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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
ドラグナール帝国

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第72話 ガル5

 いつも通り執務室でぼんやりと過ごし、部屋へ戻ると、珍しくレイスが先にいた。いつも部屋に戻ったのを見てから入って来るのだが……


「次の任務だ。五日後に同じ場所へ」


「承知した」


「……今回は別の指示も出ている」


 別の指示?


「荷の調査と対応」


「……どこまでの判断が可能だ?」


「殺すかと聞いたら否定されている」


 ……そういうことか。

 であれば、今は補給を優先するべきだ。


「承知した」


 他の指示がないのなら好きにやらせてもらう。

 気配が消えるのを見送り、前回の荷の状態を思い出す。いつ、どの程度減ったか。

 まずは現場を押さえる必要がある。

 少なくとも悪いことだとは思っていないだろう。繰り返せばどうなるか、しっかりと教えてやる必要がある。



 グレイヴン商会の前に到着すると、今回は幌馬車が四台止まっている。


「おはようございます。ガル、今回も荷の積み込みを手伝っていただけませんか?」


「……ああ」


 都合が良い。今時点の荷の状態をしっかりと記憶しながら積み込んでいく。

 準備する荷をずいぶんと増やしたようだ。これなら次までもつだろう。


 減らなければ……



 峠を越えて最初の休憩時。

 一人、周りを気にしつつ、そっと木立の中に消えていくのに気づく。気配を極力消しつつ後を追う。


 今度、レイスに気配の消し方を習うか?

 俺にも誰かがついているはずだが、全く気配を感じない。


 追いかけていた姿が何とか見える程度の位置で止まり、僅かに聞こえる声を拾う。


「……ここでは——今夜——あまり多くは……」


 今夜か。

 それだけわかればいい。


 風音に足音を紛れ込ませるように、その場を離れた。

 情報を得られた安堵からか欠伸がこぼれる。荷の減少原因が気になり、ここ数日は眠りが浅かった。これでやっと寝不足から解放されそうだ……



 皆が寝静まった頃、幌馬車から袋を取り出して暗闇へと消えていく姿を捕らえる。昼間と同様に気配を極力消しつつ、見失わない程度に離れてついていく。


 明かりがない中でも、全く迷いのない足取りで進んでいく。それだけよく使う場所なのだろう。

 昼間に会っていたと思われる人影が奥から現れて取引が始まる。


「こちらが商品です」


「まだ馬車にありそうだが、もう少し何とかならないか?」


「契約分がありますので、あまり多くは流せません」


「そうか……仕方ないな」


 手慣れた様子で品と金を交換する。


「確かに。またご贔屓に」


 二人の人影が離れ、ハルトがこちらに振り返り戻ってくる。

 そんなハルトの目の前に姿を見せると驚いた表情となり、足を止めた。


「……ガル」


「……あれは?」


 ふぅ、と息を吐き、なんてことないように喋り出す。


「流れの傭兵ですよ。昔からこの辺りで会うといろいろと高く買ってくれるのです」


 それは別に問題ではない。


「……岩塩、干し肉、油、豆」


 品を並べていくとハルトの表情が強張る。


「依頼から抜いたな?」


 それも抜いたのをわからないように、複数の箱や袋から少しずつ。


「……余剰の範囲で抜くのは構わん」


 元々、損耗を考えて余分に手配はしているだろう。だが……


「荷が増えた。これが何を意味しているかわかるか……」


 怒りを抑えずそのまま漏れさせる。


「商人と言うのであれば依頼に影響を出すな」


 補給が止まることは許さない。


「次、やれば殺す」


 今はまだ使える。

 教育が必要なだけだ。


 ハルトが重い空気の意味を理解して、顔色を変えて体を震わせている。


「……ああ、村の情報を売るのも殺すからな」


 これには明らかに動揺する。


 やはり売っていたか……


 荷の増え具合が異常だ。これは届けた荷よりも消費が早いことを意味する。

 軍の消費というのは元々多いが、戦いとならなければそこまでの変動はない。なのに売る量が増えている。しかもあの村の村長の言葉。


『少々気の荒い兵が来てな』


 正規の徴発なら、村長はもっと諦めた顔をする。あれは誰かに脅されている顔だ。

 あの言葉は、ハルトが普段から取引していると言う流れの傭兵が相手だったから出たのだろう。


「……申し訳ありませんでした……」


「商人として責任をはたせ」


 怒りを引っ込める。

 これに歯向かうような度胸はこいつにはない。それでもやるというのなら腕でも飛ばしてやればいいだろう。



 次の日からハルトの護衛を見る目に怯えが混じるようになった。それに引きずられて商会員たちにも緊張が混ざる。


 普通に荷を運べば何もしないが……効き目が強すぎたか?


 何があったか共有されているのか、他の護衛たちも普段と変わらない。

 それがさらにハルトの恐怖心を煽っていた。


 ハルトにとっては、ただ荷を手配して運ぶだけの割りのいい仕事。その程度の認識だった。


 帳簿に残さない取引。


 その重さにようやく気がつき、引き受けたことを後悔し始めていた。それと同時に逃げれば消されることも理解してしまった。もう戻れない。


 途中で会う取引相手にはいつもの日用品だけを売る。そういった取引があってもガルは何も言わない。

 完全に取引内容を把握されている。

 帳簿も見ていないのに何故わかるのか。これだけはいまだに理解ができなかった。



 これを機にレイスから話が通ったのか、影たちの態度も変わった。

 今まではガルを監視対象にしていたが、ハルトの監視を補佐してガルに報告するようになっていた。これはガルにとって助かる変化だった。

 影のような動きは専門の者へ任せるに限る。


 試しにレイスに気配の消し方を聞いてみたら、『影になるのか?』と勧誘されてしまった。

 一瞬迷ったが、これ以上領を空けるのは難しいだろう。例えあそこに仕事がなくても。


 本当に、どちらが虚構なのか。

 ため息は空に消えていった。

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