ドワーフの復活 前
犬橇が飛ぶように雪原を走ってゆきます。
「ナイシィッ! ナイシィッ!」
独特な掛け声を掛けて犬達を操る御者はこの極北の黒土大陸、モイズン地方の野伏の頭目ラチャ・シルバーベルさんです。
30歳くらいの方で声は高いですがたぶん男性で、髪のワサワサと伸ばしていました。
ラチャさんは御付きの人達は連れていなくて、代わりに『ペス』という名の魔狼を1体連れていました。
並走していますが、犬達は慣れてるみたいで気にしません。
狼と言っても体長3,45ベル(2,3メートル)はある魔物です。何なら平均的なダイアーウルフより一回り大きい個体で、僕とマイサは若干ビビってました。すぐ横を走ってますし。
「うひょーっ! ペスに追い越されちまうぞっ? ハハハっ」
オリィは満喫しているようですね・・
モイズン地方のノームの転送門に空間転移してきた僕達は、もう門の所でペスと待ち構えていたラチャさんに寒冷地用の装備を売ってもらい、そのまま犬橇に乗せられていました。
復旧した転送門が増えたこともあって野伏全般が扱いに慣れてきたのと、通常高価であまり普及してない水晶通信機をノーム達が改良量産化し、転送門で世界中の野伏に配ったらしく、情報の伝達速度がもう以前とは段違いでした。
量産型水晶通信機を一般に普及させるのは「フェザーフットの社会には50年は早い」とノーム達は見ているようですが・・
「一番近い海の遺跡から来たオーシャンピープルは、だいぶ具合が悪いからよぉ。最悪、トロキ郷に置いてくが、まぁ話はしたらいい。モストリーテ地方の海の王達は鉄面皮だったんだろぅ?」
「鉄面皮というか、僕らに対しては事務的な感じでしたね」
「神様が抜けちゃったら森の小人が喋ってる、みたいな顔された!」
険悪でもなかったですし、邪神とその眷属達への対応は死活問題なこともあってしっかりやってくれるみたいですが、やっぱり地上の種族に特別強い関心がある風ではなかったですね。
穏健派と言っても『地上種族を滅ぼしてまで過剰に繁栄しようとは考えていないが、それ以上でもない』といった具合なのかもしれませんね。
「取り敢えず話しとけよぉ。話したことはあっという間に共有される。通信革命だぜぇ! 今日、お前達が何回屁をこいたかもすぐ広まっちゃうぜぇ?」
「えーっ?」
「嫌過ぎ賞!」
「ペス! 犬達っ、行けぇー!! 俺達は今、雪原の風だっ! ドワーフも軽く復活させてやんよっ、フォー!!」
そんな感じで、僕達は今回の助っ人だか偵察役だかのオーシャンピープルの方が休息しているらしい、トロキ郷へとダイアーウルフが並走する犬橇で直行したのでした。
・・・ドワーフ族。寿命200年の長命種。身長はノームよりやや高いくらいだけど、頑強な種族で見た目より体重も重い。
工学と大地の真理に到達していて、高度な機械文明も持ち、機械蟲と呼ばれる兵器や巨人族の使役で大軍勢を造り、機械帝国を建国して世界に破局をもたらした種族です。
ノーム族と違って信仰心が薄く、オーシャンピープルのような宿敵も存在しないので、いきなり復活させるのは難しい種族でもありました。
トロキ郷は円錐型や傾斜の強い屋根が目立つ典型的な寒冷地の郷でした。融雪溝が柵も無く無造作に有ったりするので、「夜中や吹雪いている時はウロウロしない方がいいぜぇ」とラチャさんに忠告されました。
「白兎シリーズの装備って可愛いよね?」
防寒装備の名称は白兎シリーズと言って、帽子には寝かせた兎の耳のような装飾があったり全体的にモコモコして確かに可愛い感じではありました。
冷気耐性は勿論、露出している顔を保護することや樏を付けたように雪上を動き回れたり、優れ物です。
顔防具に関しては吹雪等の際に付ける雪避けマスクや大きな雪避け眼鏡も買ってます。
武器は寒冷地ということもあって火属性で揃えました。
「そだね」
「兎じゃなくてし鹿とかがよかったぜっ」
そんなことを話しながら宿を目指して歩いていました。
「氷柱齧り亭ってとこだからよぉ」
犬橇と犬達は郷の出入口近くの犬舎に預けてきましたが、ラチャさんがペスは連れているので郷の人達はギョッとしています。ダイアーウルフを飼い慣らすのはこの地域でも珍しいようです。
「オーシャンピープルの方はそんなに具合が悪いのですか?」
「ちょっとなぁ、陸で活動するのに必用な指輪か何かは持ってきてたがよぉ。復活してすぐに陸に寄越されたからキツかったんだろぅ?」
「そうですか・・」
ヤンベさんとは色々違うようですね。
郷の外れにある氷柱齧り亭は言われないと宿兼酒場だとはわからないような所でした。酒場には地元の常連客も来るようですが、宿の方は野伏やその関係者以外はあまり来ないようです。
宿の主人は元野伏、かな?
