絶対違う!」

 アルスが一気に騒がしくなる。

「第一な! 食える時に食っとくのは大事なんだぞ!」

「限度があるだろ!」

「動けば腹減るんだからしょうがねえだろ!」

「お前の胃袋は動く前から減ってるだろ!」

「どういう意味だ!」

「そのままの意味!」

「クロロぉぉぉ!」

 後ろから聞こえてくる二人の言い争いに――。

「ふふっ」

 メメリは思わず笑った。

 そんなメメリの隣へ。

 すっと。

 クロエが近づいた。

「メメリ」

「はい?」

「一つ聞いてもいい?」

「もちろんです、クロエ様」

 クロエは前を歩くクロロを見る。

 ちょうどアルスと言い合いを続けている。

 そして。

 再びメメリへ視線を戻した。

「あなた――」

 少し間を置いて。

「兄さんのこと、どう思ってるの?」

「…………」

 メメリの目が僅(わず)かに見開かれた。

 一瞬だけ。

 黙る。

 それから――。

 メメリは前を向いた。

 視線の先。

 アルスと話しながら歩くクロロ。

 少し困ったような。

 少し楽しそうな。

 そんな横顔。

 メメリは。

 ほんの少しだけ目を細めた。

 そして。

 隣のクロエへ顔を向ける。

 にこっ。

「秘密です」

「…………!」

 クロエの眉(まゆ)がぴくりと動いた。

「ひ、秘密……?」

「はい」

 クロエは。

 改めてメメリを見る。

 可愛らしい羊の角。

 小柄な身体。

 柔らかい笑顔。

 丁寧(ていねい)な言葉遣い。

 一見すれば。

 とても穏やかで。

 警戒(けいかい)する必要などなさそうな少女。

 だが――。

(この子……)

 そして。

 いつものブラコンが発動した。

(見た目はすごく可愛いけど……)

 ちらり。

 メメリを見る。

(油断できない……!)

 これから先。

 ずっと一緒にいる可能性が高い。

(……まずいわ)

 クロエの中で。

 警戒(けいかい)度が。

 一気に上がった。

 そして――。

 その直後だった。

「ご主人様!」

「ん?」

 メメリが。

 突然、小走りで前へ出た。

「メメリ?」

 クロロが振り返る。

 すると――。

 メメリは嬉しそうに。

 クロロの腕へ――。

 自分の腕を絡めた。

「…………え?」

 クロロの動きが止まる。

「メ、メメリ?」

「はい?」

「いや……その……」

 クロロは自分の腕を見る。

 そこには。

 しっかりと。

 メメリの腕が絡んでいる。

「どうされました?」

「いや……近くない?」

「そうでしょうか?」

「いや、近いだろ!」

「ご主人様と一緒に歩いているだけですよ?」

「そういう問題か……?」

 メメリは。

 とても嬉しそうだった。

 クロロの腕へ自分の腕を絡めたまま。

 ぴったりと隣を歩いていく。

 そして――。

 その光景を。

 後ろから見ていたクロエ。

「…………」

 ぴしっ。

 クロエの中に――。

 雷が走った。

(…………メメリ)

 表面上は。

 とても穏やかな顔。

 だが。

 内心では――。

(メメリぃぃぃぃぃ……!)

 完全に。

 兄を取られた妹の顔になっていた。

 その様子を。

 横から見ていたアルスが――。

 にやり。

 嫌な笑みを浮かべる。

「おい、クロエ」

「……何よ」

「大事なお兄様」

 一度だけ。

 前を歩くクロロとメメリを見る。

 そして――。

 わざと。

「取られちまったな?」

「…………」

 クロエのこめかみに。

 青筋(あおすじ)が浮かんだ。

「アルス……」

「ん?」

「あんた……」

「何だよ?」

「何でいちいち余計なこと言うのよぉぉぉ!!」

「うおっ!?」

「誰が取られたっていうのよ!」

「いや、見たまんまだろ!」

「違うわよ!」

「じゃあ何なんだよ!」

「兄さんは兄さんなの!」

「意味分かんねえよ!」

「分からなくていい!」

「また始まった……」

 前を歩いていたクロロが。

 呆(あき)れたように振り返る。

 その隣では。

「ふふっ」

 メメリが楽しそうに笑っていた。

「クロエとアルス、ほんとよく喧嘩(けんか)するよな……」

「仲が良いんでしょうか?」

「本人たちに言ったら二人とも否定すると思う」

「ふふふっ」

 背後では。

「誰がこいつと仲いいっていうのよ!」

「こっちの台詞(せりふ)だ!」

「また真似した!」

「してねえ!」

 いつものような。

 二人の言い争いが続いている。

「……やれやれ」

 クロロは。

 呆(あき)れたように笑った。

 けれど――。

 その表情は。

 どこか楽しそうだった。

 クロエ。

 アルス。

 そして――。

 新しく仲間になったメメリ。

 今まで三人だった旅は。

 今日から四人。

 少し騒がしく。

 少し賑(にぎ)やかになって。

 新しい旅が始まった。

「ご主人様」

「ん?」

「次の街、楽しみですね」

「ああ」

 クロロは前を見る。

 遥(はる)か先。

 ビークルから教えてもらった――。

 巨大な崖(がけ)に三百六十度囲まれた、大都市。

 その場所で。

 何が待っているのか。

 まだ誰にも分からない。

 新たな十二星具(じゅうにせいぐ)との出会いなのか。

 新たな悪星獣(あくせいじゅう)との戦いなのか。

 それとも――。

 また別の何かなのか。

「よし」

 クロロは。

 少しだけ歩調を速めた。

「次の街を目指そう!」

「はい、ご主人様!」

「兄さん、置いていかないで!」

「クロロ! 食料の話まだ終わってねえぞ!」

「お前はもう食料のことしか考えてないのかよ!」

「なんだとぉ!?」

「ふふっ」

 四人の声が。

 どこまでも続く道へ響(ひび)いていく。

 こうして――。

 クロロ。

 クロエ。

 アルス。

 そして。

 新たに加わった十二星具(じゅうにせいぐ)――メメリ・エアリーズ。

 四人となった一行は。

 次なる目的地へ向けて――。

 再び。

 歩みを進めていくのだった。

第十章まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

これにて、ウィルハード邸で始まった一連のお話は一区切りとなります。

エメの過去、リーエとデットリーフの事件。

そしてメメリが選んだ、新しい道。

「帰る場所」と「旅立つ場所」というタイトルの通り、それぞれにとっての居場所や、新しい一歩を描いた章となりました。

ここまで読んでくださった皆さんは、

クロロ、クロエ、アルス、メメリの中で誰が一番好きでしょうか?

また、

「ウィルハード邸編で一番好きだった場面」

「印象に残った台詞」

「メメリが旅に加わったことについて」

なども、ぜひ感想で教えていただけると嬉しいです!

短い一言でも本当に励みになります。

そしてここから、クロロたちは四人で新たな旅へ――。

彼らの次の冒険も見届けていただけたら嬉しいです!

これからも『星導の十二星具』をよろしくお願いします!


続きはただいま製作を頑張って行っておりますので、また投稿する際はお知らせいたします。

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