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序章

ゆっくり更新かもしれませんが、よろしくお願いします。

 一歩踏み進むたび、命は刈られていく。鼓動は沈黙に。眩しさは光を失い、色褪せて残るのは灰ばかり。

 死の足跡を付け、その歩みは止まらない。黒いドレスに身を包み、レースのベールを被った少女。背に生えている翼は片翼。もげた痕には黒い灰がさらさらと舞っている。

 

 彼女は不意にその足を止めた。眼前には、陽光を反射し、目に突き刺さるような空を映した鏡面の湖。けれど、そこに満たされているのは水ではなく、水晶。

 ピシャン。美しい宝石でできた魚が水面(晶面)を跳ねる。しゃら、と硬質な音を立て、美しい波紋が立った。きらきらと景色を反射している。

 彼女はその手にはめた黒いレースの手袋をそっと外した。傷一つない白磁の手は、水晶を掬うように湖に手を差し入れる。手のひらに乗った水晶は、あっという間に色を失い、土塊に変わった。ぼろ、と死をまとったそれは、ボタ、とひどい音を立てて湖に落ちる。

 「死」が、湖に波紋を一度だけ立てた。

 残るは、空虚なモノクロの沈黙ばかり。



「アナモルテ、 歩くのが速すぎます」

 騒がしい靴音を立て、銀の男――ゲルミナスが追いついた。ほんの少しだけ息を乱している。

(……貴方が遅いだけ)

 ベールの顔を上げ、モルテは心の中で呟いた。声を失った彼女はゲルミナスを一瞥するだけだ。

(あと、何度も言うけれど、私の名はモルテよ)

 その不満そうな視線を感じたのか、ゲルミナスは片眉を上げた。

「……貴女は『アナモルテ』でよいのです。『私』だけが知っているのですから」

(……変なの)

 眩しそうにモルテは目を細め、顔を逸らした。彼の後ろには眩いほどの極彩色の「命」が芽吹いている。モルテが付けた「死」の色を塗り替えるほどの「生」。賑やかな音と鮮やかな息吹。死臭ではない、生命の香り。


 ゲルミナスは片眼鏡をカチャ、と上げると、黒い手袋を外し、死の臭いを撒き散らしている湖だったものを覗き込むように片膝をつく。

「これで一つ目ですか」

 土塊に手をつける。――と、彼の手から色が、音が、香りが――「命」が溢れ出す。先ほどまで沈黙していた湖は再び、その光を反射するように鼓動を奏で始めた。ただ異なるのは、湖面を満たす「水」であること。

 バチャン! と魚が鱗を光らせ、力強く湖面を跳ねた。


(……行こう)

 手袋をつける。これ以上「命」が笑いかけてくるのに耐えられず、モルテは歩き出す。

「アナモルテ」

 ゲルミナスが呼び止めた。その抗いようのない声音に、彼女の足は止まる。

(……何)

「貴女が『死』をもたらしてこそ、私の力が輝くのです。目を逸らしてはなりません」

 振り返ると銀の瞳がモルテを射抜く。彼女のベールの奥まで見透かされたようで、モルテは居心地悪そうに身じろぎをした。

(分かって、いるわ)

 漆黒のまつ毛に縁取られた瞳が伏せられる。

 この旅は、贖罪の巡礼なのだと。





頭こんがらがるかもしれませんが、ここはまだ序章。ヒロインはモルテでお願いします。

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