ペスの同伴も問題無く、僕らは2階の宿に通されました。
取られていた部屋には本来ラチャさんの御付きらしい野伏の方が2人詰めていて、オーシャンピープルの方の護衛や世話役や監視役を兼ねていたようでした。
「どうだぁ?」
「だいぶ良くなれれました」
「神殿までの同行も可能かと」
「ほぉう」
報告を受けながらラチャさんが向かったのは鑑賞魚を入れるような鉢で、水を張ってたくさんの水草・・いや海藻が入れられていました。そう大きな鉢でもありません。
「ズーレア、使徒の3人を連れてきた。起きれるか?」
呼び掛けに応え、鉢の水面から出て、宙に浮き上がったのは何となくヌイグルミみたいに擬人化してされた魚でした。
「お初に御目に掛かります! 使徒の皆さん。お陰で復活することができました。ありがとうっ。わたくしはズーレア・オーロラタクト。北のオーシャンピープルです」
淡い光と共にその姿は大きくなって、上半身はフェザーフットより頭身の高い人型に、下半身はそのまま大きな魚の尾の姿に変化してその場に浮遊しました。
随分薄着ですが古風な衣装を着ています。強い水のマナからするとラチャさんの言っていた指輪はネックレスにして首に掛けていました。
「ロッカ・グラスクラウンです」
「マイサ・ルナポートだよ」
「オリィ・サンダーロック。フィッシュ&チップスは好物だが、あんたの前では自重するぜ?」
「あら、ありがとう」
「ズーレアよぉ、神殿まで同行できそうなら今後のことを詰めようぜぇ? ロッカ達も、最初は次々復活させりゃよかったかもしれないけどよぉ。ノームはもう遺跡の仲間十数万全員復活させてる。状況を確認しないとなぁ。ズーレアもどうせお前らの王達に報告するんだろぉ」
「ええ・・そうですね」
モイズン地方史の試験何かはなかったけど意外と理知的だったラチャさんの提案で、僕らは一旦現状等について協議することになりました。
御付きの2人は部屋の前で番をして、走り通しだったペスは暖炉の前で眠っていました。
ズーレアさんは下半身も人型にして、古風なスカンツを穿いた姿で「椅子に座るの2000年ぶり」と少しおどけて席に着いていました。
「えっと、ラチャさん。大体はモストリーテ地方でヤンベさんやジゴさんからは聞いていますが、まずはノームの現状についてお願いします」
「全個体復活。歯抜けだが、一応全世界の転送門も復旧させてる。それぞれ眠っていた神殿や遺跡を拠点に造り変え出してるとこだなぁ。結果的に世界中の野伏とも一通り話が通ってる感じだ。一部の地域で暴走してたノーム製のゴーレムは対処は後回しのようだがよぉ」
「うーん・・」
その種のゴーレムは普通、僻地で放置されたり周囲を封鎖された個体ばかりですが、定期的に事故はあります。高価な素材も採取できるので。
「まだそこまでいかない、って、言ってるが、本当の所は各地の有力者との取引材料にするつもりじゃないかぁ?」
「そうですか」
世知辛いですが今のノーム族は復活しても個体数が足りない上に、最悪『古代の魔族』として退治されかねません。手札は必用なんでしょう。
「オーシャンピープルの方はどうなんだぁ? まぁ復活したばかりだろうがよぉ」
「わたくし達は一族の全復活と海の邪神とその眷属対策をまずしないと。幸い、と言っていいんでしょうか? フェザーフットの皆さんはあまり海洋進出していないようなので、陸の種族といきなり衝突することは避けられそうです」
実際、僕らフェザーフットは安全な海域で、数日陸が見えない所まで船を出すのがやっとでした。
やればできるんでしょうが、どこからどこまで邪神の勢力圏か? 流動的だったりして試してみよう、という人は少なかったです。
ガレー船も相当資金がないと運用できないくらいで帆船ばかりですし。
「結局、ノームもオーシャンピープルもしばらくは身動き取れない、ってことだな。じゃ、今の内にとっととドワーフや他の種族を復活させちまおう!」
「オリィ、じゃ、までに結構飛躍してる賞っ」
「ドワーフはノームやオーシャンピープルとはちょっと毛色が違うみたいだから、復活後の様子でまた考えるしかないね」
僕達はそれから切り替えて、ドワーフ神殿までの道筋や細々な確認を始めました。




