ロングフットの復活 4
灰土の地は紫土の地同様に孤島に過ぎません。
僕らは対死霊用の改装が済んだ丸儲け号で飛行していました。
「当然のように艦橋に居座るのはやめろ。散らかすなっ」と怒られてしまったので、今は一番広い船室にいます。
端に取り付けた魔法道具らしい鉢植えで、メリワリカさんとユトニッセーが柱の樹の苗を使って、僕らの竜の遺骸の武器を加工して強化してくれていました。
「甘露水もいいが、巨獣王の糞も・・」
「金属成分ももっと必要だね。ヒヒイロカネの粉末を土に・・」
2人ともすんごい小声でボソボソ相談しながら作業してます。エルフの人達って声小さいけど結構喋りますよね?
ゼオさんは端で座ってずっと眠ってます。寝溜めできるのはやっぱ竜族だな、と。タクミさんは同じく同行するヤンベさんと艦橋です。僕らと違って艦橋散らかしたりしないので・・
僕は冒険家、カーメン・ストレイシープの手記を読んでいました。
「お? ロッカ、それ久し振りじゃんか?」
「うん、何か途中で冒険気分で使命に当たるの良くないかな? って思って控えてたんだけど、一周回って普通にしよ、って思って」
「ふぅん?」
「というか、その冒険家の人って最後どうなったの? やっぱ茸食べて茸人間になっちゃう、とか?」
「やっぱ、の基準がわからないけど、違うよ。カーメン・ストレイシープは実家がパン屋だったから、最後は故郷に帰ってパン屋を継ぐんだよ。『本当の冒険はこれからなワケだ』て」
「え~、何か普通だ~」
「そのパン屋まだあんのか?」
「青土大陸に曾孫がやってる鍋焼き平パンカレーの店があるみたいだよ」
「カレー屋に変わってんの?? まぁ、店の規模が無いならその方が率は良さそうだな、窯焼きじゃなくて鍋焼きだしよ」
「窯焼きの方がフカフカして好きかも?」
そんな雑談をしながら、僕らは灰土の地を目指しました。
・・灰土の地は闇の結界で覆われた、死霊の大軍が封じ込められた禁断の島でした。手付かずの孤島でも、海魔族達が手を出せない程です。
その結界の中へ! ジェミニクレストを発動しっ、船全体を地水火風の聖なるマナで覆って僕らは突入しました!!
内部は圧倒的な死霊の渦っ! 2000年溜まりに溜まった死者達です。丸儲け号の聖なる結界に当たって猛烈な勢いで消滅してゆきますが、止まるところを知りません!
「ロッカ! 結界を緩めるなよっ」
「わかってるけどっっ」
「サンドウィッチの中身みたいにされちゃうよっ!」
僕らは艦橋に集まっていました。メリワリカさんとユトニッセーさんは武器生成に使った柱の樹の苗のまだ使える部位を活用して、船を補強してくれています!
「船長! 距離はさほどでもないっ、進路を見失うなっ」
「わかっとるわい!」
「全く、外交員やらされた挙げ句、結局地獄巡りだよっ」
「神殿本体には我らが竜王の遺骸が喰い付いている。まだその雄々しき力を感じる。この死に損ないどもも、神殿付近には手は出せまいっ」
「だといいんですがっっ、んっがっ!!」
僕はオリィとマイサに魔法石の欠片とヒールを連発してもらいながら耐え、どうにか死の奔流を抜け、ロングフット神殿を眼科に見下ろせる空域に出ることができました。
ここには台風の目のように死霊は立ち入れないようです。
「おおっ」
「竜王かっ!」
「往生際とはよく言ったもんだよ」
まさに喰い付いていました。超巨大な白骨の竜のがめちゃくちゃに破壊された神殿の最深部ギリギリまで喰い破るようにして、倒れ伏しています。
骨は結晶化しつつありました。2000年、竜王は死して尚、ロングフット族の死の呪い退け続けていたようです。
「半端な魔物の気配は無い。降りるぞ? 悼まねばならない」
僕らは竜王の頭部近い、壁の崩壊した祭壇の間前の広間近くに着陸し、外に出ました。
確かに魔物の気配は一切ありませんが、メリワリカさんとユトニッセーさんが強化してくれた大聖木シリーズの武器を油断無く構えます。
ヤンベさんも背に登場するタイプの強固なゴーレムに乗っていました。
「王よ、事が済み次第、弔います・・」
ゼオさんがそう祈りを捧げていると、地響きが起こり、無人の荒れ放題の祭壇の間の床から膨大な死者のマナが噴出し、巨龍のような石の鳥の仮面を持つ魔物が出現しました。
「アークスピリット! 死の河の霊っ!」
タクミさんが驚愕していると、
「・・・オ帰リ、サヨナラ」
アークスピリットは僕を見て呟くと、頭上の空間に転送門を開き、星の世界から流星を招き始めました!
