第3章 第41話 八十階層の死線
迷宮七十八階層。
森林フロアだった。足場を作って高所からの確認をする。特にこれといった構造物は見当たらない。六十二階層と同じような印象だった。おそらくまた樹形霊の魔物が混ざっていて、下り階段を隠しているパターンだろう。
「何体かいると思いますが……。とりあえず魔力反応や生命反応から辿って狩って行きましょう。探知から討伐までどうぞ」
エイルが先に手を翳して道を譲る。促されるままに先を行くラクスレーヴェが停止の合図をして振り返った。
「何ですか?めちゃくちゃデカくないですか?」
ラクスレーヴェが困った顔でこちらを見て来る。
幹の太さが直径三メルありそうな程にご立派な大木である。
「金気を込めた刃物、もっと言えば伐採の概念が籠った斧に金気で刃を強化して殴って伐採するか、五行相生で金行を高めて撃つかした方が安全そうですね」
「う~。まだ属性を練り込んだ錬気切り替えまくるのは難しいです。斧貸して貰っても良いですか?」
「あ、私も使ってみます」
ラクスレーヴェとアーシェスはエイルから斧を借りると、金行の気を注ぐ。拙いながらも金行の気を纏えたことを確認し、送り出す。
「大丈夫そうですね。行ってらっしゃい」
ラクスレーヴェとアーシェスは左右に分かれて配置に着くと、大きく振りかぶってフルスイングを幹に叩き込む。
「GYAAAAAAAA!!」
樹形霊が人面のような洞を浮かばせて絶叫する。それに構わず、二人は繰り返しフルスイングを当て続ける。
樹形霊がたまらず根を地面から抜き出して触手のように攻撃を放つ。二人は伐採に集中出来なくなり一旦距離を置く。根を迎撃して断っても次の根が襲ってくる。
「金気って何気に難しいですよね?イメージし難いというか」
「金行の気で刃を作ったりは出来るんでしょうけど、燃費が悪いしすぐ消えちゃうし」
確かにそうかもしれない。発想と応用次第ではあるのだが。エイルが小鎚を手に持ち、金行の気を圧縮させて作った楔を持ち、樹形霊に迫る。
根を掻い潜り幹に辿り着くと、楔を幹に添えて小鎚で打ち込む。すると、埋まり込んだ楔の先が分裂し、増殖し、幹の中に根を張るように、内部から食い荒らす。
「GYAAAAAAAA?!」
内部から破裂させられ、幹が大きく弾けた。エイルは逆サイドに回り込んで逆サイドからも楔を打ち込み、内部から食い荒らす。
「GHrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」
「後は斧で頑張って」
エイルは二人に声援を残して後ろに下がった。
左右から大きく幹を抉られた樹形霊は、追撃の斧を受けるうちに自重を支えきれなくなり倒木した。
マツリが樹形霊の死骸を根ごと回収すると、根が張られていた場所から下り階段が現れた。
迷宮七十九階層。
七十八階層に続いて再びのネイチャーフロアだった。薄暗い入り江に座礁した船が、墓場のように積み重なっていた。
「これはまた……。雰囲気はあるけど」
「絶対アンデッド系だよね?スケルトン海賊とかスケルトン船長とか居そう」
エイルのぼやきにマツリが追従する。
「生命感知には引っ掛からないけど、魔力感知は引っ掛かるんだよね」
「うぇ、絶対アンデッドじゃない。せめて腐りかけは嫌ね」
スケルトンなどはバラバラに崩れても破片が寄り集まって復活したりする。魔力的な核を魔力を込めた攻撃で破壊すれば、復活はしなくなる。
マツリに頼んで、アーシェスとラクスレーヴェの長剣に魔力を付与してもらう。抜き身の剣が照明のように明るく光って目立っているが、生命感知で寄って来るアンデッドには関係がない。
入り江の船を探索し、予想通り現れたスケルトンはアーシェスとラクスレーヴェが処理していく。心の準備さえしておけば、突然現れてもなんとかなる。途中船長帽を被ったスケルトンもいたが特に問題なく倒せた。何隻か渡り歩いて探索をしていると、船倉に下り階段が見つかった。
「船の底に下の階層に行く階段?さすがダンジョン理不尽」
構造上ありえないがあるのがダンジョンの理不尽さの一つだ。そういうものだと諦めるしかない。
