第一話
K県のある家に「にゃるら様」と呼ばれる不気味な何かがいる。そんな情報が舞い込んだのは、二ヶ月ほど前のことである。
田端は、個人的に怪異譚を収集している長野という友人から「にゃるら様」についての話を聞いた。
怪異譚を蒐集しているというと、てっきり男性だと誤解されがちだが、長野は女性である。
以前から親しくしてはいるが、30代半ばの美女、長野が自分を頼ってくれたことがうれしくて、田端はほんの少し鼻の下を伸ばして張り切った。
正体を突き止めるべく、二人はまず、文献などを調べた。Web検索からはじまって、方々の図書館、書店、古書街、オカルト好きの仲間たち──思い当たる節をあれこれ探してみたものの、手がかりはほとんど見つからなさそうだった。
にゃるら様という響きからして、古くからいる存在ではなさそうだ。
「ねぇ、田端さん。にゃるら様って、クトゥルフ神話のニャルラトホテプに名前が似てません?」
「まあ、まずはそこが思い浮かびますよね」
思い出すのは、作家ラブクラフトの書いた小説に出てくる邪神である。
この邪神はいくつかの異名を持つ。その一つに「にゃるら様」という名前、もしくは略称があるのではないかと二人は推測した。
なにせ、知名度の高い邪神である。該当する情報が多すぎて、逆に探すことが難しい。半ばミーム化している邪神の情報に、田端は何度も頭を抱えることとなり、あっという間に二ヶ月がすぎてしまった。
長野と過ごす時間は楽しい。楽しい時間は早いものだ。格好のいいところを長野に見せられればもっとよかったのだが、調査は難航した。
「にゃるら様」を長野が知ったのは、一通のメールがきっかけであるらしい。
長野はPCのメールソフトを開いて、自身のWebサイトに届いたそのメールを何度か田端に見せた。
──前略 怪異譚蒐集倶楽部の管理人さん
いつも楽しく読んでいます。
僕の友達の家には「にゃるら様」という謎の存在がいるそうです。
この前、友達を遊びに誘ったんです。
そうしたら「にゃるら様の儀式がある日だから」って、断られちゃいました。
にゃるら様? って聞いてみたんですが、友達はあいまいに笑うだけで……いったいどういう存在なの? と聞いても、よくわからないって言うんです。
よくわからないけど、儀式はある……これって怪しくありませんか?
よかったら、怪異譚蒐集倶楽部の皆さんで調べてみてください。
場所を記します──。
「よくわからない儀式ねぇ」
「民俗学方面でも調べた方がいいんスかね」
手がかりはほとんどない。否、似たような名前の邪神の情報なら、山ほどあると言うべきか──。
長野の運営するWebサイト、怪異譚蒐集倶楽部でもにゃるら様についての情報を募ってみたが、有益な情報は得られなかった。
「やっぱり、自分の目で見て確かめるしかないですね」
「目で見られりゃいいんスけどね」
「カメラなら写るかも?」
「心霊写真的な? じゃあカメラ持っていきます」
二人は二ヶ月経ってようやく、K県のある家に取材を申し込むことにした。