「皆は船にっ!」
船員ともうバテバテになってるメリワリカさんとユトニッセーさんは船に退散し、竜王の加護ギリギリまで後退して僕ら狙いの流星の連打から少しでも遠ざかりに掛かり、僕らは流星が降る中、上空のアークスピリットに挑むハメになりましたっ。
最悪です!!
僕ら3人はエアフットで、ヤンベさんとゼオさんはゴーレムと翼の飛行能力で、タクミさんは速いけど制御の難しい飛行魔法を自分に掛けて飛びますっ。
「マイサ! 百発百中食らうなよっ」
「オリィうるさいっ」
言い合いつつ、即死回避にしかなりそうにないですがディフェンドとレジストを全員に掛けます。
僕はマスターツリーブーメランを投げて途方も無い長さのアークスピリットの身体を大きく斬り裂いてみました。
通ることは通りますが、どれ程の耐久性があるのか底知れませんねっ。
「本体顔だ! 身体はこの世の物ではないっ」
ゼオはさんが叫んで閃光の息を鳥の仮面の顔に放ちますっ。ヤンベさんも全火力を仮面に集中させ、タクミさんはライトジェムとミスリルで造った盾と小剣を駆使して陽動に掛かってくれていました。
「流星、祭壇間への直撃避けてんぞっ? この線、安全圏だ! だぁっ?」
言った側から人骨を固めた槍の豪雨を身体から放たれ、大慌てするオリィ。
「身体も牽制必要だねっ、爆ぜて!」
マスターツリーのワンドからファイアボムを連発して人骨の雨の挙動を押し止めに掛かるマイサ。
「剣よ!」
エアブレイブの魔法で人骨の雨を弾き、ついでに流星の軌道もズラし、仮面の頭部に迫りますっ。
と、鳥の仮面の大口が開き、負の波動を放ってきました! タクミさんが盾を砕かれながら僕を掴んで避けさせてくれましたっ。
追い打ちの流星も避け、ブーメランで横っ面を打って波動を止めます、その隙にもう傷だらけのゼオさんの大剣の一撃とゴーレムが半壊しているヤンベさんの集中砲火で仮面に傷が入りますっ。
丸儲け号の援護射撃と、マイサのファイアボム連打による人骨の槍の阻止、頭上の流星はオリィがマスターツリーの手槍で砕いて間引きしてくれてますっ。
僕とタクミさんは突進! ブーメランを砕かれながら仮面の眉間を大きく割り、タクミさんの光の小剣で風穴を空け、僕はジェミニクレストの光で身を守りながら、マスターツリーナイフを手に、眉間の風穴に飛び込みました。
闇、無数の死、その先に、
「遅い! 私を見棄てるつもりなんだろうっ」
激昂するミッカお婆さんがいました。
「ミッカお婆さん」
僕は、闇の中、ナイフを手に、
「・・ごめんね。怒らせたまま見送ってしまって」
ミッカお婆さんを抱き寄せました。あまり効かなかった煎じ薬と同じ匂いがします。
散りゆくお婆さんの背後の闇の中には、髪を生やした、たぶん少女の白骨の霊がいました。
「君を倒す以外に方法を知らない」
「ソレデイイ」
僕はその白骨の少女を前に光の刃を構え、そして・・
闇は晴れ、アークスピリットは消滅し、転送門が閉じ、流星も止みました。
「見事だ! だが竜王様の遺骸が損傷してしまった結界は長く持たない。急げ、使徒の仔らよっ!」
僕らは祭壇の間へと急ぎました。竜王の遺骸に限らず辺りは徹底的に破壊され、あちこち炎上しています。