迷宮八十階層。
巨大なワンルームのフロア、あるいはボス部屋のみの階層というところか。
針のような剛毛と頑丈そうな鱗を持つ、獣と竜の中間というような姿の魔物だった。狩りに使うのだろう、鋭く尖った角が前方に張り出している。尾は獣より竜に近い重厚感があるモノだった。
「翼はないけど地竜の一種?」
マツリがそう呟くと、エイルが眉根を寄せて考える。
「どちらかというと地の獣じゃないかな?土とかの魔法に気を付けて。土魔法使ってきたら樹魔法で相剋を」
エイルの呼びかけに、全員が心の準備をして集中力を高める。
「マツリと私も戦います」
エイルは大太刀を抜き身で肩に置き、マツリは大身槍を構える。
「マツリ、逆サイド任せる」
エイルは短くそれだけ伝えると、地の獣に駆けていく。
地の獣は迎え討つため姿勢を低くし、獰猛に唸り声を上げる。
「Groooon……」
するとエイルの進行方向の地面から岩槍が飛び出し、エイルはそれを躱しつつ攻め入ろうとする。マツリもエイルとは逆サイドに駆け寄り、エイルに気を取られている地の獣の脇の下に向かって樹属性の魔力を込めた大身槍を刺し込んで捻る。
「GAAAAAAA!」
背甲と蛇腹の隙間を巧く突いたのか、かなり深く突き刺さっている。マツリ側、というより刺された傷を庇うように身体を捻り、暴れる地の獣の動きを見定め、振り向きざまの顔面へと渾身の斬り下ろしを仕掛ける。刃は片目を切断したが、致命傷には浅かった。
ラクスレーヴェとアーシェスが突きを主体に攻撃を続け、苛立ちを誘う。地の獣が自己を中心にした【岩雪崩】を発動して纏わりつく敵を押し退けようとする。
エイルは地の獣の角に捕まり、頭部に避難する事で【岩雪崩】をやり過ごした。マツリは大丈夫だろうが、ラクスレーヴェとアーシェスは【岩雪崩】の直撃を喰らっていそうだ。
ベヒモスが頭部に張り付いた異物を引き剝がそうと更に暴れる。大太刀は異空間収納にしまい、剣帯から打刀を鞘ごと抜き出して、潰した片目にその鞘の先端、石突金物を捻じ込んだ。樹の魔力を強く帯びているその鞘を媒体として、【樹根】を発動させた。
地の獣の眼窩から体内へと根が張り巡らされていき、脳を破壊すると、身体を大きく痙攣させて動かなくなった。
【岩雪崩】を避け損なって手傷を負ったマツリが死骸を回収し、片付いた事に安堵する。
エイルは倒れているラクスレーヴェとアーシェスに駆け寄ると息の有無を確かめ、安堵した。打ち身や擦過傷などの治癒をはじめる。至近距離で岩の弾幕のような攻撃をくらい、よくぞ致命傷を避けてくれたと思う。弟子たちはこちらが思っている以上に成長しているのかもしれない。
マツリも自分の傷はナノ・ユニット任せにして、アーシェスの治療をはじめた。
ある程度状態が落ち着いたところで下り階段の部屋へと二人を運び、【コンテナ・ハウス】を出してベッドに寝かせておいた。甲冑衣装はマツリがパージさせて、楽な恰好にさせている。
「とりあえず、もうちょっと寝かせておこう。私達だけ先にご飯にしよ~」
マツリが空腹を訴えるので、エイルも便乗して屋台メシで慰労会とする。
「結構危なかったな。マツリも腕折れてなかった?」
「うん、頭だけは何とか庇えたけど、腕と肋骨は折れてた。ナノ・ユニットさんが修復済みだけど」
「治るっていっても痛いもんは痛いだろ」
エイルは串焼きを頬張りつつそう指摘する。
「痛いって泣いても痛くなくなる訳じゃないしね」
マツリは肩を竦めてそう言う。
「二人が起きたら、今回は切り上げて帰ろうかね」
「うん、もう十分堪能したし。最後は結構危なかったし、良い頃合いだと思う」
その後、二人が起き出して空腹を訴えたため、食事を摂らせてシャワーも浴び
に行かせた。その間にマツリが貸し出した甲冑衣装と長剣を回収して、元の衣服を脱衣所に用意している。元の武装の方はリビングに置いてあった。
「(帰ったら気配探知と気配遮断あたりから練習だな)」
今後の二人の訓練メニューを考えながら、彼女らの戻りを待った。
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