祭壇の間のオーブには子供と老人と若い女性のロングフットの王族が眠っていました。
ジェミニクレストで解放すると、
「ああ、時を越えてしまった」
女性の王は泣いていました。
「ロングフットの最後の王達よ」
マイサにレイミーアズス神が宿ります。皆膝を突いて、ゼオさんも義務的な様子で従いました。
「死の真理を遠ざけます。贖罪はこれか紡ぐ歴史で成しなさい。そして」
神の宿ったマイサは僕らを振り返りました。
「長い旅でしたね。ありがとう、魔族と海の邪神の封印は約束通り、既に確かな物としました。変容する世界を、皆は生きてゆくのでしょう。ああ・・命は繋がれました。今は、その罪も、私には懐かしい・・・」
「レイミーアズス神様」
尊い光の気配は、溢された結晶化する涙を残して去ってゆきました。永遠に、
途中、ヤンベさん、ゼオさん、メリワリカさんとユトニッセーさんと別れ、夕闇の頃、だいぶガタがきている丸儲け号は赤土大陸のテウガー地方の人気の無い草原の街道近くに着陸しました。
「またね」
マイサは見送る側でした。首からもうほとんど力を失ったジェミニクレストを提げ、大事に手に待つ小袋にはレイミーアズス神様の最後の涙の結晶が入っていて、うっすら光っています。
「本当にミスリルの島に行っちまうのか? もうバルタンに任せとけよ」
「蕾の子は神様の子供だから誰も何もしなくても立派に次の神様に成れると思うけど、人の子としても育ってほしいんだよ。何度も神様が降りたから、もう他人に思えないし・・」
「それがマイサ的の百発百中賞なら、いいんじゃないかな」
「うん、ありがとう。ごめんね」
「別に、俺は」
「2人とも、また会いに行ったらいい。今なら行けるさ」
マイサはドワーフの船員の皆さんと共に丸儲け号で飛び去ってゆきました。
僕とオリィとタクミさんはランタンに火を灯し、しばらく街道を3人で歩きました。
日が完全に暮れ、夜空が見えています。道が分かれました。
「俺達はこっちだ。宿営地があるからさ」
「ロッカ、達者でな。今回の件で逆恨みされるようなことがあればいつでも協力するぞ?」
「はい。ありがとうございます、タクミさん。オリィもずっと真面目に野伏何て務まらないと思うけど、やるだけ頑張ってね」
「酷ぇこと言ってら。ロッカこそ、今さら郷に戻ってどうすんだ。具合悪いだろうによ」
「一番恐れていた事と向き合ってみたい。自己満足だけど、気が済んだら、また違うこと探すよ」
「物好きだな・・じゃ、あばよ。またな」
オリィとタクミさんと別れました。
僕はネムリ郷への道を歩きます。歩いて、歩いて、少し大きな街道に合流すると、夜でも他の旅人達の姿が少しは見掛けるようになりました。
さすがにまだ復活させた種族達の姿までは見えませんね。でも、想像します。
2年後、5年後、10年後。世界はきっと今より騒がしくなるでしょう。
僕は数えきれない人々が編み上げた物語の一筋の糸に過ぎないのでしょう。端々までは見えません。
しかし繋がっています。確かに感じているのです。
冷たい夜風に誘われて、僕はモッカさんとノノカさんに管理を任せきりな、古びた家へと帰ってゆきました。




